第5話 緊急警報

 温泉で火照った体を、魔導列車の空調で、ちょうど良い温度になるまで冷ます。

 しばらくして、体の火照りが治まると、セイは後部座席へと腰を下ろした。

 後部座席から、車窓の外を眺めていると、ミコトが横に座り、キッと睨むようにセイに話し掛けてきた。


「アナタ、セイだったかしら? メイとはどういう関係?」


 ミコトの質問はセイが一番知りたいことであった。


「ごめん、ボクはここにクるまでのキオクがないんだ。ボクのことはメイにキいておくれ」


 しかし、何も知らないセイは、上手く答えることが出来ず、しゅんとする。


「メイ。アイツ、あんなこと言ってるけど、アナタたちってどういう関係?」


 クリクリした団栗眼が、じっとりとメイを見据える。


「貴方には言わない。でも、これだけは言っておくわ。セイとわたしは切っても切れない関係よ」

「何よそれ。恋人関係とでも言うの?」

「ふふっ、もっと濃い関係よ」


 意味深に笑うメイだったが、その笑顔がいつもと違っており、ミコトの目が大きく見開かれた。


「んもー! 何なのよ、それ! はっきり教えなさい!」


 癇癪を起こしたかのように、地団駄を踏むミコト。

 頬を膨らましたその姿は、やっぱり小動物ようであった。


「フタリはズイブンとナカがイいんだね」


 仲睦まじい二人の様子を見て、セイは微笑ましそうに小さく笑った。


「そりゃあね。あたしたち、死神の同期なのよ。さっき言ってた番号も、一つしか違わなかったでしょ? つまりはそういうこと。だから、アナタなんかよりあたしの方が、メイのことは詳しいんだからね!」


 少し怒ったかのような剣幕で、ミコトはさも自分の方が偉いと言わんばかりに、セイの鼻先に指を突き付ける。


「そうなんだ。じゃあ、メイのこと、もっとイロイロキきたいな」

「聞きたいって何が聞きたいのよ?」

「メイのことなら、なんでもいいよ。ボク、メイのこと、ナニもシらないから」


 朗らかな笑みを浮かべるセイだったが、突然の何も知らない宣言に、ミコトは怒りをあらわにする。


「ちょっと! それで切っても切れない関係って、どういうことよ!」

「そもそもボクは、ジブンジシンのことも、ナニもワからないんだ」


 困った顔で、セイは大きく俯いた。


「はあ!? 何よそれ。アナタ馬鹿なの?」


 喚声かんせいを上げたミコトは、呆れた顔付きで両手を上げ、首を横に振った。 


「そうだね、ボクはバカかもしれない」


 苦笑いするセイに、ミコトはぷっと吹き出す。


「変な奴!」


 それを見たセイは、ニコリと微笑んだ。


「さあ、もうすぐ次の世界に着くわよ」


 二人の様子を見ていたメイは、くすくすと声に出して笑った。


「セイ、アナタ面白いわね。あたし、アナタのこと気に入ったわ」

「ありがとう。ナカヨくしてね、ミコト」


 セイとミコトは握手を交わす。それを見ていたカバネは、眼福そうに口を開いた。


「ふふっ。仲がよろしいですわね、お二方」


 カバネがニヤニヤしながら、セイとミコトを見ていると、メイがふて腐れた顔で、ポツリと呟く。


「……ミコト」

「な、何よ?」

「セイはわたしのものだからね」


 そう言って、キッと見据えるメイだったが、ミコトの顔が真っ赤になるのを見ると、思わず笑ってしまうのだった。


「ななななな何言ってんの! ばっかじゃないの! ベーだっ!」


 初々しいその様子は、どこまでも心和むものであった。


「モテモテですわね、セイ。わたくしもあなたのことは大好きですわよ」


 隙ありと言わんばかりに、セイに抱き付くカバネ。そんなカバネをメイは、無理やり引き剥がそうとする。


「こら! 貴方、セイの元から離れなさい!」

「うふふ、嫌ですわ。これがわたくしの素直な気持ちですわ」


 カバネはセイの頭を引っ掴むと、自分の胸に深く埋める。


「むぐぐぐぐぐぐぐ……!」


 ふわふわと柔らかい胸の中で、苦しそうに身悶えるセイだったが、その様子はどこか幸せそうだった。

 心の底から嬉しそうに、耳の先まで真っ赤にしているセイを見て、メイは慌てふためく。


「セイ! カバネなんかに欲情しちゃ駄目よ!」

 『欲情するならわたしだけにしなさい』。


 メイが小さくそう言ったのを、ミコトは聞き逃さなかった。


「アナタがそんなに血相を変えるなんて珍しいわね……。長い付き合いだけど、意外な一面が見れたわ……」

「落ち着いてないで、貴方も手伝って! この女から、セイを引き剥がすのよ!」

「……はいはい」

 その時、突如として、車内におどろおどろしい警報音が鳴り響く。

 

 ウウウウウウウウウウ!

 ウウウウウウウウウウ!


「あらあら、この音は何かしら?」


 カバネはセイを抱きながら、キョトンとした面持ちで、メイを見やる。


「これは、魔導列車に異常があった時の、緊急警報よ!」


 青ざめた様子で、メイがそう言うと、慌てた様子で、ミコトが叫んだ。


「ど、どうしたらいいのよ!?」

「初めてのことで一瞬焦ったけど、肝心なことを忘れてたわ。魔導列車は、神様がお創りになられた、意思を持つ乗り物じゃない。きっと自分で何とかしてくれるわ。恐らく今は、自己修復中でしょ」

「なんだ……。それを早く言いなさいよ!」


 しかし、そういった矢先、

 魔導列車は横転したような形になる。

 四人の乗客は――大きな悲鳴を上げながら、車内の壁に叩き付けられ、そして意識を失うのだった。

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