第39話 瞬殺
「……ふざけるなよ、武蔵野純一」
すると、二階堂がさくらちゃんを風で浮かせ、お姫様抱っこをすると、俺を睨みつけた。
「俺は産まれたての赤ちゃんなんだぞ!?!? そんな俺を殺して母親から子供を奪うなんて、そんな残酷なこと、許されるとでも思っているのか!?!?!?」
「ふざけ、るな……お前みたいな猿を、産んだ覚えはない」
さくらちゃんの言葉を無視して、二階堂は「大丈夫、マッマ、俺がマッマを守るから!!!」と絶叫すると、彼を取り囲う風がさらに強まり、魔石を巻き込んだ竜巻になって上に伸びると、天井がザクザクと音を立てて崩壊していく。
「ふふ、はははっ、凄い、凄い力だ!! これが真実の愛の力か!!」
太陽の光がダンジョンに差し込み、俺たちを照らす。竜胆が「きゃぁっ!?」と吹き飛ばされそうに、おっぱいをむんずと掴み、裸足を地面に食い込ませて飛ばされないようにした。
しかし、そうしているうちにもダンジョン一階層は壊されていく。このままじゃ、食い込ませる地面もそのうちなくなるな。
「はっはっはっ、俺の風は無敵だ!! もう二度と俺たちに近づくんじゃない!!」
”うわああああああああああああ!?!?!?”
”おいおいなんだこれ!?!? カメラが吹き飛ばされててわかんねえ!?!?”
”オエッ”
”おい待て、天井に穴開いてねぇか!?!?”
”ダンジョンの周りって特殊な岩壁に囲まれてて、穴を開けられないって話じゃなかったのかよ!?!?”
”どうすんだよこれ!?!? このままじゃ二階堂が地上に出てきちまうじゃねぇか!?”
”おいこれ見てみろ!?!? 武蔵野に突如巨大なタイフーンが現れたってよ!!”
”武蔵野市民だけどマジでヤベェ!! うちのボロ屋マジで吹き飛ぶ!!!”
”風やべえええええええええええええええええ!!!!”
”おい今窓の外見たんだけどヤベェ!! でっかい竜巻みたいなのが地面から出てきてる!!”
”SNSで動画回ってきてるけどマジで終わりだよ日本!!”
”でっか……”
”見た。あんなのが地上で暴れ回ったら、一体何人死人が出るんだよ……”
”ヤベェよ……ヤベェよ……”
”¥78800 お願い偽善者ニキ! 食い止めてくれ!!”
”¥78800 偽善者ニキに日本の未来がかかってるんだ!!”
”でもこんな風吹いてたら、近づくどころか吹き飛ばされないだけ精一杯じゃねぇか!?”
”偽善者ニキは基本素手攻撃だからマジでどうするんだ!?”
”日本終わったああああああああああああ!!!”
”え、俺東京なんだけど、もしかしてヤバイ!?”
”ヤバイよ! 今すぐ配信きって逃げろ!!”
”やべぇwwww警報うるせえwwwww”
”十五年前の再現だ!!”
”¥78800 私は逃げない。偽善者ニキを信じる”
「やれやれ、二階堂、本当にバカなんだなぁ」
俺は重りでしかない竜胆を土の中に刺しておいて、二階堂の素手で二階堂の胸を貫いた。
「許されないようなことだから罰になるんだろ? そんなこともわかんねぇのか?」
「……あ、ああああああああああああああああ!?!?!?!?!?!?」
”え?”
”え?”
”え?”
”え?”
”え?”
”え?”
”え?”
”えええええええええ!?!?!?!?”
「なっ、なんでだ!? 俺の風は、鉄壁のはずなのに!?!?!?!?!?」
「え? ああ、いや、なかなか気持ちのいい風だったけど、鉄壁? そんな話いつしたっけ?」
ダンジョンの一階層なんかジメジメしてて風が欲しいなって魔石採掘をしてる時とか思ってたし、扇風機代わりにいいかもしれないぞ。
”???”
”!?!?”
”え?”
”は?”
”え、これ決着ってことでいいの!?”
”逃げなくていいってこと!?”
”マジか!?!?!?”
”えええええええええええええええええ!?!?!??”
”風も止まったしマジで倒せてるっぽいぞ!?!??!?!”
”¥200 ボロ屋は吹き飛んだけど俺は無事!!!! ありがとう偽善者ニキ!!!”
”すげえええええええええええええええ!!!”
”¥78800 偽善者ニキありがとう!!”
”¥78800 あなたは神様です!!”
”¥78800 日本を救った英雄!!”
”¥78800 これお布施です!!!”
”¥78000 マジでいくらでも払う”
”¥78800 これで五回目。破産してもいい”
”¥78800 私は武蔵野市在住の高齢者です。もしこのままダンジョン災害が起こるようなら、諦めて死のうと思っていました。本当にありがとうございます
”待て待てみんな落ち着いて! さくらちゃんがいるからまだ終わってないぞ!?”
”え、おい待て、二階堂、まだ元気じゃね!?”
”まだ終わってねぇぞ!!!”
”そりゃ二階堂はバケモンなんだ、胸を貫かれた程度じゃ死なないんだよ!!”
「くそ、くそっ、くそっ!!」
すると、二階堂は抱いていたさくらちゃんを放り投げて、俺の腕を掴んで必死に引き抜こうとする。おいおい、真実の愛ってのはそんな簡単に捨てられるモンなのか?
「うぐっ! うぐぐぐぐぐぐっ! いぐっ!」
「そんなに抜きたいのか? ま、別にいいんだけどさ」
ずるんっ!
俺が腕を引き抜いてやると、勢い余った二階堂はどしんと尻餅をついた。
そして、自分の穴の空いた胸すぐさま再生する。さすが魔人だけあってとんでもない再生能力だが……。
「ちょっと早いんじゃないか、二階堂」
俺は、手の中のものをコロコロ転がしながら、二階堂に話しかける。二階堂は目を見開いて、
「それ、俺の心臓か!?!?」
「ん? ああ。そうだよ」
”うおっ!?!?”
”心臓!?!?”
”二階堂の心臓ちっちゃ”
”てかなんで心臓抜かれてんのに二階堂は平気でしゃべってんだよ!?”
”もう二階堂は魔物なんだから、人間の常識は通用しないんだよ!!”
”はぁ!? じゃあどうやって殺すんだよ!?”
”潰せばいいだろ!! スライムの核みたいに!!”
”なるほど!!!”
”¥78800 それなら偽善者ニキの得意技だ!”
”¥78800 行け、心臓握りつぶしニキ!!!”
”¥78800 潰せええええええええええええ!!”
”¥78800 心臓潰して♡”
コメント欄の期待通り、魔人といえど、心臓を握りつぶせばまず間違いなく絶命する。しかし、オークの心臓ならともかく、レアな魔人の心臓を握りつぶすのは勿体無い。
「か、返せええええええええええええ!!!」
「よっと」
二階堂が必死に伸ばした手を、手刀で細切れにする。
そして、絶叫する二階堂を背に、なんか知らんが地面に突き刺さってる竜胆の元へと歩み寄る。勿体無い気もするが、俺の生きる目的を気づかせてくれたこの女に、礼をしなくては筋が通らない。
「竜胆、確か心臓好きだったよな。ほら、やるよ」
と言うことで、唖然としている竜胆の口に、心臓を突っ込んだのだった。
竜胆は、しばらくの間動かなかったが、心臓のエグ味が舌に伝わったのか、苦悶の表情に変わっていく。
「うおえええええええええ!!!」
そして竜胆は、思いっきり心臓を吐き出すと、そのままの勢いで嘔吐したのだった。
「こら、勿体無いでしょ!! 食べ物を粗末にしない!!!」
全くもう、これだから地上の人間は駄目なんだ!!
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