第38話 遅れてきた反抗期
「……あぁっ!?!?!?」
苦痛の悲鳴を上げると同時に、さくらちゃんが逃げようとするので、俺はすかさず傷口に手を捩じ込んだ。さくらちゃんの絶叫がダンジョンに響き渡る。
”!?”
”うおおおおおおおおおおおおお!?!?!?”
”よし!!!!”
”ナイス!!!!”
”あぶねえええええええええ!!!”
”よかったあああああああああああああああああああ!!”
”マジで死んだかと思ったぞ!!!!”
”¥60000 心配させんな!!!!”
”¥20000 よく立て直した!!!!”
”偽善者ニキ、今すぐ回復魔法!!!”
”¥78800 いやすぐにその女殺せ!!”
”¥78800 マジでその女やばい!! 絶対二階堂と同じ魔人だ!!!”
”¥78800 ただの踏み付けで地震起こすようなバケモンが地上に出てきたらマジで日本終わる!!!”
”¥78800 マジでそいつのせいで家の中むちゃくちゃや!!!”
”¥78800 偽善者ニキ、頼む!!!!”
”¥78800 お願い、頑張って!!!”
「うううううううぅぅぅぅぅぅ!!!!」
すると、さくらちゃんは自分の足を、俺の切り口よりも深い部分からずばっと自切して、後方に大きく飛び退く。そして、すぐに切り口から三本足を生やした。
”!?”
”!?”
”ヒエッ!?”
”え、バケモン?”
”なんちゅう高度な回復魔法だよ!?”
”いや、これ回復魔法か? 回復魔法なら元の足に戻るはずだろ!?!?”
”だからやっぱ佐藤さくらも魔人なんだって!!!”
”やばい、震えが止まらない”
”二階堂の殺気もやばかったけど、
”このままじゃやばくないか!? 地面に穴開けてでも救助しに行けよ!!”
”馬鹿か! そんなことしたらこのバケモンが地上に出てきちまうだろうが!”
「ああ、心配するな。もう大丈夫だ」
つい先程まで最低のコンディションだって言うのに、今は最高にハイだ。この不安定さも、人間としての真っ当さだと思えば愛らしくすら感じる。
俺は立ち上がると、恐怖に顔を歪ませているさくらちゃんに笑いかけた。
「はは、ずいぶんビビってるみたいだけど、安心しろよ。お前は半殺しで許してやるからよ」
”うおっ!”
”余裕の勝利宣言かよ!!”
”¥78800 偽善者ニキカッケー!!!”
”¥78800 やっちまえ偽善者ニキ!!!”
”¥78800 っぱ偽善者ニキよ!!!”
”え、でも待て、半殺しってことは殺さないってこと!?”
”ほんまや”
”なんでや!?”
”そりゃ、魔人って決まったわけちゃうし……”
”まぁそうか。人殺しになっちゃうもんな……”
”いやでも、どう考えても正当防衛成り立つだろ!!”
”やっぱさくらちゃんが美人だからだろ。竜胆から乗り換えるつもりだろ!!”
「……どういう、意味だ?」
「ああ、お前にはメッセンジャーを任せる」
「……メッセンジャー?」
「ああ、そうだ、伝えてくれ! 俺はすっかり反抗期になっちまったってよ!!」
「!!?」
”??”
”???”
”????”
”????!?!?!?”
”え、何言ってんの?”
「だから、これからバンバン人間を助けていくから、そこんとこよろしくってよぉ!!」
「…………この、親不孝ものが!!!」
”!?!?!?”
”ファッ!?”
”いやなんでだよ!?”
”え、聞き間違い? 親不孝ものっつったよな?”
”生配信なのに編集入った!?”
”草wwwww”
”そんな場合じゃないってわかってるけど笑ってもうたわwww”
”まあ、魔人と変人の会話なんて、我々一般人にはわからんよwww”
「はは、そりゃ、最高の褒め言葉だ!!」
「黙れ!!!」
さくらちゃんの四本の足が、ぼこんと膨れ上がった。その足で地面を蹴ると、その瞬間、さくらちゃんの姿が消えた。
ほう、さくらちゃん、全力だな。こうなると、魔法による身体強化を使わないと、視認することは難しい。そして、身体強化の魔法を使うだけの時間は、残されてはいないだろう。
ま、だからなんだって話なんだがな。
俺は、何気なく上段蹴りを放った。ちょうどそこにさくらちゃんの首が来て、ぼきりと音を立ててひん曲がった。
「!?!?!?」
さくらちゃんは驚いきこそしたみたいだが、もちろんこの程度で死ぬはずもない。
魔人の回復能力によって首の骨折を治しながら、俺の蹴りの衝撃を空中で身体を回転させることで受け流し、ダンジョンの壁に着地すると、再び神速で消えてみせる。
俺は上段蹴りの勢いを利用して、今度はワンテンポ遅らせて回し蹴りを放つ。
やはりフェイントを入れていたさくらちゃんの後頭部に蹴りが被弾。再び首が折れるが、やはり致命傷にはならない。全く、所詮は人間の形をした魔物ってことだな。
それから0.001秒の間に、千を超える攻防があった。俺は全ての攻撃を受け流し、全ての攻撃をさくらちゃんに被弾させたのだった。
「うぐっ!」
魔人の回復能力でも対応できなくなったのか、さくらちゃんは地面に倒れ伏せる。
俺はその頭を思い切り踏みつけて、脳みそを破壊しちまったら半殺しじゃなくて全殺しになっちまうと思いとどまった。
”!?”
”何が起こった!?”
”佐藤さくらやられてるやんけ!!!”
”え、勝ったの!?”
”おい、スーパースローでも全く見えねぇんですけど!?”
”スーパースローでも捉えられないくらい速いってことかよ!?”
”バケモンすぎんだろ!? 偽善者ニキよく倒せたな!?”
”¥78800 もはや俺たち凡人じゃ理解できない領域なんだな……”
”¥78800 なんか知らんが偽善者ニキすげええええええ!!!”
「……あなた、見えているんですか!? たかが人間のくせに!!」
「ん? 見えてないよ? ただの勘」
”は?”
”え?”
”!?!?”
”勘!?!?!?”
”おいおい、そんな不確実性の高いもんに避難民たちの命が懸かってたのかよ!?”
”偽善者ニキ真剣にやれ!”
”いや、ただの勘じゃない。偽善者ニキの勘だぞ!何よりも信用できるわ!”
”¥30000 すげぇ……偽善者ニキ、マジの天才じゃねぇか”
”武蔵野純一天才! 武蔵野純一天才!”
「嘘をつきなさい!! ただの勘で、私の攻撃が防げるはずがない!」
「そりゃ、お前に才能がないからだろ」
「……ふざけるな!! お前ら人間どもが、この私が劣るわけがないだろう!!!」
相変わらず口うるさいなぁ。もう脳みそ潰しちゃおっか……いやいや、それでは半殺しじゃなくて全殺しになってしまうか。
俺は有言実行の男なのでちゃんと半殺しにしたいところだが、よく考えたらいくらこいつの身体を痛めつけようが、すぐに治っちゃうしな。はてさて、どうしたもんかな……っと。
……ヒュォォォォォォォォォォォォォォン!!!!
「さくらちゃんを、虐めるなあああああああああああああ!!!」
すると、二階堂の形に空いた穴から、強烈な突風が吹き込んできて、俺の元に二階堂の絶叫を届けた。
俺や竜胆レベルだったらともかく、他の連中は吹き飛ばされて、壁に打ち付けられて口から内臓を出すのがオチだ。
「おい二菜、いつまで死んだフリしてんだ! とっとと他の人間どもを連れて逃げとけや!」
すると、大の字で寝そべっていた妹が、ギロリと俺を睨みつける。
「はぁ!? なんで私がそんなことっ」
「なんだ、だったらさくらちゃんと戦いたいか? 今からお前と一対一させてもいいんだぞ?」
ジタバタ暴れるさくらちゃんを差し出すと、二菜はチッと舌打ちをする。
そして、「ほらこれ、暗黒毘沙門天玉! あげるからついてきて!」と言うと、固まっていた人間たちが目を輝かせて、「あ、暗黒毘沙門天玉! 欲しい欲しい!」と、二菜を追いかけていく。へぇ、暗黒毘沙門天玉、人気あるんだなぁ。
「あ、竜胆は残れよ。お前にも今からの戦闘を配信してもらって、その金は全部いただくからな」
他の連中に倣って二菜を追っかけようとしていた竜胆の背中に声をかけると、竜胆は後ろ髪を引かれる様子で二菜たちを見送ってから、頬を膨らませて俺の方を振り返る。
「……私も、欲しかったんだけどな」
「後で妹に頼めばいいだろ!! 全く、何がいいんだあんな玉っころ! ほら、とっととカメラ回せ!」
ビュュォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!
風がさらに強まり、ダンジョンの壁がボロボロと崩れて飛び交う、俺はすかさず竜胆を抱き寄せ、降りかかる魔石を全て粉々に砕いた。
「さくらちゃんは俺のマッマだ!! これ以上マッマを傷つけるな、武蔵野純一!!」
壁を破壊しながら現れた二階堂は、もうあからさまに人のそれではなくなっていた。よし、これなら別に殺しても問題にならないよな……ん?
「マッマ? そうなのか? さくらちゃん」
「……そんなわけ、ないでしょう」
そう答えると同時に、さくらちゃんは地面に穴を開けて俺の踏み付けから逃れると、再び俺に攻撃を仕掛けてくる。
……いや、お前はマッマだよ。正確には今からマッマになるんだ。
何せ、非常にいいアイデアを思いついたのだ。これも、地上に出なければ思いつかなかったことだろう。
俺はさくらちゃんの腹に拳を打つと、さくらちゃんのはらに大きな穴が空いた。
「やめろおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
二階堂が叫び、風を纏いながら俺に突撃してくる。格としてはさくらちゃんと一緒になったみたいだが、まだまだ遅いな。
「よし二階堂!! お前の望み通り、お前をさくらちゃんの子供にしてやるよ!!」
俺はそう叫ぶと、さくらちゃんの足首を掴んで、二階堂へと振り下ろした。
つるんっ!
結果、空いた穴に二階堂がすっぽり収まったのだった。
「……アピャアアアアアアアアアアアアァァァ!?!?!?!?!?!?」
二階堂の風のせいで、さくらちゃんは奇妙な悲鳴をあげるが、もう少し頑張ってほしい。
「ほら、さくらちゃん、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー!!」
「アピャアアアアアアアアアアアアァァァ!?!?!?!?」
「いや、アピャアアじゃなくって、ヒッヒッフー!」
「アピャアアアアアアアアアアアアァァァ!?!?!?!?」
「チッ、もういい! お前、マッマ失格だよ!!」
俺は二階堂の頭を掴んでさくらちゃんから引き摺り出すと、すかさずチ○ポを殴った。二階堂は「ぎゃああああああああああああああ!!!」と泣き声を上げる。
これはまさしく、産まれたての赤ん坊が泣き叫ぶ様子にそっくりだ。
俺はめいいっぱいの笑みを浮かべ、拍手で祝福した。
「おめでとう! これで、さくらちゃんは、正式に二階堂のマッマだ!」
「……は?」
身体を治すことも忘れて、俺の方を唖然と見るさくらちゃん。俺はやれやれと肩をすくめた。
「だからぁ、今こいつはお前の腹から出てきたんだから、お前の子供ってことになるだろ? なぁ、二階堂!」
「……ま、まぁ、それはそうかもしれないな!」
二階堂は鼻の下を指で擦り、ずいぶん嬉しそうだ。俺は二階堂の肩をポンと叩く。
「いやぁ、よかったよかった! それじゃあ二階堂、今からぶっ殺すな!!」
「……?????」
「なんかマッマって、自分が産んだ子は自分と同じくらい大切らしいぜ! つまり、お前を殺せば、さくらちゃんを半殺しできるってことだろ!」
””
””
””
””
””
””
「……あれ、俺、なんか変なこと言っちゃいましたかね?」
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