第37話 魔人、二階堂晴人
「おっぱいを吸わせろだばふぅぅぅぅぅぅ!!!!」
風を纏った二階堂が、竜胆めがけて飛びかかる……速い!!!
「何言ってんだ!! 俺のおっぱいだあああああああああ!!!」
俺は二階堂の脇腹に蹴りを食らわす。二階堂は吹き飛んで、ダンジョンの壁に埋まった。
「……ふは、ふはは、ふははははっ」
そして、壁に埋まったまま、高笑いを始めた。
「全く、全く効かないぞ!!! 武蔵野純一!!! やっぱりお前は雑魚なんだぁ! 俺は、俺は間違っていなかったぁ!!!」
”え?”
”マジか!?”
”俺たちの目には見えないくらいの蹴りだったのに!?”
”スーパースローでよく見てみろ!”
”あ!”
”偽善者ニキの蹴りが突き刺さる前に風の防御壁でガードしてんのか!?”
”つまり、二階堂のやつ、あの蹴りが見えてたってことかよ!?”
”見えてたどころか、そっから魔法を展開してガードしたんだぞ!?”
”偽善者ニキの論理では、魔法は遅いから使わないんだよな!? その魔法で対応されちゃってんじゃん!?”
”二階堂、マジでバケモンになっちまったんじゃねぇか!?”
”【速報】ダンジョン庁、二階堂晴人をSS級魔物に指定”
”マジか!?!?!?”
”え、てことは、二階堂もう人間じゃないってこと!?”
”そりゃそうやろ。こんな人間いてたまるか”
”え、人間って魔物になるの!? 嘘だろ!?”
”人型の魔物、通称魔人が一度地上で暴れ回ったけど、ダンジョン庁がもみ消したって都市伝説、マジだったのか!?”
”なんだよそれ!? 勝ったんじゃなかったのかよ!?”
”¥20000 偽善者ニキ、頑張ってくれ!!!”
”¥50000 偽善者ニキ頼む!! こんなのが地上に出てきたらおしまいだ!!”
”¥30000 すぐに勝って、こいつでまともなもん食ってくれ!”
”¥50000 勝ってくれたらもっと出すから! 偽善者ニキ頼むぞ!”
”¥78800 焦るな愚民どもwww偽善者ニキなら余裕に決まってんじゃんwww”
”武蔵野純一最強! 武蔵野純一最強!”
「竜胆のおっぱいは俺のもんだぁ!!!!」
二階堂は壁に埋まったまま、高く足を振り上げた。
びゅん!!!
と、風の刃が、俺めがけて飛んでくる。今までの二階堂のそよ風とは明らかに違う、殺傷能力のある風だ。
「っと」
と言っても、本来だったら十二分に避けることができるはずの攻撃だった。
しかし、やはり心のモヤモヤが原因か、二階堂の風の刃が俺に直撃する。
ぶしゅっ!!!
そして、俺の身体から血がなみなみと吹き出した。
「おお!!!」
血を流すのは久々だ! やるなぁ、二階堂!
”うわあああああああああああああああ!?!?!?”
”おいマジかよ!?”
”偽善者ニキ!?”
”嘘だろ!?”
”偽善者ニキがやられたら誰が二階堂を止めんだよ!?!?!?”
”ははwwwやっぱ大したことないじゃん偽善者ニキ”
”こいつ、偽善者のくせに好感度高くてムカついてたから気分いいわwww”
”ざまぁwwww”
”¥78800 これくらいしかできない。頼む偽善者ニキ”
”¥78800 偽善者ニキ頼むよ!!”
”¥78800 偽善者ニキ死ぬな!!”
”¥78800”
”¥78800”
”¥78800”
”金払ったところでどうにかなんのかよこれ!?!?”
”もうおしまいだああああああああああ”
「武蔵野くん!」
すると、二菜をほっぽり出して俺の元にやってきた
「ふふふ、竜胆、これで君のおっぱいは俺のものだ! 早く服を脱いで俺におっぱいを差し出せ! それがママの役割だろう!」
「……さっきからなんなんだ君たちは!! 私のおっぱいは私のものだ!!」
竜胆が正論を言うと、上機嫌だった二階堂が一気に不機嫌になる。この感情の乱高下も赤ちゃんっぽくて、俺としてもここまでやり切られると悔しい限りだ。
「……ふん、それならもういい。竜胆、お前を殺してその死体を貰う事にする」
途端、二階堂の身体から禍々しい殺気を纏った魔力が放たれた。
その瞬間、コメント欄がピタッと止まる。
どうやら画面越しでも、この殺気が伝わり文字を打てなくなったようだ。その殺気を直接浴びた竜胆も、俺に回復魔法をかけたまま固まってしまった。
今の二階堂相手に、10パーセントで足手纏いがいる状況下、なかなか悪くないな……おい待て、冗談だろ?
あまりに馬鹿げたことだったので、俺が気配を読み違えたのかと思った。しかし、何度確認しても、やはり、結論は変わらない。
画面越しにも、身動きが取れなくなる殺気に満ち満ちたこの場所に、生き物の大群が向かってきている。
雰囲気から、魔物ではない。ていうか間違いない。人間だ。
大量の人間が、こちらに向かってきている。
「……武蔵野!!!」
その先頭に立っていたのは、魔石採掘の先輩だ。殺気に当てられたのだろう、ジョボジョボとションベンを漏らしながらも、引き返すこともなく突っ立っている。
「いや、何やってんすか先輩。わざわざ殺されにきたんすか?」
「す、すまん、迷惑だったか……だけどな、お前が苦戦してるのを配信で見てて、居ても立ってもいられなくなってな」
「苦戦?」
「あ、ああ、だから、俺たちも、守られてるだけじゃ駄目だと思って、来たんだ」
「うーん……」
はてさて、どうしたものか。ここまで来ると普通に苛立ちが勝ってしまうなぁ。
ワープ魔法なんて大技、さくらちゃんの前で使うわけにもいかないし、さっき全員ワープさせときゃよかったかな。いや、流石にこの人数ワープさせちゃったら、五十人くらい空間の狭間に置いてきちまいそうだったしな。
「……ふざけんなよ、愚民ども!! なんで、なんでそんな奴の味方をする! なんで俺を認めようとしない!!」
俺が迷っている間に、二階堂が纏っていた風を手のひらに凝縮し、避難民の方に向けた。
「死ねええええええええ!!!!」
凝縮された風が、竜巻を横にしたように広がって、魔石を巻き込みながら避難民目掛けて展開された。
「おいおい、そりゃまずい、っと」
俺はすぐさま避難民の前に飛び、後ろに少しの被害も出ないよう、一秒500発パンチで竜巻を殴りつける。
すがががががががががっ!!
「うおっと!」
ジリジリ本調子じゃないせいか、少し押され気味だ。ちょっとでも後ろにそらそうものなら、脆弱な人間なら風に巻き込まれ即死だろうから、せめて取り逃しはないように
その脆弱な人間たちはというと、先ほどまでの威勢はどこへやら、悲鳴をあげて逃げ惑い始めた。それなら最初から来んなよと言いたくなったが、まぁもういいわ。
「……偽善者ニキ、がんばえー」
それでいい、と思っていると、背後からこんな声が聞こえてきたので、思わず振り返る。
なぜか一人残っていた幼女が、ダンジョン一階層で売ってるスライムのぬいぐるみを抱きしめながら、俺のほうを涙目で見ていた。
「何言ってんの? どう見ても頑張ってんじゃん。そんなことよりお前もとっとと逃げろや。巻き込まれたら死ぬぞ」
「……がんばえー!! がんばえー!!」
俺の正論も、頭が悪いのか理解できない様子で、応援を続ける幼女。
すると、大人たちが幼女が取り残されている事に気がつき、慌てて幼女を回収しようとした……訳じゃなかった。
大人たちは風に飛ばされないよう
「……頑張れ!! 偽善者ニキ!!」
「そうだ、がんばえ!!!」
「しこたまがんばえ!!!」
”¥78800 がんばえー!!”
”¥78800 がんばえー!!”
”¥78800 がんばえー!!”
”¥78800 がんばえー!!”
”¥78800 金持ち幼女大量発生で草www”
”¥78800 プリキ⚪︎アがんばえー!!”
”¥78800 おいwww”
”¥78800 それはいかんやろ”
”¥78800 こんな男が主人公のプリキ⚪︎ア朝日に放送できるかwww”
”¥78800 深夜でも無理やろなwww”
それが契機になったのか、止まっていたコメント欄声を上げ始めた。こいつら……一体なんなんだ?
「だからよく見ろ! 頑張れとか言われるまでもなく頑張ってんだろ!!!」
「「「偽善者ニキ、がんばえー!!!」」」
「おい、話聞いてんのか……?」
なんかもう、腹が立ってきたな。あと、どうせならちゃんと頑張れって言えや。普通に失礼だろ。
「てか風鬱陶しいなボケ!!!」
俺は怒り任せに竜巻の先端を掴み、そのまま二階堂目掛けてぶん投げた。
「うわあああああっ!?!?!?」
二階堂は自分の竜巻に巻き込まれ、ダンジョンの壁に大きな穴を開けて吹き飛んでいった。
「「「……うわあああああああああああ!!!」」」
避難民たちは大歓声。コメント欄も大歓喜でスパチャが飛び交う。だが、この程度で魔人が死ぬわけもないし、俺のモヤモヤはむしろ高まってしまった。
俺はすぐさまこの苛立ちをぶつけるために、二階堂との距離を詰めようとした、が。
「この親不孝もの!!!」
怒りの形相で俺の眼前に現れたさくらちゃんが、俺の首にラリアットを喰らわせてきた。
ずどんっっっっっ!!!!!!
地面に打ち付けられ、視界がぐわんぐわんと揺れる。その中で、さくらちゃんが塗りつぶされたように黒い瞳で、俺を見下ろしていた。
「その1、あなた、どれだけ罪深いことをしているのか分かってるんですか!?」
さくらちゃんは足を振り上げ、俺の顔面を踏みつける
ぐしゃり!!
俺の頭から、出たらまずいような音が聞こえた。おお、さくらちゃん、怒ってんなぁ……あれ、おかしいな、嬉しいぞ。
おかげで、俺の頭の中のモヤモヤは少し晴れた、が、このまま晴れたら原因もわからない。
それじゃあいっそのこと、抵抗しない事にしよう。流石の俺でも頭を潰されたら死んでしまうだろうから、俺の頭は生き残るために答えを迅速に導き出すはずだ。
(……マッマ?)
結果、俺の頭が想起したのは、しばらく会っていないマッマの顔だった。
……走馬灯、というやつだろうか。いや、それにしてはマッマばかりだ。ならば、俺の目的は、マッマに深く関係するということだろうか?
そう、それならば、俺のモヤモヤや、さくらちゃんが怒っていることへの喜びも、マッマが関係していると考えた方が自然だ。
こいつは、マッマから生み出された、マッマの分身のようなもの。そのさくらちゃんが怒っているということは、マッマが怒っているのと同じだ。
……そうか、この感情、知ってるぞ。同級生たちの間で流行っていたけど、どうにも”不条理”で、理解できなかったやつだ。
親の指示に従って生きているくせして、やけに親に反抗的。孤児の俺には真似すらできなかった、思春期という期間に起きやすい例のアレ。
そうか!!
「俺、反抗期なんだ」
「……は?」
さくらちゃんの踏みつけが止まる。
血の滲む視界の中、不快そうな表情のさくらちゃんに、俺は強い満足感を覚えていた。
俺は、人を殺させるために俺を育てたマッマに、反抗したい。
だから、マッマの目的とは真逆の人助けをすることで、マッマとその下僕たちを、不快にしたかったんだ。
……ああ、ああ。この不条理!! 今ならわかる!! これこそが!!!
「真っ当な人間である証なんだ!!!」
ひゅん。
瞬間、俺は手刀で、さくらちゃんの足を切り取っていた。
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