第13話 二階堂、暴走



”えぇ…(困惑)”

”は?”

”何言ってんのこの人”

”ミノタウロスってあのミノタウロス?”

”女をNTRれて頭がおかしくなったか?”

”NTRというよりはBSSだろ”

”大炎上して探索者としてどころか人として終わりそうだから、名誉挽回したいんだろうな”

”正直、何をやっても取り返せないやろ”

”不正で人を試験から落とす→一般人からの支持暴落

からの

和泉ナナを囮に逃げようとする→信者たちからの支持暴落

だからな。もうどうしようもない”

”むしろ現段階ではミノタウロスの方がよっぽど人気あるから、討伐しようもんなら逆に炎上しそう”



「二階堂くん、流石に無茶だ。今は回復魔法が効いているから痛みもないかもしれないけど、今のあなたは戦えるような状態じゃない」


「五月蝿い!!!!」


 竜胆が止めようと二階堂の肩を掴んだが、二階堂はその手を振り払い、ズカズカ歩いて行く。

 勝手にどっかいって死なれてはたまらないので、俺も後を追う。


 このまま無理やり連れ帰ったら救助と認められんのか? これなら起きる前に地上に運び出しておくんだったなぁ。


「ん?」


 それなら、二階堂をミノタウロスにボコしてもらってから運び出しちまえばいいか。

 ミノタウロスってただの牛なのになぜだかすごく人気があるらしいから、その分二階堂の配信も盛り上がって金にもなりそうだ。


「仕方ないな。俺もミノタウロス討伐に付き合おう!」


 俺が親しみを込めて二階堂の肩をたたくと、二階堂は顔を真っ赤にして俺を睨みつけてくる。

 なんだ? 竜胆の時といい、肩を触られるの嫌いなのか? 


「ふざけりゅな!! お前の力なんて借りるわけがないだろ!!」


「んなこと言われても、二階堂がここで死なれたら、貰えるものも貰えなくなっちゃうしなぁ」


「俺は死なない!!」



”ついさっき死にかけたばっかだろwww”

”マジで何言ってんだこいつwww”

”もう助けなくていいだろこんなやつ。ほっとけほっとけ”

”偽善者ニキは金目当てだから、二階堂がどれだけクズだろうが関係ない”

”そういう意味では、金目当てって感情的な部分がものを言わなくなるから、意外と人命救助との相性いいのかもな”

”いや、こんなやつを助けるために暁と和泉を命の危機に晒すんならむしろ相性最悪だよ”

”ぶっちゃけ言うと、偽善者ニキとミノタウロスの戦闘は見たい”

”それな! ミノタウロスを単独で倒せたら少なく見積もってもB級探索者の実力はある”

”はい、スーパースローアプリ出来上がったで。こっからダウンロードしてや→URL”

”すげぇ!?!?”

”はっや! 偽善者ニキより速いんじゃね!?”

”エグい有能すぎない!?”

”今使ってみたんだけど、指定した時間の映像が瞬時に別枠でスーパースローになるwwww”

”えっぐ!?”

”『DunTube』はスーパースローニキを今すぐ雇え!”

”これで偽善者ニキの配信をより楽しめるな!!”

”偽善者ニキの配信じゃなくて竜胆の配信な”

”そうだったwww完全に忘れてたわwww”

”この配信で竜胆のチャンネル登録者三百万人突破してるの草”



「いや、今のお前の実力だったら、間違いなくミノタウロスに殺される。二階堂ならぬ肉塊堂になっちゃうぜ」


「誰が肉塊堂だ!!!!!」



”草”

”肉塊堂wwww”

”肉塊堂は草”

”二階堂、いいニックネームもらったなwww”

”今のうちに改名しとけ。今お前の親父含め二階堂一家総叩かれして肉塊になるんだから”

”肉塊どころか跡形もなく消え去りそうだけど……”

”改名どころか戒名になるってわけだwww”


 

「ちょ、ちょっと武蔵野くん。これ以上二階堂くんを刺激しないでくれ」


 すると、竜胆が俺と二階堂の間に割って入ってきて、まるで保護動物に語りかけるように優しい口調でこう言った。


「二階堂くん、私たちとしては、ダンジョン探索者としての君の意思を尊重せざるを得ない。でも、同時に人としてはこれ以上の無茶はさせられない。そこで提案だ。私たちとパーティを組もう」



”え?”

”マジ?”

”もういいだろ。ほっとけよ”

”いや、普通にナイス判断だろ。プライドの高い二階堂は助けられるのを嫌うから、それなら一緒のパーティで仲間ってことにしといた方が受け入れられやすい”

”なんで二階堂ごときにそこまで気を遣ってやらなあかんのや”

”暁いい人すぎる……”

”和泉めちゃくちゃ嫌そうな顔してて草”

”カメラ切り替えたら思ったより嫌そうでお茶吹いたwww”

”そりゃそうでしょ。自分を見捨てようとした元カレと同じパーティとかキモすぎる”



「嫌だ! 何でお前らなんかとパーティを組まないと行けないんだよ!」


「そうよ! こんなクズ男とパーティなんて二度と組みたくない! ね、純一、お願いだから帰ろっ?」


「まあまあ、落ち着けって」


 俺は、二階堂と和泉の頭をポンポンと撫でてやる。

 和泉は「きゃっ」と嬌声をあげて頬を赤らめたが、二階堂はあんぐりと口を開けてから、「ぎゃっ!?」と悲鳴をあげて飛び退いた。


「何だお前気持ち悪い!!!」


「いや、肩触られるの嫌いなんだろ?」


「はぁ!?!? いつ俺がそんなこと言った!?」


「あらら」


「あらら!?!? 何だお前!!!」



”草”

”なんだこのやり取りwwww”

”これに関しては二階堂が正しいwwww”

”こいつら実は仲良いだろwwww”

”失禁ニキが偽善者ニキのこと嫌ってる理由なんとなくわかったわwww”

”失禁ニキwwwやめたれwwww”

”裏工作ニキよりはマシだろうから感謝して欲しい”



「……もういいっ、勝手にしろ!!」


 そういうと、二階堂は踵を返して歩き出す。俺たちもその後に続いた。


「しかし、人とパーティ組むのって学生以来だなぁ! なんかピクニックみたいで楽しいね!」



”この地獄みたいな空気の中、偽善者ニキだけワックワクで草”

”偽善者ニキ空気読めなさすぎだろwwwwww”

”偽善者ニキのキャラクセになってきたwwww”

”偽善者ニキマジおもれぇwwww”

”マジでファンになってきたわwwww”

”これ、もしかしなくても神配信だろwww”

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