第12話 救助成功、かと思ったら……
「……うぅ」
二階堂がうめき声をあげながら、ゆっくりと目を開けた。
「はぁぁ、よかったぁぁ……!」
すると、回復魔法をかけていた竜胆が、安堵のため息をつきながら、パタリと地面に倒れた。
”おおおおおおおおおお!!!”
”良かったあああああああああああ!!!”
”バッキバキになってた腕も完治! さすが暁!!”
”二階堂はどうでもいいけど、暁ちゃんが罪悪感を覚えないような結果になって良かった”
”暁、本当にすごい”
”竜胆の手柄じゃないだろ。偽善者ニキのおかげ”
”間違いない。偽善者ニキがいなかったら無理だった”
”あのまま死なせてあげるのが、ある意味一番の救いだったと思うけどなwww”
”間違いない”
”今絶賛大炎上中だもんなwwww”
”そりゃ(救助を拒否して自分の女を犠牲にして逃げようとしてダンジョン庁の親父に裏工作させて偽善者ニキを探索者試験で落としたんだから)そうよ
”さっきまでいた二階堂信者もパタリといなくなったなwwww”
”せっかく暁が助けたのに、自○でもされようもんなら目覚めが悪いなぁ……”
”二階堂のチャンネルの方、同接は過去最高の三十万人だけど登録者は六十万人減ってるwwww”
”初めて見るわそんな現象wwww”
”逆に残り四十万人はなんで登録したままなんだよwww”
「目が覚めたみたいだな」
最後のドロップアイテムを二階堂のアイテム袋に入れてから、俺は二階堂に歩み寄った。
すると、二階堂は寝起きにも関わらず、俺に鋭い殺気を放ってくる。
「おい、何をしている」
そして、俺の腕にひしと抱きつく和泉に視線を移す。和泉が答えないので、代わりに俺が言った。
「なんか死にかけたから怖いんだってよ」
その割に和泉の身体は火照っているので、恐怖は感じてなさそうだがな。
「……離れろ、ナナ」
「は? いや」
和泉がさらに強い力で俺の腕に抱きつくと、二階堂が顔を真っ赤にして怒鳴る。
「嫌、だと!? お前、彼氏の前で他の男とくっつくなんてありえないぞ!!」
「はぁ!? カップルチャンネルはあくまでお互いの知名度を上げるためのビジネスって約束でしょ!? ほんとにあんたと付き合ってなんかないじゃない!」
「おっ、おいっ!?」
二階堂が焦った様子を見せる。
”え。付き合ってなかったの!?”
”嘘!?”
”登録者稼ぐため視聴者を騙してたってことかよ……とことんクズだな二階堂”
”本来だったらめちゃくちゃすごい暴露なんだけど、今となってはどうでもいい……”
”むしろホッとした。こんなクズ男とナナちゃんが付き合ってなくてほんと良かった”
”付き合ってないのにあんなイソスタのストーリーで匂わせしてたの? きっしょ”
”マジで救いようないね二階堂”
”全ナナちゃんファンのこと敵に回したからね二階堂。覚悟しろよ”
”二階堂、お前のことを絶対許さない”
「ていうかナナ、今日から純一の彼女だから。これ以上変なこと言ったら、純一にボッコボコにしてもらうから」
「……え?」
”え?”
”あれ、確か偽善者ニキ断ったよな?”
”ナナちゃんの告白を断るとかなんかの間違いだからこれで正解だよ!”
首を捻っているうちに、二階堂は憤怒の表情で俺に詰め寄ってくる。
しょんべんまみれの身体で寄ってくるなよ。てかなんか甘い臭いするけど大丈夫?
「貴様!! 人の彼女に手を出しやがったな!? 倫理的に終わってるなこのクズ!!」
”は?”
”草”
”ここまで見事なおまいうはなかなか見れんぞwww”
”だから彼女じゃねぇつってんだろクズ”
”マジでキッショい”
”死ね”
「ちょっと辞めてよ! 言っとくけど告白はナナの方からしたんだから!」
「ナナ、お前……!! 俺のおかげで有名になれたくせに、ふざけるなよ!!」
「あぁ!? あんたのチャンネルに出る前からフォロワー合計三百万人いたんですけど!? むしろあんたがナナの知名度を利用してたんでしょ!?」
「なんだと!? このクソビッチが!!」
「はぁ!? ビッチじゃないし!! ナナはしょ」
「まぁまぁ、そんなしょうもないことで揉めてる余裕ないだろ?」
ともかく、今はそれどころではない。俺は二人の間に割って入った。
「しょうもない、だと!?」
「ああ、しょうもない」
俺が断言すると、二階堂はともかく、和泉まで不満げな顔をする。しかし、事実は事実だ。
俺は寝起きでもわかりやすいよう、なるべく簡単な言葉で二階堂に説明した。
「お前は俺に助けを求め、俺に救助されたんだ。だから、俺に謝礼金を払う義務がある。もし拒否するようなら訴えるからな。あ、配信はまだ止めるなよ。どうせなら帰り道も稼げるだけ稼ごうぜ!」
「……何を言っている。魔物どもは、どこに行った」
「え? だから俺が全部殺したんだよ」
「そんな訳があるか! お前みたいな雑魚が、あの魔物の大群を倒せる訳がないだろうが!」
”はぁ?”
”チッ”
”なんだこいつ!?”
”マジでイラつくわ”
”助けてもらってこの態度かよ”
”まあ、裏工作とかしてる時点で人として終わってるのは分かってた話”
”色々含めて偽善者ニキに土下座しなきゃいけない立場っての分かってる?”
”ダンジョンインフルエンサーなんてこんなもんよ”
”なんか髪型ぐちゃぐちゃになったら対してイケメンでもないな”
”典型的な雰囲気イケメンで草”
”ただ、スロー映像にしなきゃ見えない時点でどうしてもAI疑惑が出ちゃうのがなぁ……しかもなんかチ○ポ出してるし”
”流石にAIだよなぁ。あんな残虐な殺戮の最中にチ○ポ出す意味がわかんないし”
”しかもデカすぎる。日本人のサイズじゃない”
”正直俺も疑ってる”
”竜胆は見てるけどな”
”竜胆みたいなむっつりスケベがチ○ポ見てたらあんなリアクションじゃ済まないはず”
”それはそう”
”竜胆以外にも大魔狼も見てるで。だからあんなあっさりテイムされたんだろ”
”ちょっと待っとけ。誰でも即座に生配信スーパースローにできるツールを開発するわ。それならスロー動画が加工されてるかいちいち疑わなくても済むだろ?”
”うぉ、それめっちゃ助かる!”
”それがマジなら有能すぎるけど、お前ナニモンだよwww”
”嘘松……と思ったけど、今四十万人も配信見てるんだからスーパーエンジニアの一人くらいいるか”
「いや、本当なんだよ。現に竜胆が見てる。なぁ、竜胆?」
俺の問いかけに、竜胆は「ああ、確かに見た」と頷く。しかし、二階堂は納得しない。
「それは君たちがデキてるからだろう!!」
「でっ、デキッ、って、私たちは子供がデキるようなことしてない!! セクハラだぞ!!」
「あ、ああ? 俺はそこまでのことは言っていない!」
”デキる、で、付き合ってるをすっ飛ばして子供がデキるの方を想像したのか……”
”暁ちゃん……”
”エッチだ……”
”【朗報】暁、ムッツリスケベだった”
”助かる”
”ア゛ア゛……”
”うっ…ふぅ”
”うっ…ふぅ…うっ…ふぅ…うっ…ふぅ…うっ…ふぅ”
”イキスギィ!”
”うっうっうっうっうっうっうっうっうっうっうっ”
”連続イキスギィ!”
「あ、や、今の違……」
顔を真っ赤にして黙り込む竜胆。対して二階堂は、ぶつぶつ呟く。
「ない、俺がこの雑魚に救われるなんて、絶対あり得ない……」
学校に馴染むため本気を出してこなかったことが仇になってしまったかな? ま、この際どうだっていい。
「どちらにせよ助けられたのは事実だろ? ほら、帰ろうぜ」
「…………」
すると、二階堂が立ち上がり、歩き出した……帰り道とは真逆の方向だ。
「おい、二階堂、どこへ行くつもりだ」
「決まっている。ミノタウロスのところだ」
「ん?」
頭を強く打ちすぎたのか? なんか変なこと言い出したぞ。
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