第11話 大胆な告白は女の子の特権



”うおっ!?!?”

”すげぇ揺れ!!!!”

”偽善者ニキがやったんか!?”

”ただの足踏みでか!?”

”今なんか悲鳴聞こえなかったか?”

”え”

”おっ!?!?”

”なんだ!?!?”

”蔓がどんどん消えていくぞ!?”

”なんだ、何が起こってるんだ!?”



「な、何をしたんだ!?」


 竜胆が聞いてくるので、俺は解説してやる。


「この蔓の檻は、地中の魔物が作り出してんだ。今、地面を踏んでそいつにダメージを与えたんだよ、っと」


 とんっ。


 俺はそのまま魔物たちの群れを、竜胆を抱えたまま、立ち幅跳びの要領で飛び越える。



”うおっ!?”

”すげぇ飛んだ!!!”

”軽く飛んでこれかよ!?”

”やっぱ偽善者ニキ身体能力ヤバくないか!?”

”探索者オリンピックの立ち幅跳びでも余裕で通用しそう”

”ステータスどうなってんだこれ!?”

”重りがあるのにこの跳躍はエグい!!!”

”重り言うな!!!”

”俺の予想では暁は38キロくらいだと思うから、そんなに影響ないだろ”

”38www童貞丸出しすぎwww”

”おっぱい二つでそんくらいあるだろwww”

”それはそれで童貞すぎるわwww”

”てか敵陣のど真ん中に飛び込んでいくのヤバすぎだろ!?”

”せめて偽善者ニキ一人で行ってくれよおおおお!?”



「バウッ!」


 突然の乱入者に、大魔狼は威嚇のため口を開け吠えると、咥えられていた二階堂が勢いよくぶっ飛んだ。


「うわああああああああああああ……………」


 どうやら途中で気絶したようで、二階堂の身体の力が抜け、ヒュンヒュンと回転しながら落ちていく。

 このまま地面に落ちると、打ちどころが悪ければ死んでしまうな。


「っ! 離せっ!」


 と、竜胆が俺の腕の中から抜けて、二階堂の落下地点に滑り込み、二階堂をキャッチした。



”ナイス!!”

”さすが暁!!!”

”うおおおおおおおおおおお!!!”

”あっぶねえええええええええ!!!”

”マジギリギリだったな!!”

”暁が一瞬でも迷ってたら即死だったよ!!”

”偽善者ニキにばっか注目集まってるけど、っぱ暁よ”

”暁ちゃんマジジャンヌ!”

”しかし、よくしょんべん塗れの男を受け止められるな!”

”人命救助の場でそんなことで躊躇うような玉の女かよ。竜胆暁舐めんな”

”いや正直他の男のしょんべんに塗れた女をこれ以上応援できない。ファン辞めます”

”お前みたいなのがいなくなってくれて一ファンとして嬉しいよ”

”個人的に竜胆の好感度爆あがりだわ。俺だったら躊躇しちゃうけど、竜胆全く躊躇わなかったもんな”

”どうよ?



「ん? いや、別にしょんべんくらい大したことないだろ。俺も、必要に迫られて、妹としょんべんの飲み合いをしたことがあったが、まぁ大したことなかったよ」



”え”

”は?”

”ん?”

”なんて?”

”詳しく”

”今北産業”

”偽善者ニキ

妹と

セ◯クス”

”二階堂の暴露よりヤバげで草www”

”必要に迫られてって、妹のしょんべんを飲み必要に迫られる状況ってなんだよwww”



 しかし、あんなに必死にキャッチして……もしかしてしょんべん塗れになりたかったのか? どんだけチ○ポ関連好きなんだよ。怖っ。


「おい、チ○ポ狂い女、二階堂に回復魔法をかけといてくれ! せっかくの金ヅルが死なれたらたまらないからな!」


「チッ!?……っっっ、武蔵野くん、絶対に和泉さんを守って!!!」


 竜胆は指示通り、二階堂に回復魔法をかけ始めた。

 自分の全身骨折を治しただけあって高クオリティだな。これなら任せても大丈夫そうだ。


「うおおおおおおおおおおおんっっ!!!」


 すると、大魔狼が苛立たしげに遠吠えをすると、俺たちを囲う魔物たちが、どすどすとこちらに迫ってくる。



”うわあああああああああ!?!?!?!?”

”ぎゃあああああああああああああああああ!!!!”

”おいおい、モンスターハウスってなんだかんだ一斉に魔物が襲ってこないって話じゃなかったのか!?!?”

”蔓の檻がなくなったせいで逃げられるようになったからな。あちら方も手段を選んでる場合じゃなくなったんだろ!!”

”こえええええええええ!!!”

”おいどうすんのよこれ!?!?!?”

”素手でどうにかできるもんじゃねぇ!? 偽善者ニキ魔法使えねぇのか!?!?”

”魔法なんて一つ使えりゃ一流だからな! あのステータスの上魔法まで使えたら、それこそ今まで無名の意味がわかんねぇよ!!”

”終わったあああああああああああ!!!!!”



 判断が早いなぁ。楽しみとまではいかなそうだが、一応とっとくか。


「三秒、ってところかな」



”うわああああああああああああああ”

”やばいやばいやばいやばいやばい”

”エグい迫力”

”もう見捨てろ!! 足手纏いがいてどうにかなる状況じゃない!!”

”三秒? 何言ってんだ!?!?!?”

”三秒で死んじゃうってこと!?”

”はよ逃げろおおおおおおおおおおおおおお!!”

”暁逃げてええええええええええええ!!”

”暁あああああああああああああああああ!!!”



 俺は、一度全身の力を完全に抜き切った。


 殺しにおいて、イメージは重要だ。


 下手に魔法を使うくらいなら、イメージすることを癖づけた方がよほどいい。


 ……そうだな。二階堂に倣って、風にしよう。このジメジメしたダンジョンの空気を一掃し、するくらい強い風だ。


 ふっ。


 そして俺は、魔物たちの壁の間を、吹き荒れる突風のように駆け抜けたのだった。


「「「「……ぎゅあ」」」」」


 そんな、微かな断末魔が重なりあう。


 そして、モンスターハウスの魔物たちは、バタバタと倒れていったのだった。


 時計を確認。四秒経過していた。

 

「チッ。一秒溢れちまった。鈍ってるなぁ」



”……へ?”

”は?”

”え?”

”なんだ、これ?”

”え、何が起こった?”

”魔物がドミノ倒しみたいに倒れてった!?

”もしかして死んでる?”

”嘘だろ!?!?!?”

”おいおいマジかよ!?”

”てか偽善者ニキどこ行った!?”

”あれほんとだ偽善者ニキいない”

”カメラの視点変えてみろ。竜胆の隣にいるぞ”

”あれいつの間に!?!?”

”何が起こってるんだこれ!?!?”



「うーん」


 久々にちゃんと身体を動かしたので、伸びをしてストレッチをする。


 そして、唖然としている竜胆に、「何やってんだ。ちゃんと回復魔法かけ続けろよ」と声をかけると、竜胆がどこか怯えるように俺を上目遣いで見た。


「少ししか見えなかったが……あなたが、やったんだな」


「ん? ああ、そうだよ」


 意外な言葉に頷く。探索者とはいえただの人に視認されるとは、俺も鈍ったなぁ。



”へ?”

”マジで言ってる?”

”えぇ?

”嘘松”

”流石に嘘だろ”

”速いとかいうレベルじゃない。言ってもオークを殺した時は残像が見えたけど、今回は何も見えなかった”

”だったらお前らは何が起こったか説明できんのかよ”

”偽善者ニキはともかく、暁ちゃんが嘘つくわけがない”

”俺も見えた。お前ら見えなかったの?”

”は? 見えたわ。なんなら止まって見えた”

”ついでに服も見えた”

”裸の王様みたいになってて草”



 それでも常人には捉えるのが困難だったようだ。ま、そんなのどうだっていい。


「さてさて……」


 俺は魔物の死骸を蹴りながら、一匹残しておいた大魔狼の元へと歩み寄った。


「……くぅん」

 

 しかし残念ながら、勝敗は、もはや決していた。

 大魔狼は尻尾をくるりと巻いて、少しでも自分を小さく見せようと平伏していた。



”はっ!?”

”え、かわいい”

”なんだ!? めちゃくちゃ犬っぽくなってる!?”

”え、これもしかして、テイムできた!?!?”

”大魔狼を!?!? マジで!?!?!?”

”中層の魔物ってテイムできんのかよ!? 普通テイムするにしても、上層の弱い魔物から育てて強くするもんだろ!?!?”

”現S級トップ探索者、ルミナが似たようなことやってたな”

”S級トップと同じレベルってことかよ!?”

”何回もおんなじ事言うけど、この男がなんで武蔵野ダンジョン高校成績最下位!?!?”

”偽善者ニキすげえええええええええええええええええ!!!!”



 本来だったら殺しているところだが……妹からも「そろそろ手癖で殺すの、やめなきゃダメだよ?」って言われてんだよな。


「ほら、とっととどっか行け」


 俺は軽く蹴ってやると、大魔狼は「きゃんっ!」と鳴くと、全速力で逃げていった。



”ええええええええええええええ!?!?!?!?”

”何してんの偽善者ニキ!?”

”もったいなすぎる”

”せっかくのもふもふが😭”

”推しの二階堂が死んだショックをもふもふで癒せると思ったのに……”

”おい、勝手に殺すなwww”

”何でテイムしないんだよ!! もちろんもふもふ分を摂取できるのもあるけど、戦力としても最高峰だろ”



「ん? あんな雑魚、なんの役にも立たないだろ? 何言ってるんだ?」



 ひし。


 と、その時、背中に柔らかい感触が走る。

 反射的に殺してしまいそうになったが、どうやらこの異様な殺気のなさは、単純に俺に敵意がないからみたいだ。


 首だけで振り返ると、俺に抱きついていたのは和泉だった。


「……き」


「ん? 何だって?」


 すると、和泉は化粧を塗りたくった肌を真っ赤にして、キラキラ目を輝かせながらこう言った。


「大好き! 結婚を前提に付き合って!」


「……え?」

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