第10話 二階堂、失◯
”うぉ……迫力ある”
”立派な大魔狼。モンスターハウスの主に相応しいな”
”これ終わっただろ”
”万全の二階堂でも五分五分ってとこじゃないか?”
”二階堂は意地張ってないで早く助けを求めろよ”
”俺二階堂のこと嫌いだけど、流石に死ぬところは見たくないんですけど”
”お願い助けて助けて助けて助けて助けて”
”助けてくれないなら私があんたらを殺すから。絶対に殺すから”
”動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け”
そろそろいいだろうと、俺はにこやかに声をかけた。
「二階堂、どうする? 助けを求めるなら今のうちだぞー!」
「……ふざける、なっ」
俺が声をかけると、二階堂はなんとか立ち上がった。
そして、大魔狼の脳天目掛けて突きを放つ。
しかし、明らかに速度の落ちたそれは、大魔狼にあっさりと躱された。
「ばうっ!」
そして魔狼は、鼻頭でぐいっと二階堂を押した。
「ぐわっ!?!?!?」
二階堂は吹き飛ばされ、どしんと尻餅をつく。
細身の剣はクルクル地面を滑って、取り巻きの一匹、オークの足元で止まる。
オークは剣を拾いあげ、「ぶひっ!」と嬉しそうに鳴いた。
”うわああああああああああああああああ!!!”
”終わった”
”これは詰んだ”
”剣のない剣士なんて、ライスのないカレーライスみたいなもんだ。これは厳しい”
”え? 俺はカレーはルーだけで飲むけど、全然いけるけどな”
”カレーは飲み物勢まだ生きてたのか”
”いや、死んでるよ! 今地獄から配信見てる”
”成仏してクレメンス”
”地獄って5G届くんだ”
”助けてよ!!!!!”
”武蔵野純一殺してやる!!!”
”お願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願い”
”信者たちはこっちにコメントする暇あったら二階堂の配信に助けを求めるようコメントしてこいや”
”まぁ、なんだかんだ大丈夫だろ。風魔法で切り裂けるよ”
”ここまでの探索とモンスターハウスでの無茶な使い方で、魔力ほとんど無くなってそう”
剣士の要である剣がなくなれば、二階堂としても助けを求めるしかないだろう……っと。
大剣をブンブン振り回した結果、力技で蔓の檻を突破しようとした竜胆を、俺は後ろからはがいじめにした。
「っ、何をしている!?」
「まぁまぁまぁまぁ」
”はああああああああああああああ!?!?”
”何してんのふざけんな”
”おい、なに暁に抱きついてんだテメェ!?!?”
”人が死にかけてる横で何いちゃついてんだ!!!”
”ガッツリ胸に触れてんじゃねぇか!!! クソ羨ましい!!!”
”マジでGJ。暁死んじゃうところだった”
”暁としても良かったな。助けようとしたけど邪魔されたって大義名分があったほうがいいだろ”
”は? 暁ちゃんはそんな汚い人間じゃないんだけど?”
”偽善者ニキシネシネシネシネシネ”
俺が竜胆を止めている間に、大魔狼は二階堂に歩み寄る。
「くそ、くるな、来るなよ!」
二階堂は腰が抜けたのか、立ち上がることもできずに、ずるずると尻を付けたまま後退りする。
「ああ、ぁ、いや、いやだあっ!!」
そして、未だ呆然と立ち尽くす和泉の後ろに回り込むと、まるで魔狼に差し出すかのように、和泉を突き飛ばしたのだった。
”え?”
”は?”
”おいおい”
”何してんのこいつ”
”クソじゃん”
”自分の彼女を犠牲にしてまで生き残ろうとするとか……二階堂のこと別に嫌いじゃなかったけど、失望した”
”ハルト、嘘でしょ?”
”ハルト……”
”は? あんたナナちゃんの彼氏でしょ!? 普通命を賭けて守るんじゃないの!?”
”ナナちゃん死んじゃう!! お願い助けて!!”
”いやあああああああああああああああああ!!!!”
”何これ、何かの間違いだよ”
”そんなことするくらいなら助け求めろや。プライドの方向性間違ってんぞ”
”ほんまそれ”
”お願いします! ナナちゃんを助けてください! なんでもします!”
「ぁ……」
大魔狼の前に突き出された和泉は、身動きも取れずに、ただただ食われるのを待つばかり。
「……ぐふっ」
そんな様子が狩りを楽しむ狼の興味を引かなかったのか、大魔狼は和泉をスルーして、やはり二階堂の方に歩を進めた。
「あ、あああ、ああああああ!」
……じょろろろろろろろっ!
すると、二階堂の真っ白なズボンに、黄色のシミが勢いよく出来上がっていく。どうやら漏らしてしまったようだ。
”え”
”あ”
”あっ”
”嘘”
”あ、漏らした”
”草”
”いや、この場面で漏らすのはしゃあない。今から死ぬって時に尿道なんて閉めてらんない”
”ハルト……”
”嫌”
”こんなの嘘だよ。ヤラセだよ”
”マジムリ”
”これ以上恥を晒しようないからはよ助けてっていえよ”
”ホンマそれ。なんならこの状況で助けてって言えない方が恥ずかしいわ”
「ぐうううううっ」
今から食おうとしている獲物がしょんべん塗れになったのが気に食わなかったのか。
がぶりっ。
大魔狼は顰めっ面で、二階堂の腕を軽く噛んだ。
「……あ、あああ、うわあああああああああああああ!?!?!?!?!? やめ、やめろおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!」
大した痛みじゃないはずなのに、大絶叫する二階堂。
対して大魔狼は迷惑そうに二階堂を睨むと、二階堂をぐいっと持ち上げブンブン頭を振るう。
「うわああああああああああああああ!?!?!?!?」
ショオオオオオオオ!!!!!
「おっ、しょんべんの勢いが一段階上がったぞ! 二階堂のやつ、やるなぁ!」
遠心力が膀胱にいい感じに刺激になったのかもしれない。俺も機会があったら参考にさせてもらうかな。
と、俺の胸の中で竜胆の魔力が膨らんでいく。魔法が発動する前の典型的な挙動だ。
「……放せ」
「おいおい、なにイライラしてんだよ。生理?」
だいたい回復魔法しか使えないくせになにをするつもりなんだ? どのみち、その程度の魔力じゃ俺にかすり傷に一つつけられないだろうがな。
ま、焦る気持ちもわからんでもない。二階堂が死なれたら完全にタダ働きだもんな。
「おーい、二階堂、どうすんだよ。このまま食われてもいいのか?」
「いや、いやぁ、いやだぁ!!!」
ブンブン振り回されながら、二階堂が叫ぶ。よしよし、いい調子いい調子。
「だったら、助けを求めた方がいいんじゃないかなぁ!!!」
「たっ、たっ、たっ、たすけてっ、ママぁ!!」
「……もしかして俺のことをママだと思ってんのか!? そりゃ、母性はある方だけどよ!!」
”どこがだよ!!”
”むしろ母性とは対極だろwww”
”なんでこの人、目の前で人が死にかけてんのにこんな冷静なんだ!?”
”しかし二階堂、情けなさすぎんだろwww”
”これが若手最強格の探索者ですか?”
”スネ夫以来の『助けてママ』、助かる”
”何が助かるんだよwww”
”なんかもうどうでもいいかも。ハルトのファンやめます”
”私も”
”ハルトは助けなくてもいいので、せめてナナちゃんだけでも助けてあげてください”
”うん。それでいいね”
”ハルトのチャンネル登録解除してこよっと”
”おいおいwww”
”二階堂ファン冷たすぎだろwww”
”これが蛙化現象ってやつか(驚愕)”
”まぁ、基本顔ファンばっかだろうからなwwwダサいとこ見せたら終わりよ”
「頼む、たのっ、あやっ、謝るから!! 助けてくれ!!」
「……え!? 謝る!? なんだそれ!?」
二階堂に謝られる覚えなんてないんだが……。
「ぱ、パパに頼んで、お前を探索者試験から落としただろ!? それを謝っているんだ、だから助けてくれ!!!」
「……ああ! そういやそんなこともあったなぁ! 懐かしい!」
”は?”
”え?”
”何それ?”
”二階堂ハルトのパパって、あの二階堂敏行!?!?”
”ダンジョン庁のお偉いさんだろ!?!?”
”はぁ!? つまりダンジョン庁の役人が裏工作で受かるはずだった奴を落としたってこと!?”
”え、これ、めちゃくちゃヤバイ暴露じゃね?”
”暴露ってか自爆!?”
”衝撃的すぎる”
”同接30万人も見てる前で自爆とかwww”
”トゥイッターのヤバげな連中が言ってる陰謀論がまさかの事実だった件”
”これはwwwww”
”草wwwwwwww”
”祭りじゃあああああああああああwwww”
”これは荒れるぜ……”
”久々に血が騒ぐな……”
”俺、ダンジョン庁のSNSリプ欄にこの切り抜きはっつけてくるわwww”
”二階堂ハルトファン情緒ぐちゃぐちゃだろうなwww”
”もういないから大丈夫やろwww”
「まぁそんなのどうでもいいけど、俺に助けを求めたってことでいいな!?」
「ああぁぁぁ、あっ、助けてくれええええええええ!!」
「よし! わかった!」
俺はチ○ポ草を丸呑みにすると、思い切り地面を踏みつけた。
どしん!!!
『グギャアアアアアアアアアッッッ!?!?!?』
地面が大きく揺れると、地中から魔物の断末魔が聞こえたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます