第47話 ダンジョンテロリスト集団『武藏』



【英雄】偽善者ニキに国民栄誉賞を授与しろ!!!【国民栄誉賞】



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 軽く見た感じ、偽善者ニキこと武蔵野純一に対する称賛の嵐が巻き起こっていた。


「ふぅん……大人気だなぁ、偽善者ニキ」  


 しかし、魔人でもいい、か。それは、我々ダンジョンチルドレンの存在意義を否定する言葉だなぁ……。


 すると、僕の隣に座るそのが、スマホを覗き込んで、やれやれとため息をついた。


「マジヤバいっすよねー、偽善者ニキ」


「うん、そうだね。相当強いよ」


 僕がそういうと、そのヨンは顔を顰めた。

 どうやら肯定的な意味での「ヤバい」ではなかったようだ。若者との会話はこれだから難しい。


「えぇ? そっすかぁ? そのヨンが見た感じ、そのヨン一人でも余裕って感じでしたけど」


「ははは、どうだろうね」


 僕が愛想笑いで返すと、そのヨンはより不満げに頬を膨らませる。


「だって、偽善者ニキが倒したのでまともなのって、暗澹龍と魔物因子で魔人になった二階堂くらいっしょ? さくらちゃんはちょっと油断してただけで結局ピンピンしてるし、そんなのでチヤホヤされるとか過大評価じゃね?」


「はは、暗澹龍はともかく、二階堂を倒したのはすごいんじゃない?」


「いやでも、あいつ魔人なりたてっすよね? だったらそのキュウでも殺せるっしょ? な、そのキュウ?」


「え、え、え……どうだろう。素の二階堂くんだったら殺せると思うけど」


 そのキュウがオドオド自信なさげに答えると、そのヨンは腹を抱えて笑い出した。


「そんなの当たり前っしょ! ただの地上人にそのヨンたちが負けるわけないじゃん! そのキュウ、マジでバカ!!」


「……そのヨン、そりゃ舐めすぎだ。現に、その地上人の手で、そのジュウは捕まっちまったんだろうが」


 すると、そのが筋肉質の太い腕を組み、そのヨンその肆を嗜める。


 しかし、自分と隣接する番号注意されたそのヨンは、さらに引っ込みがつかなくなってしまったようだ。


「はぁ!? そのジュウはそのヨンたちの中で最弱じゃん! てゆーかあんな奴、本当はダンジョン学校でいつでも殺せたけど、あえて生かしてただけだし! あーあ、殺しときゃよかったなあ! そしたら『武藏』の名も傷つかずに済んだのに!」


「……取り消せよ、今の言葉」


 それが、仲間思いのそのは気に食わなかったようだ。

 全身に殺気を激らすと、そのを中心に、地面に放射線状の亀裂が入った。


 それほどの殺気を全身に浴びてなお、そのヨンは好戦的に笑った。


「はぁ? 何甘いこと言ってんの? お前の手で取り消させてみろよ、その!」


 そのヨンは目にも止まらぬ速さでそのと衝突すると、ただの人間なら即座に塵になるほどの衝撃波が僕たちを襲う。


 止めに入ろうとも思ったが、彼らが本気だったらもっと酷いことになっている。ただのじゃれあいだ。

 それに、隙あらば殺し合いをするというその姿勢を、マッマは高く評価することだろう。


 ……ぎぎぎぎ。


 すると、マッマのお屋敷へと通ずる大門が、音を立てて開いた。 


 その瞬間、喧嘩していたそのヨンとそのがすぐさま跪き、こうべをたれたのだった。


 僕も同じように跪き、門が閉まるまで、亀裂だらけの床に視線を落とす。


「……はぁぁぁぁ」


 門が閉まると、大きなため息が一つ。顔を上げると、入札を許されたそのイチとそのが二人して暗い顔をしていた。


 ここは、そのサンの僕が聞くべき状況だろう。


「そのイチ、その、マッマの様子どうだった?」


 僕の問いに、そのは再びため息をつく。


「ご乱心です。我々のお土産の突き返されちゃいました」


 そして、手に持ったロープを持ち上げると、ロープの先の生首がぶらんぶらんと揺れる。


 その中には、S級探索者のダンジョン社長の生首もあった。我々『武藏』の組員、そのジュウを捕まえた探索者パーティの主力の面々だ。


 S級の首はマッマの夢を叶えるために必要なものだから、ご褒美をもらえると期待していたのだけれど、残念ながらそうはいかなさそうだ。


「ひえぇ……マッマ、そんなに怒ってるんだ。先生のさくらちゃんもタダじゃ済まないね」


「無許可で動いたんです、よね。さくらちゃんらしくない、です」


「はは、ザマァみろってんだよ。魔人って、マッマから産み出されたってだけで、マッマの子供は我々だーって面してて気に食わないんだよなぁ」


「それじゃあ、そのジュウの救出作戦はどうするの?」


「マッマが指揮するって言ってたから、とりあえず中止じゃね?」


 各々が好き勝手言い始め、収集がつかなさそうになったその時。


 パン。


 そのイチが手を叩くと、皆が一瞬で黙り込んだのだった。


 十人もの卒業生を輩出し、ダンジョン学校史上一番レベルが高いと言われていた二十四期生。


 その中でも、そのイチは格が違った。所詮僕たちは、彼を完成させるために生かされたと言っても過言じゃないほどに。


「まずは、マッマのメンタルを正常に戻すことを最優先に考えよう」


 そのイチの、男とも女とも取れる中性的な声でそう言った。実際、僕たちはそのイチが男か女かも知らない。

 

 ただ、そのイチが最強であるということだけは知っている。僕たちダンジョンチルドレンには、それだけで十分だ。


「それじゃあ……」


「ああ、可愛い後輩に、先輩として教育的指導をしに行こう。そのジュウの救出は、その後だ」


 言い方からして、そのイチの独断だ。

 さくらちゃんと同じ目に遭う可能性があり、仲間のそのジュウを後回しにするという選択でありながら、誰一人反対の声をあげるものはいない。


 僕たちは頷くと、一斉に立ち上がって、マッマのお屋敷の前を後にした。


 ……僕がこの強者たちを差し置いてそのサンになれたのは、徹底した分析と予測を絶えず繰り返して、常に自分が有利になるようにしてきたからだ。


 そんな僕が、武蔵野純一の戦闘を何度も繰り返し見た結果、マッマを裏切った武蔵野純一は、僕たちダンジョンチルドレンの同期で結成されたダンジョンテロリスト集団『武藏』によって、惨たらしい死を迎えることになるだろう。



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これにて第一章完結となります!

ストックが貯まり次第、第二章を開始しますので、それまでお待ちいただけますと幸いです!





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ダンジョン探索者試験に落ち底辺ダンジョン労働者になった俺、人気ダンジョン配信者を救助したら多額の謝礼金が貰えると聞いたので助けまくります〜金を要求するとこまで配信され炎上気味にバズったけど気にしません 蓮池タロウ @hasu_iketarou

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