第32話 人質を取られたけど余裕です
はてさて、どうしたもんか。
普通ならまとめてやっちゃえばいいところだが、今回は人助けがそもそもの目的なので、そういうわけにもいかないからなぁ……。
「お、いいこと思いついたぞ、和泉」
俺は未だに指スマの構えをしている和泉に声をかける。
「お前がま○○おっ広げてあのスライムどもを誘え。そしたら人間どもなんてほっぽり出してお前を襲いにくるからよ」
手マ◯スライムは異様に手マ◯に執着しているので、ま○○で誘えば人質を放り出して襲ってくるかもしれない。
「………………」
和泉はというと、俺のナイスアイデアに愕然としていた。ふふ、孔明だろ?
”!?”
”はぁ!?!?”
”何言い出してんの!?”
”偽善者ニキ、自分の彼女のことなんだと思ってんの!?”
”女の子を物扱いするなんて!! 今の時代許されないことだよ!?!?”
”偽善者ニキイカれんだろマジwww”
”¥30000 ナナちゃん偽善者ニキに物扱いされるとか羨ましい♡”
”¥53000 ほんとそれ♡ 私がその場にいたらいくらでも脱ぐのになぁ♡”
”¥50000 これは名案”
”¥78800 俺としても心は痛いけど、人命救助のためだ。仕方ない”
”¥78800 大丈夫! 俺たちは目を瞑っとくから、思いっきりやってくれ!”
”¥78800 早く!!! 人の命がかかってるんだぞ!!!”
”¥78800 ホンマそれ。ここで躊躇ってるようじゃ”
”¥78800 やっとハ◯撮りが見れる! 待たせすぎや!”
”正直和泉のま○○よりも偽善者ニキの救助劇が見たいので、垢BANはNG”
コメント欄も大絶賛、と思いきや、意外と賛否両論だ。
ったく、なんで俺たちが生まれてきた場所を映したら不適切になっちまうんだ? 地上の人間たちはもうちょっと自己肯定感高めた方がいいぜ?
ま、それなら別の手段を考えますか……竜胆がいた方が楽だったけど、こんなのはどうだろうか。
俺は魔力感知で、スライムの核が先輩の胃の中に潜った瞬間を感じ取り、軽いステップでスライムに接近した。
ひゅん。
そしてスライムの核を、先輩の胃ごと貫いたのだった。
……ぶしゅ!
「テマァァァァ……」
スライムの身体はもろもろと崩れ去っていく。
スライムに囚われていた先輩は、どちゃんと地面に落ちて、何が起こったんだと辺りを見渡す。
そして、自分の胸に穴が空いているのにやっと気がついて、「……ぐあああああああああ!?!?」と地面を転がり始めた。
胸に穴の空いた先輩はジタバタ暴れている。ちょっと面白かったので、しばらく見ておいた。
”!?”
”ファッ!?”
”何が起こった!?”
”助けられなかったのかよ!?!?”
”マジか!? 救助失敗!?”
”いい加減偽善者ニキが行動する前にスーパースローアプリ開いとけ!”
”え?”
”おいこれ”
”マジ?”
”おいおい、思いっきり偽善者ニキが救助者の胸を貫いてんじゃねぇか!?”
”ファッ!?”
”おいおいおいおい……”
”見間違いを信じたかったが、はっきりと写っちゃってるな……”
”え、これ不味くない?”
”これはAUTO”
”確かにこれで人質を取る意味はなくなったけど……ダメだろこれ!?”
”普通に殺人罪で逮捕で草”
”証拠バッチリ残っちゃってるからなぁ”
”安心しろ、警察すら今のダンジョンには入れないんだからよ!”
”今後偽善者ニキがずっとダンジョンで暮らすならな! 刑務所暮らしの方がよっぽどマシだぜ”
”¥3000 苦しむ前に介錯してあげたんだろ? 偽善者ニキの優しさだよ”
”その擁護は流石に苦しいやろ。今の方がよっぽど苦しそうやし”
”なんか半笑いだし……”
”本当に偽善者になっちゃったよ……”
”偽善者どころか犯罪者な”
”武蔵野純一犯罪者! 武蔵野純一犯罪者!”
なんだか心配の声も上がってるので、さっさとやっておくか。
「大丈夫大丈夫。ほら」
俺は先輩の胸の傷口に手を置く。
そして、回復魔法をかけてやることで、先輩に空いた穴がみるみるうちに塞がっていく。
「人質なんか、即死させなきゃ治してしまいだ。だろ?」
”!?!?!?”
”ファッ!?”
”えぇ……!?”
”おお!”
”おいおいwwww”
”乱暴すぎない!?!?!?”
”めちゃくちゃやwwww”
”いや、これでも結局暴行罪で捕まっちゃうんじゃないか!?!? 胸を手刀で貫いたのは事実なんだから”
”ま、まぁ、今回は緊急事態だし仕方ないんじゃね?”
”救助はできてるわけだしな。このままスライムに手マ◯死させられるよりはマシだし仕方ない”
”ある意味正論ではある”
”¥78800 むしろこの状況で最適解だろ。流石偽善者ニキ!!!”
”¥78800 法律云々で縛られて見殺しにするよりも絶対にいい! もし国が偽善者ニキを罰するようなことがあれば、めちゃくちゃ抗議するわ”
”てか、偽善者ニキが無茶苦茶すぎてみんなスルーしてるけど、なんて高度な回復魔法だよ!?”
”こんなの使えるんだったら二階堂や赤松の時使っとけや!”
”二階堂はともかく、赤松は即死だったから意味ないやろ”
「いや、使えたも何も、回復魔法を使えるようになったのは今だからな」
”え?”
”は?”
”ha?”
”……?”
”!?”
”!?!?!??”
”何言ってんだ!?!?”
「お、おい武蔵野、どういうことだ?」
先輩の問いかけに、俺は肩をすくめる。
「いやね、この状況、回復魔法を使えるようになったらすぐに解決するなと思いましてね。それで、今試しにやってみたんです」
「……お、おま、うまくいくかどうかもわかんねぇのに俺の身体を貫いたってのか!?」
「いやいや、一応急所は外れましたからそんなすぐは死なないっすよ。あ、もしかして痛かったっすか?」
「いた……いに決まってんだろ!!!」
「うわぁ……」
「うわぁ!? なんでお前が引いてんだ!?」
怒ってんなぁ。俺の場合、痛みなんてソーセージの肉汁が熱々で口の中を火傷する以上のものを感じないようになってるから、あんまよくわかんないんだよなぁ。
逆にそれすら感じない時もあって、その時は自分の体調の変化すら感じ取れなくなって苦労したものだ。
「じゃ、なるべく痛くないようにするかぁ」
「「「テマアアアアアアアアアッッッ!!!!」」」
すると、人質がむしろ足手纏いになりかねないと悟った手マ◯スライムたちが、自分の身体の内部に手を生やして、人質の首を絞め始めた。
うーん、判断が遅い。所詮は、さくらちゃんの命令を聞いてるだけの指示待ち魔物なんだろう。頭脳戦のデス指スマでもめっちゃ弱かったし。
「よい、しょっと」
俺は一度深く屈伸する。
ああ、そういえばイメージはどうしよう……まあいいや、そんなの。
所詮は、殺しの才能のないダンジョン学校の連中が考えた方法論だ。
「ふっ」
俺は全身の筋肉を躍動させ、残りのスライム全匹の核と人質を、ほぼ同時に貫いた。人質はもちろん、スライムどもすら貫かれたことも気づかない速さだった。
と同時に、人質たち限定で、回復魔法をかける。
救助者に空いた穴は、俺が手を引き抜いたと同刻、出血し痛みを訴える前に塞がる。中には急所を貫いちゃった人もいたが、こうすれば無傷と一緒なので、なんら問題はないという具合だ。
「……テマァァァァァ」
断末魔と共にスライムの身体が崩れて、人質たちは解放されたのだった。
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