第30話 ダンジョン一階層へ救助に向かう


「あれ?」


 入り口あたりに飛んだつもりだったが、ズレてしまったようだ。


 ワープしてきたのは、いつも俺が働いている魔石採掘場だった。

 たった数日ぶりなのに、妙な懐かしさを覚えていると、背中をポンポン叩かれる。振り返ると、魔石採掘場労働者の先輩がいた。


 いや、先輩だけじゃない。労働者はもちろん、ダンジョン探索者や観光者の姿も見えた。どうやら魔石採掘場を逃げ場に選んだらしい。



”うお!! ダンジョン一階層の魔石採掘場じゃん!!”

”やっぱ便利すぎるわワープ魔法”

”あれ、ここ、二階堂のところじゃなくね?”

”ちょっとズレちゃってんじゃん!!”

”¥30000 偽善者ニキいけえええええええええええ!!!”

”ちょっと、なんでまたナナちゃん一緒に連れてきてんの!?”

”マジで意味わかんない!!!! 何してんの偽善者ニキ!!!!”

”別れたんでしょ!? これ以上ナナちゃん巻き込まないでよ!!!”

”そりゃ和泉が偽善者ニキに縋りつてきたんだから仕方がないだろ”

”前から思ってたんだが、カメラまで一緒に転送してる時点で、かなり微細なコントロールできてないか?”

”だからぁ!! そんなことよりハ◯撮り!!!!!!”



 先輩は「お前……すごいやつだったんだな! 助けに来てくれたのか! ありがとう!」と目をうるうるさせていたが、その視線が下にいくと、俺の腰に抱きついてグスグス泣く和泉にギョッとする。


「お、お前……なんでこの状況で、女にフ○○させてんだ!?」


 やっぱそう思われるよなぁ。ダンジョンみたいな場所で性行為したら捕まっちゃうらしいし、一応弁解しておかないといけない。


「ああ、いや、これは熱々のチーズなんすよ。こいつはそのチーズを食べようとしてるだけっす」


「熱々のチーズがなんでチ○ポについてんだよ!?」


「ああ、ついさっきまでカップルちゃんねるやってたんす」


「カップルちゃんねるってチ○ポに熱々のチーズをかけたりすんのか!?」


「みたいっすねぇ」


「……すげえなカップルチャンネル。今まで見たことなかったけど今後追うわ」


「いいかもっすね、っと」


 魔石採掘場への入り口から、こちらに迫る魔物たちの気配……本来、一階層どころか、深層でもなかなかお目にかかれなさそうな凶悪な気配だ。


「……テマァァァ」


 現れたのは、スライムの群れ。


 スライムはスライム。しかし、スライムの丸っこいフォルムと違って、至る所にぶつぶつがある。

 そのぶつぶつはよく見るとうねうね動いていて、どうやら人間の指のようだった。



”え?”

”スライム?”

”なんだ、ビビらせんなよ”

”しょーもなwww何がダンジョン緊急事態だよwwww”

”スライムで慌てふためくダンジョン庁さんwwwそりゃ世界各国に舐められますわwww”

”こいつも二階堂が生み出したのか? めちゃくちゃ弱そうだけどwww”

”でもなんか指生えてるぞ”

”きっしょ”

”どのみちスライムなんだから大した強さじゃない”

”なんだ、これなら偽善者ニキが助けなくてもいいな”

”¥50000 そんなやつなら他の探索者に任せておいて、はやく竜胆と褐色美少女の救助に向かってくれ!!”

”え、てか、褐色美少女めちゃくちゃ強くね!?”

”なんだあの玉!?!?”

”すげぇ玉だ!!!”



「な、なんだ。ドラゴンが出たと聞いていたから、スライムか。形は妙だが……おい、俺たちも戦うぞ!」


「いや、やめておいたほうがいいっすよ」


 先輩が腕まくりをするので、一応止めておく。


「……ふっ、なんだ偽善者ニキ、スライム程度にビビってるのか? 意外と大したことないんだな!」


 すると、避難民の中から、ドヤ顔で現れた一人の探索者が、俺の肩を叩いて前に出る。



”お、B級探索者の赤松じゃん!”

”赤松ニキ!”

”赤松だ!! なんでこのレベルの探索者がこんなところにいるんだ?”

”まぁ赤松ならスライムくらい余裕で倒せるだろうし、偽善者ニキはここは任せて早く竜胆を助けに行ってくれ!!!”

”赤松なら任せて大丈夫!!”

”偽善者ニキ急いで!!!”

”ここは赤松に任せて先に行け!”

”¥2000 赤松がんばれ!”

”赤松最強! 赤松最強!”



「なら、お前の代わりに、俺が英雄になってやる!!!」


 赤松という探索者が、剣を抜いてスライムに飛び掛かる。


 すると、スライムの身体から、ぶっとい腕がにょきりと伸びた。


「テマアアアアアアアアっっっっ!!!」


 びゅん!!


 巨大な手が、赤松の身体を薙ぐ。

 すると、赤松の上半身が弾け飛び、血肉が俺たちに降り注いだのだった。



”えっ”

”えっ”

”は?”

”あっ”

”!?”

”!?”

”!?!?!?”

”うぉっ!?”

”うわああああああああああああああ!?!?!?”

”ぎゃああああああああああああああ!?!?!?”

”赤松ううううううううううううううう!!!”

”赤松が死んだ!”

”ぐっろ”

”やばい、吐きそう”

”スライムつえええええええええええええええ!!!”

”おいどうすんだよこれ!? B級の赤松が瞬殺なら、一階層にいる連中なんか全員勝てるわけないぞ!!”

”スライムでこれってことは、ドラゴンとかどうなっちゃうんだよ!?!?”

”赤松死亡! 赤松死亡!”



 スライムは、残った赤松の下半身にニュルニュルと手を伸ばすと、赤松の下半身を貫いた。

 そして、グジャグジャと指を動かし始めるが、あまりの威力にすぐに赤松の下半身は肉塊になってしまった。


 おいおい、そんなんじゃただただ痛いだけだぞ。二階堂って童○なのか?


「……きゃあああああああああああああ!!!!」


 すると、そんな光景を見た一人の女が絶叫し、周りの人間を突き飛ばしながら魔石採掘場の奥に逃げていく。


 それが契機になり、避難民たちは見るからにパニック状態で逃走を始めた。


 おいおい、あんま目の届かないところにいかれると面倒なんだけどな、っと。


「テマァァァァァ!!!!」


 スライムが襲いかかってくるので、とりあえずその手を素手で千切る。うわ、千切れてもうねうね動いてて気持ち悪いなぁ。


「テマァァァァァ!!!!」


 すると、スライムの身体に人の口が現れ、俺を噛みつこうと大きく開いた。

 おいおい、そりゃク○ニだろ。しかし、わざわざ口を作り出すなんて、こいつも二階堂と一緒で馬鹿だな。


「オラッ、咥えやがれ!!」


 俺はその口に思い切り手を突っ込むと、中の核を握りつぶした。


「テマァァァァァァァァァァァ!?!?!?」


 スライムは絶叫。どろどろと身体を溶かしていく。



”うおおおおおおおおおおおおおおお!!!”

”よし!!!”

”強えええええええええええええええええええ!!!”

”さすが偽善者ニキ!!!!!”

”¥50000 っぱ偽善者ニキよ!”

”¥30000 やっぱわたし純ピ好き! ナナちゃんにはごめんだけど、これからも推しちゃう!”

”¥78800 だよね! こんなに強いとクズなところも魅力的に見えちゃう”

”魔物の核を握り潰すって、なんちゅう握力してんだよwww”

”大丈夫、二階堂がバケモンになったか知らんが、偽善者ニキは元からバケモンだ!!!”

”武蔵野純一最強! 武蔵野純一最強!”



 ふむ、ここら辺もスライムと違いはなさそうだな。このまま素手で抹殺してもいいが、ここからさくらちゃんとの戦闘も加味して、省エネですませたい。


 俺を警戒するスライムたちを見ながら、俺はどうしたもんかと頭をひねる


「あ、そういやこんなのあったな!!」


 俺はすっかり存在を忘れていた魔法『アイテムボックス』を使って、一つの魔道具を取り出した。


 『ことわりの天秤』。

 マッマが生まれる前からあったらしい、魔道具の一つだ。

 この世のことわりを追加することができるというもので、俺の部屋にインテリアとして映えると取っておいたのだが、すっかり忘れていた。



”え?”

”なんだ?”

”なんもない空間から天秤が出てきたぞ!?”

”これもワープ魔法か!?”

”おい待てこれ”

”あれ、なんかどっかで見たことある”

”これ、『ことわりの天秤』じゃねぇか!?”

”京都の伏見神社に封印してたけど、封印が解けたと同時に消え去った災害指定魔道具だよな!?”

”災害指定魔道具ってなんだ?”

”世界ダンジョン機構が指定した、強大な力を持っているがゆえに災害を起こしかねないとされる魔道具だよ!!!”

”なんでそんなもん偽善者ニキが持ってんだよ!?”

”そりゃ盗んだんやろ”

”偽善者ニキはそんなことしない!……と言い切れない”

”武蔵野純一盗人! 武蔵野純一盗人!”



 使う魔力は膨大だが、まぁさくらちゃんとの戦闘で魔法を使う余裕なんてないだろうし問題ないか。


 俺は天秤に魔力を込めると、天秤の先端から魔力の洪水が溢れ出て、俺たちを包み込んだ。


 さて、どんなことわりにしよっかなっと……おお、これがいい!


「デス指スマで負けたら死ぬ、だ!!!」

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