第28話 やっぱりハ◯撮◯した方が良くない?



「みんなぁ〜、今日はナナの配信に来てくれてありがとう!」



”ナナちゃん!”

”ナナちゃんほんと無事でよかった!!”

”ナナちゃん大丈夫?”

”ナナちゃん無理せず休んでね”

”ほんと、無理しないで!”

”退院して一日だよね!? お願い休んで!”

”あんなことがあった後なのに……私たちを心配させないよう配信してくれるナナちゃん神すぎん?”

”¥3000 これ、少ないけどお見舞い代!”

”¥5000 ナナちゃんほんと無事でよかった!”

”¥10000 ナナちゃん愛してる!”



「えへへ、ありがとう……早速だけど、今日は、どうしてもみんなに伝えたいことがあるんだ」



”告知で重大発表って言ってたよね! なんだろう”

”そりゃ、偽善者ニキとよりを戻したことでしょ!”

”連日TVでもSNSでもその話題で持ちきりだもんねwww”

”十八歳でメディアジャックスするとか凄すぎ!”

”キス大胆すぎて変な声でちゃったもん”

”でもそれ、もうみんな知ってるから、重大発表にはならないんじゃない?”

”探索者引退だったら悲しい”

”確かに。でもあんなことあった後だから、仕方ないよね”

”探索者やめても、私はナナちゃんを応援します!”

”私はナナちゃんのルックスとファッションに憧れてるから、別に探索者じゃなくてもいいんだよね”

”ほんとそれ。可愛さとかっこよさが同居しててほんと素敵な女の子”



「……前の配信で一回別れちゃった純ピと、お付き合いすることになったのは、みんな知っててくれてると思います! ほら来て純ピ!」


「あ、ちわっす」


 俺はひょこりとカメラ前に顔を出す。



”お、偽善者ニキだ!”

”日本の英雄!!”

”暗澹竜倒した時、めっちゃかっこよかったです!”

”それもそうだけど、迫り来る報道陣からナナちゃんを守るため飛んだのもすごくカッコよかった!”

”それ! ほんと理想の彼氏だよね”

”今一番アツい探索者と付き合えるとか、やっぱナナちゃんってすごい!”

”偽善者ニキナナちゃんねる出てくれるんだ! この配信も絶対バズる!”

”二階堂が終わったらすぐに他の男に行くとか、マジでビッチじゃん”

”は? ナナちゃんは元からあんなクソ男と付き合ってないから”

”でも、偽善者ニキナナちゃんを無理やり深層に連れて行ったんだよね……ちょっと複雑だよ”



「あ、あれはね、ワープ魔法の仕組み上、仕方のないことだったんだ! ね、純ピ?」


「え、ああ、うん」



”そうだったんだ!”

”だったら仕方ないね!”

”おかげでナナちゃん深層到達探索者になれたしむしろよかった!”

”てか、ある意味一番素敵なデートじゃんね。深層とか、他の男じゃ絶対無理だもん”

”純ピ、よく見たらカッコよくない?”

”二階堂なんかより全然いい男”

”死んだ魚みたいな目が素敵!”

”死んだ魚みたいな目? 生臭いってこと?”

”笑ったwww”

”かっこいい純ピ”

”ぶっちゃけ私も付き合いたいwww”



「ちょっともう、純ピは私の彼氏なんだから取っちゃダメだよ!……で、重大発表なんだ、これから、このチャンネルは、ナナと純ピの二人でやっていこうと思ってるんだ!」



”わあああああ!!!!”

”いいじゃん!”

”これは朗報”

”賛成!!”

”やっぱり彼氏は、彼女を守れるような人じゃないとね!”

”カップルチャンネルってことだよね? 嬉しい!”

”¥3000 めでたい!”

”¥8000 二人とも、おめでとう!!”

”正直カップルチャンネルとか興味ないけど、偽善者ニキが見れるのはありがたすぎる!”

”マジでそれな。偽善者ニキがこのチャンネルでダンジョン潜ってくれるんなら登録します!”

”もう一回深層の魔物相手に無双見せてくれ!”

”既に登録者10万人増! 偽善者ニキの影響力すげえええええ!”



 コメント欄は肯定的な意見ばかりだ。この調子なら再び彼氏をクビになることもなさそうだ。


 ホッとしたのも束の間、そこからカップル配信者の仕事が始まった。これから巨額の金が手に入ると思うと緊張もしたのだが、あまりに無駄な緊張だった。


「それじゃ、ナナミンのみんな、純ピにバンバン質問しちゃって!」


 ナナミンとは、どうやら和泉のファンの呼称らしい。どっかで聞いた気がすんなぁ。



”¥3000 純ピは、ナナちゃんのどういうところが好きですか?”



「好きなところ……顔がいいところじゃないか」


 女とセックスする上で顔がいいというのは利点になる。当然の回答だったのだが。


「………!!!!!」


 すると、横に座る和泉がジタバタ暴れ出した。

 なんだ、遠距離魔法攻撃でも受けたのかと半笑いで見ていたが、荒れ出すコメント欄に笑みも消えた。



”¥5000 きゃああああああああああああ!!!”

”¥3000 上質なイチャイチャを見せてくれてありがとう!”

”¥3000 偽善者ニキ、理想の彼氏すぎる”

”¥2000 もうこのカップル大好き”

”¥8000 顔真っ赤なナナちゃんご馳走様です”



 なんだ!? ただ顔がいいと言っただけで、めちゃくちゃ金を払い出したぞ!?


 ……二階堂が雑魚魔物を殺してるだけで金を払うような異常な奴が地上にいることは知っていたが、まさかここまで狂ってるとはな。普通にダンジョンの連中に侵略されちゃうんじゃないか? 心配になってきたぞ。


 それからも、脂っこい韓国料理を食いながら、何一つ生産性もない質問に答え続ける。


 これで金が貰えるとは信じられないくらい楽な仕事だが、洞察数はどんどん伸びて十万人を突破し、コメントの前には¥10000やら¥30000がつきまくる。


 配信が始まって十分もしないうちに、俺の今までの月収など余裕で超えるほどのスパチャが飛んだのは間違いない。


 本来だったら、喜び感涙しなくてはいけない場面なのだろう。


 しかし、なんだろう……すごく帰りたい。


 おかしいな。ただ飯食って話してるだけなのに、なんでこんなに辛いんだろう。


 ……これが罪悪感ってやつなのか? 何せ、今のところ俺は何一つ生産性のあることができていない。それなのに金を受け取るなんて、俺の経験上初めてのことなのだ。


 俺はやれやれとため息をつくと、配信前に無理矢理着せられた和泉が出してるのブランドの服を脱ぎ捨てる。すると、和泉は悲鳴をあげた。


「きゃぁっ!? じゅ、純ピ、急にどうしたの!?」


「いや、ハ○撮りしようと思ってな」


「ハメッ!?」



”!?”

”!?”

”ファッ!?”

”ハ○撮り!?!?”

”純ピ何言ってんの!?”

”聞き間違いだよね!?”

”¥78800 チャンネル登録しました!”

”¥78800 ありがとう偽善者ニキ!!”

”¥78800 これ、お布施です”

”¥78800 よろしくお願いします”

”¥78800 どうせなら竜胆が良かった”

”¥78800 耳ピアスだらけだし、やっぱり乳首にもピアスついてんのかな?”

”¥78800 もし乳首ピアスでしたら、あと満額スパチャ114514回送らせていただきます”

”武蔵野純一最強! 武蔵野純一最強!”

 


 おお! すげぇスパチャきた。やっぱりこれが正解だったか!

 

「ほら、お前もとっとと脱げよ。貧相な身体でも脱いでないよりはマシだ」


「ひっ、貧相じゃない! スレンダーって言って!」


「ああ? ともかく、早く脱げよ」


 俺はベルトを外してズボンを脱ぎ、パンツ一丁になった。


「ひょ、ひょえええええええええええ!?!?!?」



”えっ”

”でっか……”

”うちの彼氏の何倍あるのこれ……”

”すごい……”

”¥78800 受けとってください”

”¥78800 もしよかったら二人きりで会えませんか?”

”¥78800 会いたい”

”¥78800 眼福”

”¥78800 私なら、個人的に純一くんを援助してあげられるけど、どうかな?”

”¥78800 パンツ脱いでくれたらもっとお金払います”



 おお、パンツ一丁でこの盛り上がりか! ならパンツも脱いだら相当盛り上がるな!


 俺がパンツに手をかけると、ポーッとしていた和泉が慌てて叫ぶ。


「だ、ダメ!!! 垢BANになっちゃうから!!」


「え? ああ、そういやそうだったな」


 仕方なく諦め服を着ようとしたその時、失望に塗れたコメント欄がざわめき出した。



”おい、元カレが配信始めたぞ”

”ちょっと、そんなのどうでもいい”

”元カレの話するとかデリカシーなさすぎ!”

”ほんとそれだよね”

”最低!”

”お、竜胆暁と可愛い女の子映った”

”竜胆も可愛いけど、隣の子美少女すぎる”

”二階堂の隣の人も美人”

”なんか、美人だけど……人間味がないというか、なんというか、変じゃない?”

”へぇ、さくらさんっていうのか”

”さくらさん美人だなぁ”

”へ?”

”さくらさん、今なんて言った?”

”今殺すって言ったか?”



「ちょ、ちょっと、あんまり他の配信の話しないでよ! てか純ピは早くその凶器しまって!!」


 さくら。あまりに一般的な名前だが、俺からしたら、どうしても思い浮かべてしまう奴がいる。


 スマホを取り出して、二階堂のチャンネルを開く。恐怖に身がすくんでいる竜胆と、暗い表情の二菜、そして、マッマの忠実なしもべ、佐藤さくらがいた。


『……なんだ、本当に意味がわかっていなかったのか。それなら仕方がない。竜胆暁、改めて言おう!!! 僕とオ○パコをしろ!!!!!』


 すると、二階堂がこんなことを言い出した。


『え、嫌だ……』


『……は?』


『いや、すまない、その……君とは、そういうことはできないよ。いや、君がどうと言うより、ほぼ初対面じゃないか』


『……ふふ、そう、そうか。はは、はははっ……ほぼ初対面の武蔵野純一の手○○でヨ○っていたくせになぁ!!!』


『なぁ!?!?!?!?!?』




”え?”

”は?”

”今なんつった?”

”ちょっと!?”

”手○○!?!?”

”そんなわけないだろ!!”

”暁は処女だぞ!? 手○○なんてされるわけがない!!”

”え、でも、暁のリアクションマジっぽいんですけど!?”

”偽善者ニキはなんだかんだ暁ファンを裏切らないと信じてる”

”偽善者ニキ嘘だと言ってくれ”

”偽善者ニキ!!!!”

”どう言うことなんだよ!!!”

”答えてくれよ!!!!”



「……どういうこと、純ピ」


「ん? 何が?」


 俺が首を捻ると、和泉の顔がみるみるうちに赤くなっていく。


「何が、じゃないでしょ!?!? 竜胆暁に手○○したの!?!?」


「ああ、したよ」


「ああしたよ!?!?!?」


 和泉が絶叫すると、口から飛んだチーズが俺のチ○ポにブッかかった。おいおい、暗澹龍のブレスなんかよりよっぽど効いたぞ。

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