ダンジョン探索者試験に落ち底辺ダンジョン労働者になった俺、人気ダンジョン配信者を救助したら多額の謝礼金が貰えると聞いたので助けまくります〜金を要求するとこまで配信され炎上気味にバズったけど気にしません
第27話 ダンジョン観光、二階堂に遭遇 *竜胆暁視点
第27話 ダンジョン観光、二階堂に遭遇 *竜胆暁視点
「全く、なんなんだ、和泉さんは!」
怒りのおさまらない私が思わず愚痴をこぼすと、二菜ちゃんはケラケラと笑った。
「ママ、ご立腹だね!」
「ああ、すまない……しかし、和泉さんが武蔵野くんの彼女だとして、なんで二菜ちゃんと私の関係を変えないといけないんだ!」
大体、和泉さんが武蔵野くんの彼女と言うのも怪しいところだ。少なくとも武蔵野くんは、カップル配信者としてお金を稼ぐために便宜上彼女を受け入れただけに見えたけどな!
「ね!……あーあ、私は、お兄ちゃんとママに付き合ってほしかったなー」
「……何を言ってるんだ。別に私は彼のことを、男性として見てるわけじゃない」
「あんなに気持ちよさそーな声出しといて、それは無茶だと思うけどー?」
「うっ……あ、あれは……単純に、彼が、うま、かったから」
「ああ、うまいよねぇ」
「うまいよねぇ!?!?」
……ダンジョンで暮らしていたらしい彼らの倫理観がちょっとアレなのは仕方ないけど、武蔵野くんには一回ちゃんと説教しないといけないな。
「しかし、やはり変な感じだな。子供と一緒にダンジョンにいると言うのは」
これ以上触れるのが怖くなった私は、話題を逸らすことにする。
そう、ここはダンジョンの一階層。
基本的にダンジョン探索者しかダンジョンに入れないものの、一階層の場合、プロの探索者が同行すれば入ることができる。もちろん戦闘は許可されておらず、魔物と遭遇したら逃げる一択だ。
すると、二菜ちゃんは不敵な笑みを浮かべた。
「何言ってんの? 私、ここにすんでたんだよ? てかママより全然強いから私が守ってあげる! ほら見て、暗黒毘沙門天玉」
「あん、びしゃ……? ともかくヤバそうだから、今すぐ消してくれ!」
「……ちょっと久々に来たかったんだよね。わがまま言ってごめんね」
と、二菜ちゃんが俯きながらそういうので、私はすぐさま「いいんだよ」と彼女の頭を撫でた。
そして、聞くべきかどうか迷っていたことを、思い切って聞いてみることにした。
「二菜ちゃんは、マッマ……ダンジョンの主に、会いたいかい?」
「……うーん」
二菜ちゃんは私の問いに、複雑そうに笑う。いつもは年齢より子供っぽいのに、今はやけに大人びて見えた。
「会いたいような、会いたくないようなって感じかなぁ」
「……それはまた、どうして?」
「だってマッマ、優しい時とすごく怖い時があるんだもん!」
「何を言っているんですかその2。マッマはいつもお優しいですよ……いえ、もうその2では無くなったんでしたね、武蔵野二菜さん」
後ろから声がするまで、全く気配に気づけなかったことにまず驚き、振り返って驚愕した。
失踪したと噂の二階堂くんが、浮遊カメラをこちらに向け虚な目でこちらを見ていることにも、確かに驚いた。
しかし、問題は二階堂くんの隣に立つ女性が、あまりに異質な存在であることだった。
「あ、さくら先生、こんにちわ」
私の手を握る二菜ちゃんの手が、急速に冷え切っていく。さらさらだった手のひらから、粘着質な汗が吹き出してきた。
このさくらという女性……いや、この魔物は、とんでもなく強い。私が今まで出会ったどの魔物より、それこそ暗澹龍よりも、圧倒的に、だ。
「連休の最終日だけあって、観光目的の方もたくさんここに来られているようですね」
その魔物は、まるで散歩の道中かのような気軽な口調で私たちに語りかける。
私が身動き一つ取ることができずにいると、代わりに二菜ちゃんが答えた。
「そうみたい。あ、私とマ……この人間、そろそろ地上に出ようと思ってるから、それからなら好きにしてもらっていいよ?」
「はは、残念ながらもう手遅れです」
その魔物は、人間の顔で微笑む。
完璧に左右対称な完璧な笑みが、あまりに人間からかけ離れていて、そんな場合でもないのに、不気味の谷現象という言葉を思い出した。
「ダンジョンの出入り口はすでに塞ぎました。今から、この地下一階にいる人間、全員二階堂さんが殺します……もちろん、その中にはあなたも含まれますよ、二菜」
「……………」
二菜ちゃんの手が私の手の中で小刻みに震えはじめる。
怯えている、場合ではない。
「何を言っているんだ、あなたは……二階堂くん、そんな人のこと放っておいて、一緒に病院に戻ろう」
すると、二階堂くんはゆっくりと顔を上げ、鈍い光に輝く瞳で私を見た。
「……なんで、オフ○コしてくれなかった」
「え?」
オフパ、って、一体彼は何を言い出してるんだ!? そのカメラ、回っているんだろう!?
「竜胆暁、君に DMしたはずだ。『今日は月が綺麗だが、俺の家の屋上で焼いてかない?』と……」
「え……あ、ああ、そんなこともあったね」
初対面の人の家の屋上で月を見ながらバーベキューという、気まずさしかないイベントに参加する気は起きなかったので、丁重にお断りしたはずだ。
しかし、それがなぜオフパ……になるのだろうか?
「……『月が綺麗』は、夏目漱石が告白に使ったとされる告白文句だ」
「え、あ、そうなのか……すまない。学生時代から探索者になると決めていたから、あまり勉強はしてこなかったんだ」
「……勉強していなくても、『屋上で焼いてかない?』は、セ◯クスの誘いってことくらいわかるだろうが!!」
「あえっ!? そっ、そうなのか!?!?!?」
屋上でバーベキューするのが、か?……え、なんで? 意味わからなすぎる。そ、ソーセージとかも焼くからかな?
彼はお金持ちだから、アワビとかも焼いてたのかもしれない。ソーセージもアワビも焼かれたら汁が出る……いやらしい。
「……なんだ、本当に意味がわかっていなかったのか。それなら仕方がない。竜胆暁、改めて言おう!!!」
二階堂くんは両手を広げ、狂気的な笑みを顔いっぱいに浮かべた。
「俺とオフ○コをしろ!!!!!」
「え、嫌だ」
「……は?」
二階堂くんの笑みが一瞬で消え、ものすごく不機嫌な表情になる。いや、なんでそんな顔できるんだ?
「いや、すまない、その、君とは、そういうことはできないよ。いや、君がどうと言うより、ほぼ初対面じゃないか」
「……ふふ、そう、そうか。はは、はははっ」
二階堂くんは腹を抱えて笑い出すと、再び人が変わったように怒りの形相で私を睨みつけた。
「ほぼ初対面の武蔵野純一の手○○でヨ○っていたくせになぁ!!!」
「なぁ!?!?!?!?!?」
こ、この男!?!? なんでそのことを知っている!? ていうかカメラの前でなんてこと言うんだ!?
「な、そっ、名誉毀損だ!! 私は、その……ヨッ…なんかしてない!……あっ!? そもそも手…なんてされてない!!!」
「嘘つけ!!! 仕方なく同意した感を出しておいて、ものの数秒でお前の方からおねだりしていただろうが!!!」
「にゅあっ!?!?!?」
だから、なんでそのことを……ていうかおねだりなんてしてないし! ヤダとかダメとかいっぱい言ったもん!!
「この売女、売女、売女、手○○、手○○、手○○、手○○、手○○させろ!!!」
二階堂は、ブツブツと何かを言うと、私の方に手を伸ばす。この距離では触れられることもないので、ただただドン引きしていると。
うにゅにゅにゅにゅにゅにゅにゅっ!!
その指先が、音を立てながら変形し、私たちの方へと蛇のように伸びてきた瞬間、私は二菜ちゃんを抱きかかえて後ろに飛び退いた。
……なんと、言うことだ。さくらという魔物のあまりに異質な存在感のせいで、ここまで全く気づけなかった。
二階堂くんは二階堂くんで、明らかにおかしい。まるで、魔物が二階堂くんの皮をかぶっているかのような気配がするのだ。
伸び切った指が、その自重に耐えられなくなったのか、分離しボタボタと地面に落ち始める。
しかし、その指たちは動きを止めることなく、私たちの方に這ってくる。
その途中、指は集まり合体し、形を変え、誰もが知る魔物の形を取った。
「ドラ、ゴン……?」
「ぷぎゃあああああああああ!!!」
指から生まれたドラゴンが口をバカリと開けると、そこからワラワラと指が伸びてくる。あまりにグロテスクな光景にゾワっと身の毛がよだった。
「手○○ク○○せろぉぉぉぉ!!!!!!!」
二階堂くん……いや、二階堂くんの形をした化け物が、とんでもない造語を叫ぶと、ドラゴンたちが一斉に私たちに飛びかかってきたのだった。
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