第25話 二階堂に謝礼金を取り立て
「うげ……なんだこの人だかり」
あれから、二階堂に何度も電話をかけたのだが出ない。そこら辺は想定内だ。命より大切なお金を払いたいわけないもんな。
そこで、二階堂を運び込んだ病院に行くと、その入り口に浮遊カメラをぷかぷか浮かせた奴らがたむろしていた。
おいおい、いつから病院がダンジョンになったんだ? だとしたら移転すべきだろと一瞬思ったが、よく見ればこいつら、探索者にしては脆弱すぎる。
すると、脆弱連中がこちらを振り返り、一様に興奮を示す。
「おい、偽善者ニキだ……!」
「武蔵野純一……!!」
「武蔵野さん、今回の件について何か一言!!!」
「一体なんの目的でこの病院を訪れたんですか!?!?」
そして、その脆弱な身体の割に俊敏な動きで俺を取り囲む。
なるほど、報道の連中だったか。面倒なのに捕まっちゃったな。
「二階堂に謝礼金を求めにきたんだよ。邪魔だから退いてくれ」
すると、一人の女記者が、俺の頬にマイクを突き刺してくる。おいおい、お前が俺だったら死んでたところだよ。
「その二階堂晴人さんが昨夜未明病院から姿を消したようなのですが、武蔵野さんは何か知りませんか?」
「……冗談だろ!? あいつ、逃げやがったのか!?!?」
そこまでして金を払いたくないのか!? 全く、どこまでケチなんだよ二階堂!
「ったくよぉ……」
人探しできる魔法があったかどうか考えている最中にも、報道の連中が矢継ぎ早に質問してくる。ああもう鬱陶しい。全員消し炭にしてしまおうか。
「純一!! 迎えにきてくれたんだね!」
すると、その報道陣の中から、猫の耳がついた帽子を被ったゴスロリの女が飛び出してきた。
ちゅっ。
そして、俺の腕にひしと抱きつき、勢いよく俺の唇にキスをした。
「「「おおっ!!!」」」
報道陣はざわめいて、カメラでパシャパシャ撮り始める。そのフラッシュで帽子女の顔が照らされて、俺は見覚えのある顔に少し驚いた。
「お前、和泉か。そういやお前もここに運んだっけ」
和泉、という名に、報道陣が沸く。
「えっ? 何、ナナを迎えにきてくれたんじゃないの!?」
「ん? 当たり前だろ。てか、お前の存在、今の今まで忘れてたわ」
「……もう、嘘つき! そんなツンデレなところも好き!!」
和泉は俺にぎゅっと抱きついてくる。確かこいつ、俺にブチギレてなかったか? 別人かもと思ったが、臭いからしてやはり和泉だ。
「ちょ、ちょっと待ってください! 武蔵野さんと和泉さんは破局されたんじゃなかったんですか!?」
報道陣の一人が俺たちにマイクを向けてくる。いや、破局もクソも、まず付き合ってすらいないんだがな。
「あ、それは、確かに、ちょっとしたすれ違いがあったんですけど、すぐに誤解も解けたんです!」
「はぁ? お前何言ってんの? せっかく入院してたんだから頭の方も見てもらえよ」
「もう、このツンデレニキィ!」
「ツンデレニキってなんだよ。俺は偽善者ニキっ」
俺が言い切る前に、和泉は再びキスで俺の唇を塞いだ。全く、地上に言論の自由ってのはないのかね?
報道陣は馬鹿声と共にシャッターを焚く。ダンジョンという基本暗いところ出身の俺としては、この光は拷問に近い。
「ああ、もう、ほら、行くぞ」
俺は和泉の腰を抱いて、報道陣の包囲から抜け出すため、思い出したての浮遊魔法で、そのまま空高く飛んだのだった。
⁂
「おい、お前、いつまでついてくる気なんだよ」
「いつまでって、純一の家までに決まってんじゃん! ナナ、純一の彼女なんだから!」
「いやだから彼女じゃないっつってんだけど……まぁいいわ。勝手にしろや」
和泉にストーキングを受けながら自宅の玄関を開けると、でっかい段ボールが俺を待ち構えていた。
「ん? なんだこりゃ」
「サーニャさんが送ってきてくれたみたいだよ!」
すると、リビングからひょこりと顔を出した妹が上機嫌に言う。
最近はあいつのおかげでメンタルが安定してきたようで助かる……なんて言ってる場合じゃない!
「謝礼か! ずいぶん早いなぁ!」
俺はガムテープを慎重に剥がして、ドキドキワクワクしながら段ボール箱を開いた。
「……おい、なんだよこれ」
てっきり札束が詰まっているかと思ったら、異様にカラフルな絵面に唖然とする。
恐る恐る、一つとってみる。プラスチックの日本刀から、「壱ノ型!! 水◯斬り!!」とかいう声が聞こえてきた。え? なんだって?
妹が段ボールの中を覗き込んで、わぁっと歓喜の声を上げる。
「めっちゃアニメグッズあるじゃん! 普通に欲しいからもらっていい?」
「……ああ、勝手にしろよ」
「やった!!」
妹は段ボールを抱えてウキウキリビングに戻っていく。
その背中を見ながら、ちゃんと返品して、金を要求した方がいいかなとも思ったが、なんかもう面倒くさいのでやめた。
「はぁ……」
深々とため息をついて、思ったより自分が落ち込んでいることに気がつく。
なんか最近、感情ってのが随分強くなってきた気がすんなぁ。それだけ真っ当な人間らしくなったって言うことなら、歓迎すべきなんだろうか。
「ねーねー、アニメグッズいっぱいあるからママにあげる! ねぇ、ママは何にする?」
「ん? ちょっと待ってな、今料理中だから」
「もー、そんなの後にしてよー。ほらほら早くー!」
「もう、わかったわかった……武蔵野くん、おかえりー」
そう言って、手をエプロンで拭きながら、リビングから顔を出したのは竜胆だ。俺が「ああ、ただいま」と返す前に、和泉が叫んだ。
「竜胆暁!?!?!?」
「……あ、あぁ、和泉、さん、その、どうしてここに?」
「こっちのセリフよ!!! なんであんたが純一の家にいるわけ!?!?!?」
「あ、いや、それは……」
竜胆がモゴモゴしていると、代わりに妹がドヤ顔で答える。
「いいでしょ? 竜胆さん、私のママになってくれたんだよ?」
「ま、ママァ!?!? あんた、まだ十九でしょ!? そんなでっかい子産んでたの!?」
「は、はははっ、そんなわけないだろう」
「じゃ、じゃあ何!? 純一の子でも孕んだわけ!?!?」
「……にゃっ、にゃにゃにゃにゃにゃにをいう!?!? しょんなわけにゃいだろ!!!」
竜胆はなぜか自分のお腹をさすりながら、顔を真っ赤にして否定する。
手○ンなんだからそりゃ孕むはずないので、もっと堂々としてりゃいいと思うんだがな。
「それじゃあんたは、純一のなんなのよ!?」
「なんなのって……なんなん、だろう」
「何よその思わせぶりな態度!!」
和泉はキーっと魔物のような奇声を上げると、「言っとくけど、こんなツヨツヨ男、ナナは絶対に手放さないんだからね!」と、俺の身体に絡みついていく。
すると、竜胆がムッと頬を膨らませる。
「まるで、彼の強さのみを見ているような言い草だな」
「そうよ! 女なんて結局強い男が好きじゃん!! あんただってそうだから純一に抱かれたんでしょ!?」
「そっ、そんなことない! 彼は特殊な環境に置かれていたから、誰かの支えが必要だと思ったんだ!」
「はぁ!? 純一は強いんだからあんたの支えなんていらないし!」
和泉はフシャーと竜胆を威嚇してから、一転、俺の胸にすりすり頭をなすりつけながら、猫撫で声で言った。
「ねぇ、純一、お金が欲しいんだよね? だったらこんな女放っておいて、ナナとカップルチャンネルしよ?」
「カップルチャンネル? ああ、お前と二階堂がやってたやつか」
「産業廃棄物の名前なんか出さないで! もうナナは純一のものなんだから!」
「いや、そんなのどうでもいいから、続きを聞かせてくれ」
「もう、どうでもいいなんて、本当は気になってるくせにぃ」と意味不明なことを言いながら身体をくねらせた。
「ナナと純一が一緒にチャンネルやったら、絶対配信界でトップ取れるよ! 月収5000万は余裕で超えるもん!」
「「ご、5000万!?!?」」
俺と妹の声がユニゾンする。
和泉は、自信満々と言った様子で無い胸を張る。どうやら本気で言っているようだった。
「だ、だけど、俺はアマ探索者だから、その金は受け取れないんだろ?」
「大丈夫! 収益はあたしが受け取って、その半分を給料として純一に払えば大丈夫!! 純一が二階堂のとこでスタッフやってた時も、ちゃんとお金もらえてたでしょ?」
「……なるほどな」
これは断る理由もない。はずなのに、どこか違和感を覚えた俺は、妹と竜胆の方を見る。
すると竜胆は、拗ねた子供のようにプイッとそっぽを向いた。
「べっ、別にいいんじゃないか? 私は君にとってなんでもないんだし、わざわざ許可を求める必要もない!」
「え? 別に許可なんて求めてないが?」
「……ふっ、ふん! そうかそうか! 勝手にしろ! ほら、二菜ちゃん、アニメグッズを一緒に選ぼう!」
竜胆が妹の手を引いてリビングに戻ろうとするが、妹はびくともしない。
「うーん、お兄ちゃん、どうせならママとカップル配信者した方がいいじゃない?」
そしてそんなことを言い出すので、またヒステリックを起こしそうな和泉の口を塞いでから、妹に聞く。
「なんでだ?」
「そ、そうだよ二菜ちゃん。私と武蔵野くんは決してそういう関係ではないんだからね!」
続けて竜胆が二菜の頭を撫でながら言うと、二菜は竜胆の身体を隅々まで眺めてから、こう言った。
「だってママの方が圧倒的にエロい身体だもん。どうせハ○撮りして公開するならエロい方が再生回数回るじゃん!」
「「……ハメ○りするの!?」」
「「え、しないの!?」」
竜胆と和泉がユニゾンで驚くので、俺と妹もユニゾンで驚き返したのだった。じゃあカップル配信者ってなんであんな再生回数多いんだよ。見てるやつ全員ラリってんのか? 気持ちわるっ。
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