第20話 上空4000mからの落下



「……う、うわあああああああああああああああ!!!!」


 まず悲鳴を上げたのは二階堂だった。続けて和泉も甲高い悲鳴をあげるが、すぐにガクンと気絶する。



”え?”

”青っ!?!?”

”まぶしっ”

”え、こんな階層あったっけ”

”下に見える白のモヤモヤ、まさか雲じゃないだろうな!?”

”おい待て、サーニャのマップ情報、ダンジョンから消えたみたいだぞ!?!?”

”え、てことはもしかしてこれ、ダンジョンの外!?”

”なら、相当高い上空に放り出されてないか!?”

”ええええええええええええええええええええええええええ!?!?”

”おいいいいいいどうすんだこれええええええええ!?!?!?”

”ぎゃあああああああああああああああ!?!?!?”

”偽善者ニキどういうつもりなんだよ!!!!”

”マジで自○行為すんの好きだな偽善者ニキ!?!?”

”ワープ魔法失敗にも程があるだろ!?!?!?!?”

”これ全員即死だろおおおおお!!!!!”



「ほぉ!!! ワープ魔法か!!! 珍しい魔法を使えるんじゃな!!!」


 すると、風圧でなかなか面白い顔をしたサーニャが、風に負けないように叫ぶ。


「え、ああ、うん、ありがとう!!」


「暗澹龍を真っ二つにするし、少なくともS級探索者に相応しい実力はありそうにゃん! 是非とも手合わせ願いたい……ところだったんじゃあが、今ママからメッセが来てのぉ!! これ以上遅くなると怒られちゃうから、今日はここらでお暇するぞよ!!!」


「え!? おい、謝礼はどうすんだよ!!」


「安心せい!! あとで貴様の住所に送ってやる!!!」


「待て待て、お前俺の住所知らないだろ!!」


「そんなもんギルドの連中に頼めばいくらでも教えてくれるにゃん!!!」


「あ、そうなんだ!!」



”ダンジョンギルド、個人情報管理ゆるゆるで草、って言ってる場合かああああああああああ!!!!”

”なに呑気に話したんだよおおおおおおおお!!!”

”安心しろ! サーニャの水の魔法には飛行系もあるから!!”

”そっか!!!”

”ホンマやんけ焦って損した”

”なるほど、偽善者ニキはそこまで計算してたのか!!!”

”ないない”

”ないな”

”あり得ない”

”あのアホ面見てみろ。なんも考えてないぞ”

”じゃあ逆になんで上空4000mから落下しててこんなアホ面できてんだよ!”

”草”

”wwww”

”武蔵野純一アホ! 武蔵野純一アホ!”



 サーニャは空中で器用に体制を整えると、抜刀。


「水の魔法、⑧の型、水竜の凛太郎くん!!」


 すると、刀からドバッと溢れ出した水流が、竜の形になる。サーニャはその水竜の背に乗ると、俺たちに手を振った。


「それじゃあの!!!」


 そして水竜は、野太い身体をくねらせると、目にも止まらぬ速さで空を飛んでいったのだった。



”え?”

”ちょっと待て”

”サーニャ!?!?!?!?”

”行っちゃうの!?!?”

”嘘だろおい!?!?”

”ええええええええええええええええ!?!?!?”

”アイエエエ!?サーニャ!?サーニャナンデ!?”

”嘘だと言ってよサーニィ!”

”この人手なし!!!!”

”人の心とかないんか!?!?!?!?”

”暁ちゃんだけでも助けてよ!!!!”

”リアルになんで!? サーニャってS級の中じゃまだまともな方だろ!?”

”あの奇怪な格好と喋りでまともな方ってS級マジで狂ってんな!!!”

”サーニャ、戻ってきて!!!!”

”ふざけんなああああああああああああああああ!!!”



「おい、待って、待ってくれ!!!!!!」  


 二階堂は空中で必死に平泳ぎをして、水竜を追いかけようとしたが、追いかけるどころかむしろ後退していく。


「武蔵野くん、どうするつもりなんだ!!!」


 すると、竜胆が俺から離れないよう俺の手を握り、耳元で叫んだ。


「ん? ああ、それは地上に着くまでに考えるよ!!!」


「……ちょっ、ちょっと待ってくれ!? 何も考えずに転移したのかい!?!?」


「当ったり前だろ!!!!!!!!」


「なんでキレてる!?!? なんでキレれる!?!?!?」


「そんなことより、お前と手を繋いでたら落下のスピードが早くなった気がするんだが、どうしてくれんだよ!!!」


「なっ!?!? 私を重り扱いするな!!!」



”終わったああああああああああああ!!!”

”マジでこんなお別れ嫌だよ”

”暁あああああああああああああああああ”

”偽善者ニキ許さない許さない許さない許さない”

”なんか画面だけ見たら結構エモいのに会話酷すぎて草”

”地面もないのに草を生やすな”

”んなこと言ってる場合か!!!!”

”それじゃあ何を言えばいいんだよ。今回ばっかしはもう万策尽きただろ!!!”

”偽善者ニキ、少なくとも魔法二つ使ったから、もう一つなんか使えてもおかしくない”

”それはないやろ。偽善者ニキ十八やろ!?”

”もう一回ワープ魔法使って、今度は地面ギリギリに出たら大丈夫なんじゃね?

”それだ!!!!”

”偽善者ニキ早く!!!!”

”いや、ワープ魔法は自分の状態を保存したままワープするから、地上にワープしても、そのままの速度で地面に激突して終わり。死ぬのが早くなるだけやで”

”はい終わったああああああああああああああ”

”武蔵野純一最低! 武蔵野純一最低!”



 そして俺たちは、雲の中に落ちた。視界が白くなったのも束の間、武蔵野市の街並みが飛び込んでくる。


「……きゅう」


 すると、ジタバタ暴れた二階堂が、地面が見えて転落死に現実感が出たのか、白目を剥いて気絶した。


 よしよし、あとは二階堂とついでに和泉を、ダンジョンギルドの連中に突き出せば、もう言い逃れはできないだろう。


 俺は空いた手で二階堂の手を掴み、竜胆に言う。


「和泉も助けたいんだったら、手でも繋いどけば?」


「っ!! わかった!!!」


 竜胆はただでさえ風圧で変になった顔を必死に歪ませて、和泉の手を握った。


 にしても、こっからどうしたものかな……ああ、あれでいいか。すっかり忘れてたよ。


 俺は魔力を練り始める。ずいぶん久しぶりに使う魔法だから、使い方を思い出すのに結構時間がかかってしまった。


 アスファルトの地面が迫ってくる。通行人が俺たちに気がつき、必死に逃げ惑うのを尻目に、俺は魔法を展開する。


 ふわりっ。


 すると、俺たちの落下スピードが急激に落ちていく。地面に足がつく頃には、俺たちはむしろぷかぷか浮き始めたので、俺は魔法を解くと、どさりと四人して地面に落ちた。


 当然、四人とも五体満足だ。かすり傷程度だから、竜胆の回復魔法で秒で治る程度だろう。


「……む、武蔵野くん。これは、一体?」


「え? 浮遊魔法だけど?」



”は”

”なに”

”おいおい”

”こいつ”

”マジで”

”偽善者ニキwww”

”ふざけんな”

”武蔵野純一……! 武蔵野純一……!”



「……そんな魔法が使えるなら、最初からそう言ってくれ!!!」


 竜胆の悲痛な叫びが、武蔵野に響き渡ったのだった。

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