第18話 VS S級魔物【暗澹龍】
「儂が前衛じゃ!! 主らは儂が作った隙を突くンゴ!!」
ひゅん!
サーシャはそう言うと、未だ仕掛けてこようとしない暗澹龍との距離を一歩で縮める。
「水の魔法、①の型!! ひぐちカッター!!」
そして、暗澹流の脳天目掛けて、日本刀の周りを高圧縮&高振動の水をまとわせ振り下ろした。
カァッン!!!!!
硬いもの同士がぶつかり合う耳障りな音が鳴り響き、竜胆が耳を抑えてしゃがみ込む。隙だらけだが、反射的にそうせざるを得なかったか。
「……グギャッ」
なかなかいい一撃だったが、暗澹龍の額他の竜種と比べ暗澹龍の勝るところといえばその耐久力なのだが、言ってもS級探索者というわけか。
「グガァッ!!」
暗澹流が鳴くと、毒の霧が大蛇のようにサーニャを襲う。サーニャは空中で刀をバットのように振りかぶると、叫んだ。
「水の魔法、⑤の型!! 渦巻き飛魚!!」
そして、大リーガーさながらに刀を振り回すと、サーニャの周りを大きく勢いのある水の渦が取り囲み、毒霧を食い尽くした。
その渦から、水の弾丸が飛魚のように飛び出してくる。いくつもの水弾が暗澹龍にぶつかると、傷こそつかないものの、その物量に暗澹龍が怯んだのが見てとれた。
”おおおおおおおお!!”
”すげぇ!!!”
”すっげぇ破壊力!!!”
”もはや自然災害レベルだ!!!”
”一個人がこんな武力を持ってる時代って、冷静に考えたら怖いよな……”
”暗澹龍も怯んでる!!!”
”でも、よく見たら、かすり傷程度のダメージしか負ってなくないか!?”
”おいおい、こんなバケモンどうやって倒すんだよ!?”
”サーニャの魔法、すごい、んだけど……大分危ういというか”
”訴えられるんじゃないかって心配になるよな……”
”大丈夫だろ。大正時代の日本に金髪美少女なんていなかったろ?”
”そんなこと言い出したら鬼もいなかったやろ”
”それはそう”
「よっしゃ、竜胆は二階堂と和泉のことでも守ってろ」
これほどの隙を作ってもらっておいて、何もしないでは謝礼金を受け取れそうにない。
俺は竜胆を離すと、そのまま駆け足で暗澹龍の眼前に行く。
「グガ!?」
駆け足だったのだが、それでも愚鈍な大型種には目にも止まらぬ速さに映ったんだろう。驚いた様子の暗黒龍。
うーん、スパチャを稼ぎたいってのもあるが、せっかく久々に
「この浮気者!」
と言うことで、俺は彼氏に浮気された彼女をイメージして、暗澹龍の頬をビンタする。
「グガッッ!?!?!?」
暗澹龍の顔がぐるんと回り、首からぐぎりと嫌な音がした。うわ、最近の女って強っ。
”!?”
”!?”
”うおっ!?!?”
”えええええええええ!?!?!?”
”ファッ!?!?!?”
”暗澹龍にビンタ!?!?!?”
”しかも効いてるぞ!!!!”
”偽善者ニキのビンタ>>>>>>>>S級探索者の魔法…ってコト!?”
”草www”
”中層レベルの探索者とか言ってマジすみませんでした!!”
”やっぱ偽善者ニキ強えええええええええええ!!!!”
”これ勝てるぞ!!!”
”なんだよ、楽勝じゃんwwww”
”いけええええええええええええええええええ!!!”
”オイオイオイ”
”死ぬわ暗澹龍”
”浮気者!?!?”
”偽善者ニキ、暗澹龍と付き合ってたのか!?”
”結婚したのか? 俺以外のやつと……”
”そりゃ(暗澹龍と結婚するような異常性壁者だから)そうよ”
”武蔵野純一最強! 武蔵野純一最強!”
「……グガッ」
ごぎり、と首を戻してこちらを見た暗澹龍は、確かに笑っていた。
完全に隙をつかれた攻撃でこの程度ならば、俺の実力などたかがしれると思ったのだろう。勝利を確信した笑みだ。
「グガガガガガッッッ!!!!!」
暗澹龍の細長い尻尾が空を切ると、衝撃波が俺に直撃する。
どごん!!!!!!!!
直撃した俺は吹き飛んで、先ほどのサーシャと同じように、崖に超高速でブチ埋まった。
”……へ?”
”あ”
”あ”
”あ”
”マジ”
”おい”
”偽善者ニキ?”
”なんだよ今の!?”
”うわあああああああああああああああああああああああ”
”オイオイオイ”
”偽善者ニキ死んだわ”
”嘘だろ”
”オワタ\(^o^)/”
”やっぱり中層レベルの探索者じゃねぇか!!!”
”偽善者ニキが死んだらワープ魔法もない。詰んだぁ”
”リスクを犯してでもワープ魔法使うべきだったんだよ!!!”
”何やってんだよ偽善者ニキ!!!”
”武蔵野純一最弱! 武蔵野純一最弱!”
「……やれやれ」
こんなもんで心配されるとは、屈辱だなぁ。
しかし、服がボロボロになっちまったな。配信って確か男の乳首でも女の乳首と勘違いされて垢BANとかになっちゃうんだよな。ったく、確かに俺の乳首はピンク色だがよ。
俺は魔法を使い、先ほどまで身に纏っていたスウェットを再現して作り出す。
しかし、見た目はともかく、性能は相当高くなってしまった。ま、これなら乳首が出ることもないし安心だ。
「よ、っと」
俺は崖から出ると、そのまま崖を蹴ってギュンと飛ぶ。
ちょうど暗澹龍は、尻尾でサーニャを吹き飛ばしてから、竜胆に襲い掛かろうとしていたところだったので、その横顔に膝蹴りを食らわせる。
「グギャッ!?!?!?!?」
暗澹龍の巨体が軽々と吹っ飛んでいく。チッ、ちょっと力加減をミスったな。普通彼女って彼氏に膝蹴りしないもんなぁ。
”!?”
”なんだ!?”
”なんかとんできた!!”
”偽善者ニキや!!!”
”うおおおおおおおおおおおおおお!!!”
”助かったあああああああああああ!!!”
”偽善者ニキ!!!!!!”
”偽善者ニキ生きてた……良かった”
”えぇ!? 偽善者ニキかすり傷一つついてないどころか、服綺麗になってないか!?!?”
”すげええええええええええええ!!!”
”和泉だけじゃなくて俺たちまで情緒不安定にさせやがって!!!”
”救世主!!!!!”
”神だろ!!”
”偽善者ニキ最強! 偽善者ニキ最強!”
「大丈夫か、竜胆?」
俺は竜胆に手を差し伸べる。
「あ、ああ、ありがとう、助かった、よ……」
竜胆は感謝の言葉を口にするが、心ここに在らずと言った様子だ。モンハウの時の和泉みたいに、すっかり自信を喪失したようだな。
ま、結局のところ、こいつがクソ雑魚ってことには変わりないんだよな。だから、参考にしたところで俺のような強者には……いや、むしろ、人間の大抵は弱者なんだから、弱者から学ぶ姿勢が俺に足りないところなのか?
「グバアアアアアアァァァァ!!!!」
と、暗澹龍の嗚咽が、遠くから聞こえる。よかったよかった。さすがにこれで終わったら運動にもならない
嗚咽は、ドラゴンを相手にする時は、チャンスではなくピンチの合図だ。
俺たち目掛けて飛んでくるのは、禍々しい色をした毒のブレス。
液体っぽいが、地面にあたればその瞬間中の毒霧が飛び散ってしまう。俺やサーニャはともかく、他の連中なら即死は免れない。
”ヤバイ!!!”
”ブレス来た!!”
”逃げろ!!”
うーん、なら、これでいいか。
「フゥゥゥゥゥゥゥ……コォォォォォォォォ!!!!」
俺は一旦息を吐ききってから、思い切り吸い込んだ。俺の吸引で毒のブレスの勢いがぎゅんと上がったので、俺は口が裂けるのも厭わず、思いっきり開く。
”!?!?”
”ウゲッ!?!?”
”口が裂けた!?”
”ひえええええええええええええええ”
”いてえええええええええええ!?!?”
”偽善者ニキ何やってんの!?”
”口裂け女でもドン引きレベル”
”ガンジーでもドン引きレベル”
”いや、裂けてるとかいうレベルじゃないくらい口開いてない!? 骨格変わってるやろこれ!?!?”
”完全にカービ⚪︎やんけ”
”おいおい、不吉なこと言うな。それじゃあこのままブレス飲み込むことになっちまうじゃねぇか”
「……バクッ」
そして、そのまま毒のブレスを丸呑みにした。
”あっ”
”ん?”
”おい”
”はぁ!?2
”待て待て待て!?!?!?”
”偽善者ニキ何してんの!?”
”ブレス呑んだ!?!?”
”アイヤー!?!?”
”WTF!?”
”shit!”
”ひえええええええええええ!?!?”
”なんで毒を丸呑みしてんだよ!?!?”
”斬新すぎる自○やなwww”
”R.I.P”
”暗澹龍の毒って常人なら触れるだけで死んじゃくらいの猛毒だよな!?!?”
”毒とか以前に動物が吐いたもん飲み込むなよ”
”カービ⚪︎ニキ爆誕”
もぐもぐ。
俺は暗澹龍のブレスを咀嚼すると、ごくんと飲み込む。そして、スウェットの全面に”30”の文字を出した。
「雑味が多い割に味に深みがないな。三十点」
”!?”
”!?!?!?”
”ファッ!?!?”
”なんで喋れんだよ!?!?!?”
”はぁ!? 普通身体がドロドロに溶けげ消え失せるはずだぞ!?”
”なんじゃこりゃwwwwwww”
”やべぇ、面白すぎるwww”
”てか採点してるし!?”
”毒のブレスを料理と見做してる!?!?”
”厳しめで草www”
”いや毒にしては高い方やろ!?”
”海原○山!?!?”
”海原○山ならこんなもんじゃないぞ”
”料理に採点とかモラハラ夫かよ……”
”竜胆今すぐ回復魔法!!!”
「いや、俺の身体、食い意地張ってるからよ。毒でもなんでも栄養にしちまうから大丈夫だ」
”!?!?!?”
”!?!?!?!?!?”
”ファッファファファ!?”
”もう無茶苦茶で草wwww”
「……グギャアアアアアアアアアアアア!!!」
俺の評価に腹が立ったのか、暗澹龍は翼をはためかせてこちらに飛んでくる。
おいおい、そんな弱々メンタルじゃカクヨムで連載なんて持てないぜ? どうせ無駄にプライド高い故にテンプレ否定してオ○ニー丸出しの小説書くんだろうからよぉ!!
「グバアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
暗澹龍が空中から、ブレス、ブレス、ブレスの連発。俺はその全てを飲み込み、23、45、78と点数をつけていく。おいおい、すごい上昇率だよ。努力家なんだなぁ。
「……水の魔法、④の型! マイナスイオンたっぷり滝!!」
すると、暗澹龍より高く飛んだサーニャが、刀を振り下ろすと、まるで滝のように勢いのある水流が、暗澹龍目掛けて降り注ぐ。
確かにすごいマイナスイオンだ! マイナスイオンってのがいまいち何かはわかってないけど!
「グギャ!?!?!?」
暗澹龍は地面に打ち付けられ、地面に流れた水は、俺たちを避けるように二股に分かれた。
うまくやるもんだ。ここまでお膳立てされると、トドメを刺さないわけにもいかない。
「……んぅ?」
その時、和泉に肉の盾にされていた二階堂が、うめき声をあげて薄目を開けた。うわ、これまた時間をかけすぎちまったなぁ。
「グガアアアアアアアアアッッッッ!!!!」
と、暗澹龍が、滝の勢いに負けじと立ち上がり、怒りの形相で俺たちを威嚇。ワナビらしいなかなかの迫力だ。
これなら二階堂も再び気絶してくれる、かと思ったが、二階堂は瞬きをすると、「ああ、なんだ、これは夢か!」と手を打った。
そして、勢いよく立ち上がると、剣を抜いて、暗澹龍に剣先を向けた。
「暗澹龍! お前の相手はこの若手最強探索者、二階堂ハルトが相手だ!!!」
「え、何言ってんの?」
俺が思わず二階堂の肩を掴むと、「おい、触るな!!」と二階堂はブチギレ。やっぱ肩触られるの嫌いなんじゃないか。言えよ、水臭い。
「二階堂、流石に戦闘は許可できないぞ。お前なんか暗澹流にちょっと触れられただけで肉塊堂なんだから」
「なんだお前!! 夢の中でもムカつくやつだな!!」
「いやこれ、現実現実」
「そんなわけがあるか!! なんで目が覚めたら深層に来てて目の前に暗澹龍がいるんだよ!!!」
”正論”
”正論”
”正論”
”正論で草”
”これは間違いなく正論”
「っと」
暗澹龍の毒霧が俺たちを襲おうとしてきたので、俺は二階堂の異様に長い襟足を掴んで、後ろに飛び退いた。
「イダダダダダダダダダッッッ!?!?!?」
竜胆と和泉は置いてきたのだが、飛んできたサーニャが水の魔法で二人を守る。おお、上手いもんだ。しかし、その代わりに滝は消え失せ、暗澹龍が臨戦態勢に入る。
よし、殺すか。
素手でもいい。だが、暗澹龍の硬い鱗を貫けば、俺の拳も多少は痛むか。
俺が魔力を練り始めると、暗澹龍の警戒心が一気に跳ね上がる。
ヒュンッ。
暗澹龍は暗澹龍で、力をセーブしていたのだろう。全身の筋肉がギュルギュル躍動し、0.0001秒で俺を踏みつけた。
”……え?”
”は?”
”何”
”消えた”
”スーパースローアプリ使え!! 暗澹龍に踏み潰されたんだよ!!”
”うわっ!?!?!?”
”偽善者ニキより速くねぇかこれ!?”
”サーニャとの戦いは全然本気じゃなかったってことかよこいつ!?”
”こんどこそ死んだぁ!!!!”
”そりゃ死んでるだろこんなん!?”
”マジかああああああああああ”
”逃げろおおおおおおおおおおおおお”
”……え?”
”おい”
”嘘だろ?”
”あれ!?!?!?”
「ああ、やっぱ遅いなぁ」
地中深くに埋まった俺は、クロールで地中を移動し、暗澹龍の背後から飛び出した。
そして、自戒の気持ちを魔力に込めて、トンボの羽のように薄い薄い刃状にすると、暗澹龍目掛けて放った。
「……グ、ガ!?」
魔刃。魔力を刃にして飛ばすだけの、至極単純な魔法。しかし、一流が使えば、どんな名刀よりも鋭い切れ味になる。
そして、暗澹龍は、血飛沫をあげて真っ二つになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます