第16話 新たな救助者は世界的スター、S級探索者



”うおおおおおおおおおお!!!”

”すげえええええええええええ!!”

”ヒェッ…”

”グッロ”

”閲覧注意”

”やべぇよ…やべぇよ…”

”ミノタウロスを虫ケラみたいに踏み潰しやがった……”

”ミノタウロスどころかダンジョンにもヒビ入ってないか!?”

”ミノタウロスに勝てなくて万年中層止まりのダンジョン探索者の俺氏、格の違いを見せつけられて無事引退を決意”

”草。気持ちはわかるが中層に行けてる時点でめちゃくちゃすごいんやで”

”偽善者ニキ、ちょっと強すぎないか……?”

”マジでA級探索者くらいの実力は間違いなくあるぞ”

”それはA級舐めすぎじゃない? 偽善者ニキは言ってもまだ中層でしか戦ってないんだぞ”

”A級の基準って、下層の中でも深い層を単独で探索できるかどうかだからな。中層じゃまだわからない”

”でもそこらのA級にこんな芸当できるか!?!?”

”できない……”

”確かにそうなんだよな……”

”マジで下層での探索みたい。せっかくフロモン倒したんだし、二階堂なんて放っておいて下層行ってくれ”

”おいおい、ここ暁の配信だぞ。それは偽善者ニキのチャンネルでやれよ”

”偽善者ニキとのコラボ中だから偽善者ニキメインでもおかしくないやろ”

”絶対反対。偽善者ニキはともかく、暁に下層は無理”

”ナナちゃんも絶対無理だからね! 今すぐ帰って!!”

”ま、偽善者ニキは謝礼金目当てなわけだし、流石に帰るやろな”

”武蔵野純一最強! 武蔵野純一最強!”



「いやぁ、汚れたなぁ。また妹に怒られちまうよ」


 ブンブン身体を振って血肉を落としてから、二階堂に回復魔法をかけている竜胆に言う。


「とっとと二階堂を運び出すぞ。うんこまみれになんの嫌だから、お前が背負えよな」


「……あ、ああ」


 竜胆は、口をあんぐりと開けたまま頷いた後、「ほ、本当に強いんだな……」と呟いた。


「ん? 今のでなんで俺が本当に強いってわかったんだ?」


「え? いや、その……誰がどう見ても、分かるとおもうんだが」


「マジすごいよ純一!! さすがあたしの彼ピ!!」


 と、和泉まで血まみれの俺に抱きつきてくる。

 コメント欄といい、たかだか中層のミノタウロスを倒しただけだってのに、えらい盛り上がりようだ。やったことの質なら、モンスターハウスを瞬殺した方がよほどすごいんだが、どうやらこの牛、相当過大評価されているらしい。



”いやぁ、マジで強すぎる偽善者ニキ”

”これは男の俺でも惚れる”

”偽善者ニキマジでダンジョン配信チャンネル開設してくれ!”

”ちょうど推しの二階堂ハルトがゴミと化したので、偽善者ニキのファンになります!”

”私も!”

”ナナちゃんを守ってくれた偽善者ニキのこと、これから一生応援する”

”和泉ナナとは結局付き合ってないんだよね!? ガチで推そっかな”

”配信チャンネル開設してくれたらめちゃくちゃ貢ぐから!”

”偽善者ニキネキ大量発生で草”

”いや、偽善者ニキは二階堂のせいでプロの探索者じゃないから、配信を収益化できないよ”

”はぁ!? 脱糞ニキマジで余計なことしかしないな!!”

”脱糞ニキwww”

”肉塊堂、失禁ニキ、脱糞ニキとニックネーム乱立してきたな。二階堂に三つの中から選んでもらおうぜ!”

”最悪の選択肢しかなくて草”

”脱糞ニキ、また変なこと言い出す前に、さっさと運び出しちまおうぜ”

”え?”

”うお”

”やば”

”おい、マジかよ”

”え”

”やべえええええええええええええええええええええ”

”クソカッケェドラゴンきたあああああああああああ!!”

”武蔵野純一最強! 武蔵野純一最強!”



「ドラゴン?」


 キョロキョロ辺りを見渡すが、俺の魔力察知から抜け出すレベルのドラゴンが、こんなところにいるはずもない。

 数刻、先程の二階堂パターンかと思い当たる。つまりは別の配信の話か。



”???”

”え、何?”

”何の話?”

”今サーニャが、武蔵野ダンジョンの深層で配信してんだけど、暗澹龍あんたんりゅうとエンカウントしたんだよ”

”サーニャって、今来日中のS級探索者だよな!?”

”暗澹龍!?!?!? まだ歴史上誰も討伐したことのない龍の一匹じゃねえかよ!?!?”

”危険度S級の魔物じゃねぇか!?!?”

”やっば。見てくる”


 

 と、同接数が急激に減り、コメント欄の動きがガクッと遅くなる。件のS級探索っ者、サーニャの配信を見に行ったのだろう。今コメントしてる連中は、いわゆる別窓ってのを使ってるんだろう。



”サーニャ、押されてんぞ!?”

”毒霧喰らった!?!?”

”やばいやばいやばいやばい”

”おいおい、S級がこのザマかよ!?”

”外人ニキが発狂してて草”

”二人とも、助けに向かってくれ!!”

”無茶言うなwwww深層だぞwwwwww”

”ほんまそれwwww言って竜胆も偽善者ニキも中層クラスの探索者だろwwww”

”ひとまずいくら偽善者ニキが速いからって、さすがに深層まで行くには一日はかかるだろ”

”ていうかその前に死ぬ可能性の方が高い”

”サーニャだってS級なんだから、暗澹龍といえど負けないだろ”

”バカ、サーニャはここまでのダンジョン潜行で大幅に体力を消費してんだぞ!”

”サーニャ、めっちゃ押されてる!!! やばい!!!”



「しん、そう、か……」


 竜胆が呟き、悔しそうに顔を下げる中、俺は大きく屈伸をした。


「よし、いくかぁ」


「えっ!?」


 驚く竜胆に視線を向けると、竜胆は「行くって……まさか、深層にか!?」と目を見開く。


「ああ、そうだ。S級探索者ともなれば、相当稼いでんだろ? 行かない理由がない」



”え?”

”はは、まさか”

”www”

”あり得ない”

”落ち着け”

”何言い出してんのこの人www”

”偽善者ニキ、それはさすがに無茶やwww”

”上層から中層まで行くのとは訳が違うからな”

”てか、いけたとして逆にお前らがサーニャに助けてもらうことになるからやめろ”

”それな”

”武蔵野純一無理するな! 武蔵野純一無理するな!”



 コメント欄は否定的な意見で埋め尽くされるが、竜胆はすっかり信じ切ったようだ。真剣な顔で俺に聞いてくる。


「それって、私も連れてってもらえないか?」


「ん?」



”はぁ……?”

”言うと思った”

”マジでこの女……”

”命知らずにもほどがあるだろ!?”

”そんな甲子園に連れてってみたいな軽いノリで……”

”甲子園も決して軽くはねぇよ。ダンジョン深層が重すぎるってだけで”

”頼むよ。これ以上俺たちファンを苦しめないでくれ”

”竜胆みたいな女のファンになった時点で自業自得や”

”安心しろ。流石の偽善者ニキでも、どのみちここから深層まで行けるわけない”

”いや、それはそうなんだけど、偽善者ニキの場合、なんかとんでもないことしでかしそうなんだよな……”

”わかる。リアルでこれほど「あれ、俺何かやっちゃいましたか?」て言葉が似合う男もいない”



「私の魔法は、毒の治療もできる! サーニャさんを治すことができるはずだ!」


「ふぅん……いっとくが、謝礼金は俺が総取りだぞ」


「ああ、構わない!」


「……まぁ、だったら、断る理由もないな」


 相手が暗澹龍となれば、足手纏いがいると何かと面倒かもしれない。しかし、俺が自分の生き方に疑念を覚えていると仮定すれば、俺と正反対の生き方をするこいつをそばに置いておくというのは、今後のためありっちゃありだ。


 といっても、こいつみたいなアホ丸出しの生き方するくらいなら、死んだ方がマシっぽいから、どの程度の効果があるか微妙なとこだがな。


 コメント欄は”おい””やめとけ”というコメントで溢れたが、竜胆はというと完全無視だ。うんこまみれで真剣な顔してるの、なんか面白いな。


「ちょ、ちょっと純一!? 冗談だよね? 純一は今からすぐにナナをお姫様抱っこで連れて行って、一緒にお風呂に入ってベッドでイチャイチャするんだよね!?」


「え? ううん」


 俺が首を振ると、和泉は顔面蒼白になって、今度は竜胆に詰め寄る。


「ねぇ、竜胆、行かないよね!? このままナナと一緒に帰ってくれるよね!?」


「……いいや、帰らない」


「なんなのよもう!!」


 ヒステリックに叫ぶ和泉の頭を、ぽんぽん叩く。


「悪いが、和泉と二階堂にも来てもらうぞ。そこらへんの調整下手でな」


「……ぇ?」


「……ワープ」


 あんぐり口を開ける和泉を無視しつつ、俺は魔力を練って、を発動したのだった。

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