第15話 魔法は遅すぎる
”なにそれ”
”どういうことだ?”
”???”
”魔法が遅い?”
”聞いたことないぞそんなの”
コメント欄が疑問符だらけになった。コミュ力がエグくお高い俺としては、答えざるを得ない。
鼻息荒いミノタウロスは放っておいて、説明してやる。
「なんでわかんないんだ? 魔力を練って術式を展開するまで、どれだけ短縮しても0.01秒はかかってしまうから、それじゃあ遅すぎんだろってことだよ」
”は?”
”0.01秒が遅い!?!?!?”
”どーゆうこと!?”
”こっちが悪いみたいな態度なんですけど……怖”
”ていうかミノタウロスの突進を受け止めながらなんで余裕綽々で解説してんの!?”
”ミノタウロスはめっちゃ必死な顔してんのに、偽善者ニキは街頭インタビューに答えてるくらいのテンションなのシュールで草”
”なんだこの映像wwww”
”AIでもこんなバカげた映像作れないだろwwwww”
”こんな斬新なAI疑惑否定方法もなかなかないなwwww”
「いや、実際に探索者でもないボクサーのジャブでも、0.06秒で相手の顎先に触れることができる。相手に届くまでの時間も含めたら魔法も同じようなもんだ。地上で鍛えたら躱せるような攻撃、遅すぎるだろ?」
”なる……ほど?”
”次元が高すぎてついていけねぇwww”
”ジャブと魔法じゃ威力全然ちゃうやろwww”
”地上で鍛えたら躱せるようになるって、ひとまずそんなやつ一部分だろwww”
”まあでも、ダンジョンでレベル上げれば大体のやつがそのくらいまで行くからな”
”一般人のボクシング大会に探索者が一般人って偽って出て無双しちゃったこともあるしね”
”魔物の反射神経って人間なんかの数段上だし、速いのに越したことはない、か”
”なるほど。確かに理にかなってるな”
「当然、ダンジョンで鍛えたこの身体で相手をただ殴るのに、0.06秒なんてかかりっこない。それがわかってから、俺はもっぱら素手で戦うようになったんだ、よ!」
俺はそう言いながら、大魔狼やミノタウロスが二階堂にやったように、ミノタウロスをブンブン振り回そうとした。
ばきんっ。
しかし、勢いよく振ろうとしすぎたせいか、ミノタウロスの二本の角は、ばっきりと折れてしまったのだった。
「もおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?」
「はははっ、笑える」
”あえっ!?!?!?”
”え?”
”は?”
”ファッ!?!?!?”
”ふぇっ!?”
”折れたあああああああああああああ!?”
”マジかよwwwww”
”ミノタウロスの角って、S級探索者が武器に使うくらいの強度だよな!? 折れるの!?!?”
”ミノタウロスの角って部位破壊できるんだ……!?!?”
”偽善者ニキしか出来ねぇよこんなん!!”
”マモンハンでも部位破壊できないから、CAPC○Mは今からでも修正すべき”
”武蔵野純一最強! 武蔵野純一最強!”
「こんだけでかいとアイテム袋にも入らんな……」
無限に入れられる気がするアイテム袋だが、当然容量に限界はある。さっきのモンスターハウスによる大量ドロップでただでさえパンパンだしな。
ま、ちょうどいい武器が手に入ったと思っておくか。
「ぶもおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
角を折られたからか、牛の顔を怒りに歪めながら、牛の蹄で俺を蹴り上げようとする。俺はミノタウロスの角を振るって、足蹴を受け止めた。
ざしゅっっっっ!!!!!!!!
つもりだったのだが、ミノタウロスの脆い脚は、あっさりとぶち切れてしまった。
「もおおおおおおおぉぉぉ!?!?!?!?」
ミノタウロスが絶叫。
おいおい、たかだか足が切れた程度で、痛がりすぎだろ。過剰なリアクションで配信を盛り上げようとしてくれてんなら、感謝しかないが。
「そういや牛って、足の部分って食えるんだったっけなぁ」
”うおっ!?!?”
”マジか!?!?!?”
”うわ、切った!?!?!?”
”切った!? 別に研磨もされてないミノタウロスの角で!?”
”切った、というより、抉った、ていうのが正しそう”
”ミノタウロスの鋼鉄の身体がプリンみたいに……”
”なんだこれwwwもうわらけてきたわwwww”
”牛のアキレス腱はカレーとかに入れたらうまいあの牛すじやで”
”あ、そうなんや。知らんかったわ”
”いやでも、牛の足ならともかく、ミノタウロスの足はどっちかというと人の足っぽくないか……?”
”人すじってカレーに合うのかな?”
”カレーに合う合わない以前の問題やろ……”
”倫理的にアウトやで”
”武蔵野純一最強! 武蔵野純一最強!”
脚という、生存において非常に重要な部位を奪ったことは、視聴者にとって相当衝撃だったらしい。コメント欄は随分と湧いている。二階堂の方でもスパチャがいっぱい飛んでそうだ。
「ちょうどいい。このまま四肢をもぐとするか」
”ヒェッ!?”
”えぇ……(ドン引き)”
”何がちょうどいいんですか!?!?”
”四肢をもぐのにちょうどいい時なんてないです……”
”こっわ”
”暁の方にカメラ切り替えるわ。これ以上グロい映像見たくないんや”
”その暁は二階堂のうんこまみれやぞ”
”参ったな。どこ見ても地獄じゃん”
”暁のユニコーンとしては、スカト○プレイに興じる暁の方が見たくない”
”スカト○プレイに興じてはねぇよwww”
”お前アンチだろwww”
「ぶも、ぶもっ、ぶもっ」
ミノタウロスは片足でこけないよう必死にケンケンをする。まずは、その脚をもぐ。
「ぶもぉっ!?」
ミノタウロスは倒れるが、その屈強な腕を地面につけ、そのまま後ろに飛ぼうとする。俺はすかさず両腕を両断する。
「ぅごおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?」
”うっ”
”ぎぇっ”
”痛っ!?”
”うわ”
”エグッ”
”わァ…あ…”
”やべぇ、偽善者ニキバケモンかよ”
”圧倒的すぎる……”
”あのミノタウロスをこんな虫ケラみたいに……こわっ”
”もうやめてあげてぇ!!”
”偽善者ニキ、かっこいいを通り過ぎて怖い”
”すごいより先に恐怖がくる”
”俺、こんなバケモンのこと、偽善者ニキとか言ってイジってたのかよ……”
”偽善者ニキとか言ってすみませんでした武蔵野さん。弟子にしてください”
”やべぇ。俺、武蔵野さんのファンになるわ”
”俺、この動画切り抜いてくるわ。たったの同接五十万人しか見てないの勿体なさすぎる”
”せっかくスーパースローアプリ作ったのに……って思ったけど、こんな戦闘を見せてもらったんだから文句言えんわ”
”武蔵野さんかっけええええええええええええええ”
”武蔵野純一最強! 武蔵野純一最強!”
”武蔵野純一最強! 武蔵野純一最強!”
”武蔵野純一最強! 武蔵野純一最強!”
「ぶも、ぶも、ぶも……」
さすが、ゴキブリと同じく、生命力だけは一流のミノタウロスだ。
四肢をもがれてなお、芋虫のように地面を張っている。
「足を失う前に逃げるべきだったな」
俺は、ミノタウロスの頭のところまで歩み寄り、先輩としてワンポイントアドバイスを付け加えてから、思い切り踏み潰した。
ぐしゃっ!
軽快な音と共に、ミノタウロスの頭がトマトのように潰れたのだった。
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