第8話 モンスターハウス
重りのせいで想定よりも一分も遅れて中層最終階に辿り着くと、コメント欄が異様なスピードで流れていることに気がついた
”待て待て、もう中層最終階かよ!?!?”
”まだ十分くらいしか立ってないよな!?”
”自動追尾カメラが離されるってどんなスピードだよ!?”
”はっっっっっや!?!?!?!?”
”B級の二階堂と和泉達は、ダンジョンホテルで一日泊まってから中層にたどり着いたんだぞ!?”
”どうなってんだこれ!?”
”何これ、どんな魔法使ったらこんな早く移動できるんだ!?”
”これで少なくとも、救助に来たのが早すぎ問題は解決だな。単純に偽善者ニキが速すぎたんだ”
”おい、この男のどこが成績最下位なんだよ!?!?”
”少なくとも無傷で中層最終階までいけてる時点で、最下位どころかトップ10に入ってないとおかしいぞ!?”
”やっぱ二階堂の嘘っぱちだったのか?”
”一刻も早く暁を降ろせ。ぶっ殺すぞ”
”ここまで来ると、このスピードでの移動にここまで耐えた竜胆がスゲェよ……一般人だったらバラバラになってんだろwww”
その間に、竜胆のチャンネルの同接数は二十万人を突破していた。収益化してくれてたら相当稼げると思うが、こいつを説得する方が大変そうだ
俺は二階堂の魔力を探って、その前にモンスターハウスの気配を察知した。
”二人とも何とか持ち堪えてる!!”
”急いで!!”
”早く!!”
”何トロトロしてんのよ!! ナナちゃんに傷一つでもついたら絶対に許さないから!”
”二階堂は助けに来なくていいって言ってるぞ”
”自分に自信のある探索者はみんなそういうんだよ! で、いざ死ぬってなったら助けを求めるんだ”
”ハルトはめちゃくちゃ強いから助けなんていりません。ちょっと美人でおっぱい大きいからって調子に乗らないでほしい”
”ナナちゃんの方が可愛いから。あんま調子乗んなブス”
二階堂たちは、なんとか生き残っているようだ。
俺が懸念していたコメントも見当たったが、行かない理由にはならない。
「ちょ、ちょっと、降ろしてくれないか!?」
俺は竜胆の言葉を無視して、気配の先へと飛んだ。
⁂
魔物が大量発生したとして、何匹か殺して退路を作ってから逃げればいい。
モンスターハウスが厄介なのは、魔物の大量発生と同時にターゲットと魔物を囲うようにニョキニョキ生えてくる蔓だ。
この植物製の檻が逃走を阻むので、一度捕まってしまえば逃げるのは難しい。
それは魔物も同じことなので、連中は連中で必死に戦うわけだ。
巨大な半円状の蔓の中には、様々な魔物がウジャウジャとひしめき合っている。その中心に、二階堂と和泉の姿を確認した。
”うぉ、デケェ……”
”デッッッッッッッッッ”
”モンスターハウスの中でもかなりでかい。これは死んだな”
”ここまで二階堂よく持ったな。いっても若手で即B級になっただけある”
”二階堂側のカメラからも二人の姿が確認できた!!”
”これでフェイク疑惑も消えるな”
”そのフェイク疑惑の原因の一つでもある二階堂のカメラで疑惑が晴れるのってなんか皮肉だなwww”
”本当に助けるの? 正直暁の炎上を引き起こしたやつが助かるの嫌だわ。このままボコられてほしい”
”暁が助けなくても偽善者ニキが助けるぞ。金目当てなんだから”
”二人がカップル探索者になって初めての生配信だからめちゃくちゃスパチャ飛んでるからな。金目当ての偽善者ニキからしたら垂涎ものだな”
”ひとまず助けられんのか? 偽善者ニキでも無理ちゃうこれ”
「二人とも、助けに来たぞ!!」
竜胆が俺の腕の中から飛び降りると、大剣を引き抜き蔓を切っていく。
しかし、幾重にも重なった蔓の檻は、切れたところからまたニョロニョロと生えてきて修復されていく。
あの蔓の檻を突破する正攻法は、攻撃魔法を使って大穴をあけ、穴が閉じる前に入ってしまうこと。
穴を開けづらい剣で突破するなら、細かい斬撃で穴を広げてから入るのがいい。
回復魔法で回復しながら、あの大剣を振り回すと言う脳筋丸出しの戦い方しかできない竜胆では、破ることすら難しいだろうな。
「ふん!」
「「「「ぐぎゃっ!?」」」」
すると、蔓の隙間から俺たちの姿を確認した二階堂が、周りを囲う四匹のゴブリンを風の刃で切り伏せ、さわっと髪の毛を掻き上げた。
「救助依頼を出した覚えはないんだけど、まさか俺の手柄を取りにきたのか、竜胆暁!」
大方、二階堂のコメント欄で、俺と竜胆が助けに向かっていることを伝えた奴がいたんだろう。俺たちの登場に驚いている様子もない。
対して竜胆は満面に戸惑いを浮かべる。
「な、何を言っているんだ? そんなわけないだろう!」
「それじゃあそこで大人しく見ておいてくれ! 俺がモンスターハウスを攻略するとこをね!」
「ちょ、ちょっと待て! 確かにあなたは強い探索者だが、この規模のモンスターハウスを攻略するのは流石に無茶だ!!」
竜胆が正論を言うと、二階堂はムッと顔を顰める。
「俺はそうは思わない! それに、あいにくだけど、そこの男と仲良くしているような人に、助けてほしいとは思わない!」
「え? なんでだよ二階堂! 友達の友達は友達だろ?」
「……はぁ!? お前と友達だった瞬間なんて、一秒たりともない!!」
「えっ」
”えっ”
”草wwwwww ”
”偽善者ニキめちゃくちゃショック受けてて草”
”むしろ偽善者ニキは今まで、あんだけ動画で自分をこき下ろしてた二階堂を友達だと思ってたのかよwww”
”もしかして偽善者ニキっていい人?”
”いい人っていうかサイコっぽい”
”サイコはサイコだけど、そんな悪い人ではなさそうなんだよな”
”そりゃ、どんな理由であろうが、人を助けてる時点で悪い人じゃないよ”
”少なくとも二階堂よりは好感持てるな”
”偽善者ニキアンチだけど、それには同意”
あまりのショックに言葉を失ってしまった俺に、二階堂はゴブリンの頭を貫きながら怒鳴った。
「お前らみたいな金目当ての偽善者は信用ならない! わざと俺たちが窮地に陥らせ、その後助けて謝礼金を要求するかもしれないからな!」
「なっ! 流石に武蔵野くんでも、そんなことはしない!」
「…………うわ、その手があったか!!!」
「…………」
”wwwwwww”
”草”
”その手があったか、みたいな顔してて草”
”やっぱ悪い人だったwww”
”少なくとも配信じゃ証拠丸残りだから、絶対にやっちゃダメだぞ”
”暁まで共犯にされかねないからマジで辞めて”
しかし、どうしたもんか。
プライドの高い二階堂のことだから、助けられることを拒否する可能性は考えていたけど、友達の俺が行けば意地も張らないんじゃないかと思っていた。
全く、何で俺と二階堂友達じゃないんだ! おかしなことになってんなぁ!
「おい和泉、お前、配信はしているのか!!」
「…………」
俺は一旦二階堂のことを置いといて、和泉にむけて怒鳴った。
しかし和泉はパニックからか、まともに返事もできない様子だ。
代わりに”今の配信は旧二階堂ハルトちゃんねるだけど、今はハルナナちゃんねるになってるから、やってるっちゃやってるけど……そんなこと言ってる場合!?”とコメントが答えてくれた。
「そうか……」
二階堂のチャンネルからハルナナちゃんねるに変更したのなら、配信の収入は一旦二階堂の口座に入るだろう。
あれからネットでちょこっと調べたのだが、ダンジョン庁のサイトにちっさく書かれていたのは、『救出された被救助者は、救出された段階で得た探索によって得た価値の100%を救助者に支払う義務がある』くらいのものだ。
和泉は今の所収益を得ていない。そして、二階堂は俺の手に渡るとわかっていながら和泉に金を渡したりしないだろう。
和泉は今までの配信でアイテム一つすら拾おうとしなかったし、あいつを助けたところでろくに謝礼は出ないに違いない。
となると、二階堂個人を救助しなければならないわけだ。
全く、救助って簡単に言うが、一体全体どう言うのが救助なんだ。
少なくとも救助依頼を出してなくて、助けられるのを拒否してる奴を無理やり地上に連れ出すのは救助になんないよな。
……じゃ、助けを求められるまで待てばいいか。
「どっこいしょ、っと」
ということで、俺は地面に座り、生えている雑草をむしったりして時間を潰すことにしたのだった。
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