第7話 次なる救助者は俺をクビにしたあいつ。
「突然の配信になってすまない。今日は、特別ゲストを招いて、トークをしようと思う! えーっと、名前は、どうしよう?」
「どうしよう? 何言ってんだ?」
「いや、実名でいいものかと思ってな」
「ああ、別に構わない。てかもうバレてんだろ。武蔵野純一だ」
俺がカメラ目線でそういうと、凍りついていたコメント欄が、ドバッと動き出した。
どうやらコメントが多すぎて、回線が重くなっていたようだ。
”え?”
”嘘だろ”
”マジ?”
”マジか!?”
”え、偽善者ニキだよな!?!?”
”偽善者ニキだすげぇ!!”
”暁ちゃん、なんでこんな人と絡むの。金目当てで人を助けるクズじゃん”
”暁ファンが善意でやったことを嘲笑う人とコラボ?”
”いや、たとえ偽善者ニキが魔人でも、暁を助けてくれたのは間違いないんだから、コラボくらいしてあげてもいいだろ。少なくとも暁は恩を返す女だよ”
”何、暁を使って売名したいわけ?”
”偽善者ニキと聞いて飛んできたけど、竜胆信者こわっ。自分の推しを助けた人やで”
”私は偽善者ニキ好き。冷たい目がいい”
”これは本格的にヤラセ説が濃厚になってきたな”
”はいヤラセ確定”
”頼むからこれ以上暁に絡まないでくれ。炎上に巻き込まれてほしくない”
”これは神配信になりそう”
”トゥイッター開いたら早速タイムライン偽善者ニキで埋まってて草”
”おいおい、同接の伸びエグくないか!? もう五万人行くぞ!?!?”
”少なくとも竜胆のチャンネルだと過去最速だな”
”あれ、なんでスパチャ送れないんだ?”
”前の配信で収益オフにしてからそのままなんだろ”
”武蔵野純一最強! 武蔵野純一最強!”
すると、竜胆は慌てた様子で付け加えた。
「あの、誹謗中傷はやめてくれ! 私と彼は今現在、全くもって問題のない、良好な関係なんだ!」
”え?”
”おいおいそれ軽率な発言だぞ”
”そりゃ、AI使って売名してあげるくらいだから良好な関係なんだろうな”
”AIとかマジで言ってんの!?”
”今回のヤラセ説信じてるやつ陰謀論とかにも騙されるだろうから気をつけた方がいい”
”竜胆にメリットなさすぎだよな”
”てか暁ちゃんがそんなことするわけない”
”アンチってほんと脳みそ湧いてるよね”
”あんだけボロカス言われてから一日でどうやって仲良くなったんだよ。証拠見せろ証拠”
もし俺と竜胆の関係性が良好と証明したところで、俺に対する誹謗中傷は終わりそうにない様子だが、俺は三十万円さえ貰えれば別にいい。
さっさと仲良しアピールを済ませて、金を受け取って帰るとしよう。
「いや、竜胆暁の言ってることは正しいよ。俺と竜胆暁はとっても仲良しなんだ」
”嘘松”
”ありえないくらいの棒読みで草”
”剛○彩○かよ”
”それは流石に剛○に失礼”
”それじゃあ前○友○レベルの演技”
”それは草www”
”前○の演技なんて一回も見たことねぇわwww”
”意外と上手かったらどうすんだwww”
”偽善者ニキはお金配りおじさんどころかお金奪いおにいさんだしな”
”草”
「いや、ほんとだって。だから、ほら……」
俺は竜胆の手をぎゅっと握り、カメラの前に差し出す。
「手だって繋げるんだ! どうだ、仲がいいだろう!!」
再びコメント欄が止まった。
”へ?”
”手を繋いだから仲がいいって、お前ら小学生かよwww”
”なんかかわいいなwww”
”羨ましい”
”おい、暁に触れんな”
”○すぞ”
”死ねカス”
”44444444444”
”言っとくけど俺の方が先に握手してもらったことあるからな”
”ほんと無理”
”ガチ恋勢ブチギレで草”
”黒髪ロング巨乳女とかいうオタク受けまっしぐらな見た目かつ男勝りな性格のせいで、男女問わずきっしょいファンがついてるのが竜胆の唯一の欠点”
あれ、なんか異様に荒れてんな。
すると、ぼすん、と爆発音がしたので、竜胆の方を見ると、顔が真っ赤になりすぎて、もはや太陽のように煌々と光っていた。
「竜胆、眩しいからちょっと顔赤くするのやめてもらっていいか?」
「へぇ!? あ、ああ!! 善処する!!」
竜胆は頷くが、光量はどんどん強くなっていく。
そろそろ目が焼けそうなんだが、オーク相手にその発光使ってたら助かったんじゃないか?
”草。二人とも純情すぎるだろ”
”手を繋いだだけでこんだけ照れてるの可愛すぎる”
”この様子だとちゃんと処女みたいで安心です”
”『ちゃんと』処女とかいうめちゃくちゃ気持ち悪いワード”
”ユニコーンです。暁が処女で安心したけど、暁の手処女が奪われたのは辛い”
”手処女ってなんだよ(ドン引き)”
なんか知らないうちに、竜胆の処女を奪ったようだ。
ある意味一番仲がいいってことか? と思っていると、一つのコメントが目に飛び込んできた。
”暁ちゃん大変!!!”
続けて、同じようなコメントがダッと流れ込んでくるのだが、どれも具体的な情報が出てこない。
「具体的な情報を提供できる人だけコメントしてくれ!!」
と、つい先ほどまで発光していた竜胆が力強い口調で言う。
すると、一つのコメントが、他のコメントに流されることなくコメント欄にとどまった。
”二階堂ハルトと和泉ナナが武蔵野ダンジョン中層最終階でモンスターハウスに閉じ込められた”
「おっ」
モンスターハウス。
突如地中から大量に魔物が湧き出てくる現象で、特殊個体と並んで、ダンジョンの死亡原因になりやすいものらしい。
”はぁ!? 二階堂!?”
”二階堂って、暁ちゃんがヤラセしてるとか匂わせてたやつだよね?”
”助ける義理全くなくない?”
”あれほんとに腹たった。許せない”
”個人的にあの人嫌い。女遊びとかすごいらしいし”
”いやでも、和泉もいるしな”
”あのメンヘラ丸出しのいかにもパパ活してホストに貢いでそうな地雷女か”
”俺たち童貞には一生縁のない女だな”
”暁ちゃんは、たとえ相手がどんな人であろうと助けると思う”
「武蔵野くん、悪いけど、コラボは中止だ」
と、竜胆が立ち上がるので、俺は慌てて竜胆の手を掴み直す。
しかし彼女は照れる様子もなく、「離してくれ」と俺を睨んだ。俺は俺で竜胆を睨み返した。
「中止はダメだ。何が何でも三十万円はいただくからな」
”は? なんの話?”
”三十万!?”
”何それ”
”竜胆、金を払って仲良いアピールさせてたのかよ……”
”いや、自分のチャンネルに出てもらってるんだから出演料払うのは当たり前だろ”
”そんな悠長なこと言ってる場合じゃない!! 早く早く!!”
「三十万円は中止にしようが払う!! 放せ!!」
「それじゃあお前に何らメリットがないだろう? 信用ならないな」
「今はそれどころじゃないだろう!!」
どうやら一刻も早く救助に向かいたいらしいが、こいつはこの前の件から何一つ学んでいないらしい。
「お前の実力じゃあ、どうやったってモンスターハウスからあいつらを助けだせないぞ。てか、その前に間に合わないか」
「っ」
竜胆の抵抗が止まったので、俺はすかさず付け加えた。
「俺が同行すれば二つの問題は解決される。お前が本当に奴らを助けたいなら、このままコラボを続行すべきだな」
”確かに、偽善者ニキが参戦してくれるのなら安心は安心”
”特殊個体オークを素手で倒せる男がいてくれるのは心強すぎる”
”情弱か? それこそ二階堂が言ってたけど、こいつ全然強くないらしいよ”
”確か武蔵野ダンジョン高校で成績最底辺だったんだよな”
”え? マジでか?”
”じゃあなんで特殊個体オーク倒せたんだよ”
”だからヤラセ説が出てんだろ”
”暁がすでに弱らせてたおかげで倒せた説”
”あ、それじゃん。なのによくこんな偉そうなこと言えるね”
コメント欄は俺の実力を疑問視しているが、竜胆はそうじゃない。俺と一緒に行かないという選択肢はないだろう。
「……ああ、わかった、わかったよ!! 一緒に行こう!!」
「そうか、そりゃよかった」
俺はそのままぐいっと竜胆を引き寄せると、膝裏に手を回して横抱きした。
確か、お姫様抱っこっていうんだったかな。
竜胆は、唖然とした顔でしばらく俺を見ていたが、みるみるうちにまた発光し始めた。
「にゃにゃにゃにゃにゃにをする!?!?!?」
「ん? だからお前の足じゃ追いつかないから、お前を抱えて俺が走るんだよ」
”は?”
”お姫様抱っこ!?”
”キェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!”
”ふざけんな”
”殺すぞ”
”コロスコロスコロスコロスコロスコロス”
”もはやこれ脱処女だろ”
”聖女の処女を奪った罪は重い”
”ユニコーンだけど暁のファンやめます”
”どうぞどうぞ”
「さて、行きますかね。重りがある分、お前ん時より本気を出さないとなぁ」
「重り!? 今重りって言ったか!?」
ヒステリックに怒鳴る竜胆を無視して、俺は中層へと疾走したのだった。
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