第2話 モハンと猫神
モハン・ニャルクス猫帝王大国の『大大大帝王』である、モハン大帝王は夢を見ていた。その夢はフワフワとしながらも妙な現実感があり、俺の視界に広がっていた夢の光景は、それはもう極楽も極楽であった。
超が付くくらいのカワイ子ちゃん——ケット・シー視点——達がそこら中で「キャッキャ」と花を摘んで遊んでいるではないか。
こんな光景を見せられちゃあ、そりゃあもう夢見心地よ。
まるで宙を浮いているみたいに浮き足立っちまうのよ。
ていうか、マジで空を飛んでいるんだけどな。
「我は空を飛んでいるぞぉ……見てみて、カーハン、トーハン」
ここが天国なのかぁ——と俺がベラベラ喋っていると、白毛のカワイ子ちゃんが『フワフワ』と宙を漂っていた俺のもとへとやって来て、「こちらです」と儚げな美声を発したかと思ったら急に手を取られてだな、ああもう最高よ。
地に足がつかないせいで俺は彼女に全く抵抗できなくて、俺は「どこに行くんだベイベー」と言いながら目の前にあった『白亜の宮殿』へと引っ張られていってしまった。
「おぉ? にゃーはっはっはぁ……! ここが我が城ということか。控えおろう、みにゃの衆よ!」
「ここは貴方様の城ではございませんよ」
俺の言葉を聞き、真面目に返答してきた彼女に俺は強気に物申した。
「いいや、ここは我が城ぞ。今から悪賊を打ち滅ぼしに行ってやるのだ」
「ここは貴方様の城ではございません」
「違わにゃいからね、ここはもう我が城だから。決めちゃったもんねー。にゃーはっはっはぁ! 君を我の側近に決めちゃったもんねえ!」
「……」
その後、黙ってしまった彼女に対し、俺は必死になって声掛けを行っていたのだが、結局目的地らしき場所に着くまで彼女が声を発することはなかった。
俺ん家の何百倍もありそうな広い宮殿を無言で引っ張られながら連れて行かれてしまっていた俺は、とうとうこの宮殿の『元主人』と対面したのである。
『いやいや、元じゃないし。現だよ現。というわけで初めましてかな、モハン君』
俺の目の前、宮殿の中央にある大広間で『鎮座』していたのは、俺の体躯の何百倍もありそうな超巨体を誇る一匹の『猫』であった。
俺を差し置いて『城の主人』を自称する猫に、俺は身勝手な怒りを露わにすると共に、明らかに普通の猫ではない、その巨猫の正体について本人——いや、本猫に問いただす。
「誰だテメエ!」
『ボクは君達『ケット・シー族』が崇めている猫の神——猫神その猫だよ』
「あっそ」
『反応うっす! まあいいさ。早速本題なんだがね、君を我が神界に——』
「我以外が『我』って言うにゃ」
俺が持っている『王』としてのプライドが、目の前で鎮座する『王より上っぽい存在である神』のせいて傷つきかけてしまったので、俺はマウントを取り返すためにすぐさま訂正を求める。
そんな俺に対し、口を呆けさせて固まっていた自称神は一度口を閉じて、俺に負けたように訂正の言葉を吐いた。
『……本題なんだがね、君を『ボク』の神界に呼んだのは、ボクの『お願い』を聞いてほしかったからなんだ』
「お願いぃ? やあだね! 我は縛られるのが嫌にゃんだよ」
俺は自称神の願いとやらをにべもなく断った。
すると神は『そこをなんとかぁ』と俺の足に擦り寄ってきてしまったので、仕方なく俺は王としての慈しみを自称神に与え、俺はこの宮殿の王——いや『神王』になったのであった。
モハンの伝説——完
『勝手に終わらせないでくれないかな。あと君が王様になりたいってことは『君の前世』を見ていたから知っているけれど、さすがに神の王にはなれないよ』
んん?
君の前世だと?
まさかこいつ、犬飼一二三を知っているのか!?
「にゃに者だ貴様!」
『ボクは『猫の神』だって言っているじゃないか』
「だからってにゃんで『一二三』のことを知っていのだ! こことは違う世界のはずだろう!」
俺の持つ疑問を自称神に伝えると、神は『ああ、なるほどね』と言う顔をし、俺の疑問を解消した。
『ボクは『猫』を司っている神だ。それは別世界でも例外じゃないってことなんだよね。一二三君のことは黒吉君を介して見ていたから、知っていたんだ。というか、死んじゃった一二三君をボクの眷属であるケット・シー族に転生させたのは、このボクなんだけどね』
ベラベラと衝撃的なことを語り出した神に対し、俺は呆気に取られてしまっていたが、神が発した『我慢ならない言葉』を耳に入れた俺は怒りを露わにし、次の言葉を神にぶつけた。
「我は、お前の眷属ではにゃい!」
『そっち!? そ、そうか。それなら君の前で言うのは今後控えることにするよ。ゴホン——と言うわけで、君には神であるボクのお願いを聞いてほしいんだよね』
またなんか言い出した神に、俺は先ほど胸の内に生まれた疑問を投げかける。
「ちょっと待て。神と王のどっちの立場が上にゃんだ?」
その言葉を聞いた神は、キョトンとした顔をした。
『か、神と王の立場はどっちが上なのか……だって? えっと、神じゃないかなぁ?』
「もう帰る」
フワフワと宙を漂っていた俺はくるりと後ろを向き、神殿の出口へと向かったのだが、神の周りにいたカワイ子ちゃん達が急いで俺の背後に回り、俺の行手を阻んでしまった。
『本当に君、神であるボクより自由気ままだな! 分かったよ、この場で君と僕は対等ということにするから話だけでも聞いてほしい!』
「仕方にゃいな。早よしてほしい」
『全く、不敬にも——』
あ!? 何言ってんだコイツ!
「にゃにが不敬だテメエ! 我は王だぞ!」
『ボクは神なんだけどねえ! もう分かったから少しは落ち着いてくれよ……』
それからカワイ子ちゃんに手を引かれて神の前に戻って来た俺は、仕方なくコイツの話を聞くことにした。
『ふぅ……こんなに疲れたのは久々だよ。それじゃあ、一旦君の話をしようか』
そう言って一度言葉を切った猫神は、犬飼一二三をケット・シー族に転生させた理由を語り出した。
『ボクが君を転生させたのは君の死のタイミングがよかったことと、ボクの君への好感度が高かったからってのがある。まあ、気まぐれというやつだね』
「そんにゃことはどうでもいいにゃ」
『はいはい。それで君には生まれつき、ボクが与えた加護が宿っているだろう? ほら「バキュン!」ってやつさ』
ああ、超能力のことね。
「あれは我の潜在能力の賜物だ! お前の力じゃにゃい」
俺の否定を受けて溜め息を吐いた神は、俺を無視して話を続ける。
『ボクが他猫に加護を与えることなんて、ボクが世界に生まれてから一度もなかったことなんだよね。じゃあ、なぜ君に与えたのかというと、それは僕の『お願い』が関係しているんだ』
「ふーん」
『ボクが君を転生させて強力無比な力を与えたその理由は、不必要にこの世界に散らばってしまっている『神器』を君に回収してほしいからなんだ』
神器——ってなんだ? ていうか、何で俺がそんな面倒臭いことをしなくちゃいけないのだ。
そんな仕事、神であるお前がやればいいはずだろう。
『まあまあ、そんなこと思わずに話を聞いておくれ。ボクだって自分でできるならもうやっているし、他の神々もこの件には頭を悩ませているんだ。神であるボク達が何故頭を悩ませているのかというと、それは他の神から邪魔をされてしまっているからなんだよね』
「つまり我の言うことを聞かにゃいというわけか」
『そう! その通りだともモハン君! 君の言うことを聞かない奴がこの世にいるんだよ! けしからんよね! だから神器の回収を頼んだよ!』
「にゃに言ってんだテメエ! 我は『仕事』にゃんかしにゃい!」
都合よく仕事を押し付けようとしてきた神に憤慨していると、神は嫌がる俺に対し『餌』をぶら下げた。
『この件には他の神々も手を拱いているんだよ。だからもし、神々の悲願である『神器回収』を成し遂げれば、両手を上げて喜んだ神々から褒賞が与えられるよ』
褒賞——という言葉を聞いた俺は、ニヤリと下卑た笑みを浮かべた。
「ほう。つまりお前を蹴落として我が『猫神』ににゃれると言うわけか」
『——! ダメダメ! それダメだね!』
『にゃーはっはっはぁ! 我が猫神王であるぅっ!』
『ぼ、ボクの声真似はしないでほしいね!』
そんな感じでガヤガヤと時間だけが過ぎていき、疲れてしまった俺が黙ると、息を切らしていた猫神が話を続けた。
『ぜえ、はあ、ぜえ——とある神の手によって世界に散らばってしまった神器の数は『八つ』だ。その八つを君に回収してもらいたい。猫神になりたい以外の願いなら聞き入れてもらえると思うから、是非とも頑張ってほしい……。それじゃあ、ボクはもう寝て休むから帰ってくれ』
『にゃあ! 我が神々の王ににゃるって願いはどうだ!?』
『もう帰ってええええええええええええええええええええええええええ!』
猫神の必死の叫びと共に、凄まじい勢いで俺の視界が変化していく。
そして——
「モハン! 朝よ〜!」
という、カーハンの呼び声を聞いて俺は起床した。
枕元に置いてあった時計を見ると、朝の八時が過ぎてしまっているではないか。
変な夢を見ていたせいで、いつもより一時間半くらいの遅くまで寝てしまっていたようだ。
俺は「くわ〜」と欠伸をしながら寝巻き姿で部屋を出て、リビングへと向かった。
「おはよう、モハン。お寝坊さんだったわね」
「うん。にゃんか変にゃ夢を見てた……」
「どんな夢だったの?」
「…………にゃんだっけ?」
「あらあら。早く顔を洗ってらっしゃい。そしたら朝食にしましょうね」
「はーい!」
すっかり夢の内容を忘れてしまった俺は、特に気にした素振りもなく朝食を摂り終え、日課の庭冒険を始めた。
『モハン君、世界の命運は君に掛かっているからね……』
肝心な使命を忘れてしまったモハンを神界から見守っていた猫神は、ガクリと首を折ってしまったのだが、そんなことなど知る由もないモハンは、相変わらず地を這う蟻に自己紹介を行う。
「我はケット、シー族のぉっ! モハン・ニャルクス——である!」
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