第21話 フライゼン城防衛戦5~十傑の脅威
「お呼びでしょうか?ベルンハルトさま」
ベルンハルトはルンデルの先頭を突っ走っているゴットハルト将軍を注視していたが、二人がやって来たのに気づくと話を始めた。
「他でもない。おまえたちを呼んだのは、あれだ。おまえたちにはあの将軍の左右の矛を止めてもらいたいのだ。真ん中の奴は俺が相手するでな」
ベルンハルトが指を差した先にはゴットハルトを中心に、まるでナイフでバターを切るかのように自軍が斬り裂かれているところであった。
「殿下御自ら戦われるのですか?」ルドルフが尋ねる。
「はっは、あいつは別格の化け物よ。さすがのおまえらでもちと荷が重いかもしれんぞ?もっともクルトならどこまで戦えるか見てみたい気もするが」
ベルンハルトの十傑は席次が決まっている。クルトは第一席であり、今回呼ばれたのは第三席のルドルフと第四席のバーバラだった。席次は実力によって不定期に入れ替わるのだが、この第一席から四席までは今まで一度も変わったことが無い。それほどに他の十傑とは一線を画す力を持っている者たちである。
彼らは普段、兵を率いて戦うことはしない。もちろん、場合によって兵を率いて戦うこともしばしばあった。しかし、それほどの実力を持っていても個々に特定の兵力は有していない。彼らは兵を持たない代わりに戦場に出れば命令に縛られず、自由に戦える特権を持っていた。その点、ベルンハルトは用兵能力ではなく、徹底的に武の力を信奉する生粋の武人である。しかし、その彼自身の武の力と十傑の武の力だけで度々戦場をひっくり返してきた実績があることも事実である。
「時間が無い、俺は兵500を率いて突っ込む。おまえたちは好きにやれ」
そう言い残すとベルンハルトは早々に兵を率いて突撃を始めた。オットーはともかく後ろ盾になってくれるホルストが殺されるのは避けたい、そこがベルンハルトの本音であった。
急いで二人ともベルンハルトの突撃の流れに加わり、ゴットハルトの両矛にそれぞれ向かっていく。
ローレンツの中央軍はゴットハルトによって瀕死の状態であった。将軍の通った後には累々と屍が積み重なり損害だけが増えていくばかりである。まだかろうじて完全に崩れていないのはオットー中将が本陣で粘り強く指揮を取り、修復を重ねているからであろう。
オットー中将の位置を確認したゴットハルトは猛烈な勢いで本陣まで突進していく。オットーとホルストを守る近衛隊を切り裂き、あっという間に目と鼻の先まで迫っていた。
その時である、ゴットハルト軍は強烈な横撃を食らった。左翼に展開していたベルンハルトが斜め横から突っ込んだのである。こうして、ゴットハルトとベルンハルトは激突することとなった。先頭を走るベルンハルトがゴットハルトを見つけると大声で叫んだ。
「おまえがゴットハルトか?俺の名はベルンハルト!おまえが勇将というなら証明してみせよ!」
「はっはっはっは!お主が噂の王子か、いいだろう!」
そう言って、ゴットハルトは本陣からベルンハルトに向かってくると、勢いそのまま大上段から巨大な矛を打ち下ろした。ベルンハルトは剣でそれを受け止めた。
ドォォォォォォォォォォォォォン!
物凄い音が戦場に響き渡る。受け止めた瞬間、電気が走ったような衝撃がベルンハルトを襲う。その衝撃は彼の馬にも伝わり、馬の足が一気に地面に沈み込んでしまった。ガクッガクッと馬が震え始める。
ゴットハルトはその様子を見てニィッと笑った。
「俺の一撃を受け止めた奴を久しぶりに見たな」
「馬がダメになったか」
そう言って、ベルンハルトは馬の背を蹴りゴットハルトに向かって飛び出した。ベルンハルトから見たことも無いほどの大量のオーラが立ち上り、彼が握る剣にもそのオーラがまとわりつく。
ゴットハルトがベルンハルトの剣の間合いに入った刹那、無数の剣撃が彼を襲った。あまりの剣速につむじ風が巻き起こるほどである。周りの兵士には彼の剣が全く見えない。一体何が起こっているのがすらわからない有様だ。驚くことにゴットハルトはベルンハルトの超速の剣筋を見切り、ことごとく矛で受けていく。どちらも人の領域を超えた化け物であった。
しかし、次第にゴットハルトの鎧の端が切れ飛んでいき、最後の一撃でゴットハルトの巨体は吹き飛ばされた。ゴットハルトは咄嗟に矛を地面に対して垂直に突き立てて着地する。
「はっはっは、よもや俺が吹き飛ばされるとは面白い経験をしたな。オーラを武器にまとわせて斬撃を飛ばしたか。ベルンハルトよ、俺の相手として認めてやる。かかって来い」
そう言って矛を地面に突き立てたまま、右の掌を天に向け指で手招きをする。いつの間にか、周囲の兵士たちは大将同士の一騎打ちに圧倒され、戦闘を中断し見入ってしまっていた。
一方、ゴットハルトの左翼側にいたマティアス大隊長は、突然横から切りかかってきた女剣士に完全に足を止められる。それまで、彼の間合いに入った敵兵は何が起こったのかわからないままに恐怖の表情を浮かべながら切り倒されていった。
しかし、この女兵士は顔色一つ変えず数合刃を交えると「なるほどね」と言って不敵に微笑む。
なんだこの女?マティアスは不気味な感覚が彼を包み込んでいくのを感じながら、彼独特のリズムで主導権を握ろうとした。ゆっくりとした動きを交えながら、攻撃に移るほんの一瞬にオーラを込める。これをすることで相手にはゆっくりとした動きが脳裏に焼き付く。
そこに瞬発的なオーラを込めることによって一瞬、剣速が急速に速くなる。この緩急の効いた攻撃にこれまで対応出来たものはほとんどいなかった。しかし、この女には通じなかった。通じないどころか、完全に全ての攻撃が読まれ捌かれてしまう。
「これじゃ、あたしが出るまでもなかったね。カミラに気に入られたら生き残るチャンスがあったかもねぇ、色男さん」
女から立ち上るオーラの量は異常だった。マティアスは恐怖で身体が硬直しそうになるのを抑え込むのに必死だった。
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