第22話 最強 対 最強 (ローレンツ最強の剣士とルンデル最強の勇将)
「ちっ」マティアスはなりふり構わず持てる最速の剣技を叩きこむつもりで構えた。
「面白いものを見せてあげるよ」
するとその女の剣の動きが妙にゆっくりとした動きに変わっていった。ゆっくり、ゆっくりと振り下ろされる剣。当然マティアスはそれに合わせて剣で受けた。受けた?いや、彼女が放った剣はまだマティアスの剣に届いていなかった。
おかしい、余りに、遅い。やがてマティアスの視界は左右半分ずつズレていった。ぐらっと身体が揺れてゆっくり倒れていく。彼の身体は真っ二つにされていた。
「おーいバーバラ、そっちは終わったか?」
「こっちは今終わったとこ。そっちはもう終わったの?」
「終わった終わった!」
呑気な声でルドルフが槍を振っている。ニカっと余裕な表情で笑ってるところを見ると、相手にもならなかったらしい。
「じゃあ、あとはベルンハルトさまだけだね」
「ああ、すごい戦いになってる。おまえも早く来いよ!」
興奮しながら手招きしている
中央では依然、ゴットハルトとベルンハルト両者の凄まじい一騎打ちが続いていた。既に両者打ち合うこと百余合、ベルンハルトがオーラを纏わせて斬撃を飛ばせば、ゴットハルトもオーラを纏って打ち消す。
一瞬でも触れれば間違いなく粉微塵になるであろうゴットハルトの打ち下ろしから始まる凄まじい圧の連撃を、ベルンハルトは臆することなく全て捌いていく。そして睨み合いの時間が続いた。やがてゴットハルトはオーラを極大化していった。それを見てベルンハルトもオーラを極限にまで高めていく。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・
二人が放つオーラは周りにいる兵士さえも包み込むほど大きくなっていき、大気を震わせる。やがて両人を中心に拡がったオーラはそれぞれの矛と剣に凝縮されていく。
「
二人が同時に言い放つ。ゴットハルトが巨大な矛を横に振りぬくと同時にベルンハルトも剣を振りぬいた。
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
凄まじい衝撃波が伝わり、ベルンハルトの左斜め後ろにいた兵士たちは巻き込まれ消し飛んでいた。ゴットハルトから放射状に伸びた衝撃波の先は、文字通り跡形もなく消し飛んでいたのである。
ゴットハルトの右斜め後ろにいた兵士たちも悲惨な状況であった。野菜でも切ったかのように綺麗に胴体が真っ二つにされており、やはり同じく後方にまで兵士たちの屍が累々と続く。
ベルンハルトの胸からは血しぶきが上がった。ゴットハルトの槍は余りにも重く剣が折れると判断すると咄嗟に力技で衝撃波の方向を上にずらしたのである。これ自体が既に神業であったが、その一瞬で胸に衝撃波がかすったのだ。かすっただけだったが、その衝撃はベルンハルトの胸をえぐり出血させ、胸骨にはひびが入っていた。
「さすがだな、ルンデルの勇者よ」ベルンハルトは不敵に笑った。
「はっはっは、あれを食らって立ってるのはおまえが初めてだ、恐れ入るぞ」
ゴットハルトも笑っていたが、彼の鎧の胸部は深くえぐられ骨まで傷が達しており、そこから少なくない血が流れている。
ベルンハルトの放った剣は余りにも鋭かった。気づいた時には衝撃波がゴットハルトの胸部にまで達している。さらにゴットハルトは、自身の放つ衝撃波が相手の剣とぶつかった瞬間、放つ一撃の方向が物凄い力で上に捻じ曲げられるのを感じ取った。
それをわかっていながら、敢えて構わず振りぬいたのだ。ゴットハルトが一瞬でも躊躇し衝突するタイミングがあと僅かでもズレていたらゴットハルトの首と胴体は離れていたであろう。二人とも常人が到達できない境地に達した武人であった。しかし、お互いの技をその身で食らった今では、既に満身創痍の状態であった。
ブオーーーーーーッブオーーーーーーーッ
不意に角笛が戦場に響き渡った。後方の指揮を任せているルンデル軍のヘルムート中将が、撤退の合図をしたのである。轟音と衝撃波により、多くの死傷者が出たこと。その結果、お互いに陣形が崩れてしまったことにより、戦場は混戦の様相を呈していた。そのため、中将が頃合いと見て撤退の判断を下したのである。
「ふふふ、お主のような強者に会えたことに感謝する。いやぁ、久々に死ぬかと思ったわ。はっはっはっは!」
気持ちのいいほど正直に、そして豪快に笑い飛ばすゴットハルトにベルンハルトも答える。
「俺も久しぶりに面白い戦に参加出来た。再戦を期待するぞ」
そう言うと、ベルンハルトはまだ足が回復しきらない馬を連れて自陣に戻っていった。それを見てゴットハルトも自分の愛馬にまたがり、戻っていく。
直後に、ゴットハルトは大隊長であったマティアスとピエールの二人がベルンハルトの部下に倒されたことを知った。短く溜め息をついたゴットハルトは天を仰いだ。あいつらはいい部下だった。と、憂う一方でベルンハルト陣営の層の厚さも認めねばならなかった。
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