stage.25「青いの……肩慣らしに付き合ってもらおうか」
絶句して立ち尽くす少女らに向かって、レーヴェは大仰に右手を胸に添えて慇懃無礼なお辞儀をする。向日葵は、動揺を抑えるように眼球を揺らして角の生えた
「は、はぁ? イミフなんですけど……」
「言葉のと~りで~すヨ! ジブンはお二人から生ま~れた~のでスっ!」
勢いよく上体を起こしたレーヴェは、手塚とミユキが浮かぶカプセルに手のひらを差し出し薄ら笑いを浮かべる。
「と~ってモ! 感謝し~てま~すヨ!」
「……なるほどね~。そっかー」
ソレイユが小さく呟くと、アイアンセラスがばらけて引き寄せられた。俯き、拳を震わせる少女の周囲を白銀の鎧が漂う。
「ソレイユ……?」
空気のひりつきを感じてスカイが駆け寄るが、それより早くソレイユは盾を構えた腕を振りかぶり跳躍した。
「ぶっ殺すっ!!!!」
弾丸の如くレーヴェに向かって突っ込んでいく向日葵の体に、鎧が空中で装着されていく。鋼鉄の乙女は闘鬼の形相でサイを模した盾を怪人に繰り出した。
「おお、こわ~いで~すネ? ですガですガ」
鋭い角の先端が眼前に迫っても、レーヴェは余裕の表情で棒立ちのままである。その異様さにスカイは嫌な予感を覚えて飛び出した。瞳に憎悪の光をほとばしらせる向日葵に、手を伸ばす。
「待って! なにかおかしいよ!!」
角が亞獣の肉体を貫く寸前、背後のモニターの影からレーヴェが飛び出した。
「「視野がせま~くなっちゃっいま~した~ネ?」」
もう一人のレーヴェはソレイユの脇腹に鞭の様な蹴りを繰り出し、装甲がみしりと歪む。
「がぁっ!?」
ソレイユの体は直角に進路を変更させられ、膨大な文字列を映したモニターに叩きつけられた。液晶が割れ、飛び出した配線がバチバチと漏電を起こしている。
「二人いる……とか、ズルじゃん……」
「ソレイユ!!」
痙攣しながら起き上がるソレイユの背後から、角の生えた腕が現れ鎧を斬りつけた。
「二人ジャ、あり~ませ~んヨ」
「っ……!!」
三人目のレーヴェに弾き飛ばされたソレイユは無様に床に転がり、瞳に薄緑の天井を映す。
「ど、どうなって……ひっ!?」
長い睫毛を震わせる少女を取り囲むように、10本の角が突き合わされた。
「「「分身で~ス! もっとだ~せま~すヨ!!」」」
5体のレーヴェはソレイユを見下ろし、鎌のような角が生えた踵を振り上げる。
「「「ジブン、集団行動が好き~なも~のデ!!」」」
「いやあああああああああっ!!?!!?」
レーヴェたちは一斉に足を振り下ろし、ソレイユの装甲がギャリギャリと削られた。角が鎧に突き刺さっていき、少女は床にめり込んでいく。
「うぉおおおお!! 離れろぉぉおおおお!!!!」
スカイは青き光の涙を流し、よってたかって少女を蹂躙する外道に殴りかかる。
「おっト……あなたの素早さはニガ~テで~ス」
しかし、蜘蛛の子を散らすようにレーヴェたちは散開して、闇に姿を眩ませるのだった。
「ソレイユ! 無事……っっ」
スカイはソレイユに振り返り、傷だらけにされた鎧に胸を詰まらせる。長くきれいな睫毛は薄汚れ、目は虚ろに天井を見つめていた。
「す……かい……ごめ……」
「いい! いいから!!」
うわごとのように自分の名を呼ぶソレイユの手を握り、スカイは涙を流す。
「ひどい……なんでこんなこと!!!!」
「フハハハハ!! すべてはワレワレが完全な存在となるためだ!!!!」
悲憤に叫ぶ少女を嘲笑うような、吐き気を催す声が闇の中から響いた。ドブ川を想起させる不協和音に青空の顔から血の気が引いていく。
「この……声……は」
「レーヴェ、貴様らは電池でも運び出しておけ」
「「「承知し~まし~タ」」」
寒々しい声に応えて、地下室の四方から何体ものレーヴェが姿を現した。無数のレーヴェは培養槽を砕き、昏睡した人間を妙に丁重な動作で取り出していく。手塚雄一と斉藤ミユキも、いずれかのレーヴェに抱えられて闇の奥へと消えていった。
「あ、だめ!!」
追いかけようとスカイは足を踏み出したが、動けなくなってしまう。阻むように、暗闇からゆらりと下顎が欠けた蛇の頭が這い出したからだ。
「貴様はじっとしていろ。あれらには、まだ使い道があるからな」
光を呑み込む漆黒の鱗は変わらない。しかし、爪の生えた脚がひたりと床を踏みしめ、コンクリートを引っ掻いた。骨ばった腕は有り余る力を吐き出すように、空の培養槽を叩き割る。
「あぁ、久しぶりの感覚だ……」
少女の前に再び姿を現したヴルゥムは、蛇人間とでも形容すべき異形に変貌していた。
「青いの……肩慣らしに付き合ってもらおうか」
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