stage.20 ◆ サイ&キョー☆ブチアゲ☆ハナビ

「あーしはサイキョー☆だから、みんな守ったげる☆」


「ティアソレイユ……きみもスカイたちの仲間ってわけか。助かったよ」


 黄色を基調とした物々しい甲冑に身を包み、にぱーと笑っているソレイユのギャップに大地は生唾を飲み込む。


「いーって、トモダチのトモダチはトモダチっしょ?」


「友達?……うしろ!!」


「まそおおおおおぉおぅ!!!!」


 ソレイユが振り返ったときには亞獣の鉄槌はすぐ頭上に迫っていた。風を切って振り下ろされたバーベルが化粧の決まった顔に直撃する寸前、咲き誇る花の如き金色のエネルギーへきに阻まれる。ビキビキと猫の額にしわをつくり力を込めるが一寸たりとも動かなかった。


「あんさ~、だべってるときに、かまちょアピールとか~」


 ピースからパーにした手をひらひらと振ってソレイユは気だるげに呟く。瞳を琥珀色に輝かせた少女は鋼鉄の拳をぎりりと握りしめ、一歩踏み込んだ。


「マジありえないんですけどっ!!」


 アシメショートを振り乱し、ソレイユは渾身のボディブローをぶち込む。エイトパックに拳がめりこんだ瞬間、花びらのようなエネルギーが幾重にも発生して巨体を打ち上げた。


「まそっっ!!??」 


 車道に転がるごつくてでかいだけの木偶の棒を、乗り捨てられた車のヘッドライトが照らす。呻きを洩らして這いつくばる怪物を見下ろすソレイユの目は、静かに燃えていた。


「あんたさ~、やっぱり全然かわいくないわ~」


 にこやかさはどこへやら、真剣な表情になったソレイユはカフェの入った建物を見上げる。2階のテラス席には逃げ遅れた人々が震えて身を寄せ合っていた。3階のバルコニーではピアノのそばで若い男が腰を抜かした恋人を抱きしめている。拒犀きょせい向日葵ひまわりの脳裏に、海を眺めながら鍵盤を叩く手塚てづか雄一ゆういちの姿が浮かんだ。このカフェは彼女たちが出会った場所なのである。


「あーしの思い出を……こんなん絶対許さないから!」


 ソレイユは休む暇を与えず、亞獣に飛び掛かった。牙を剥きだしにして激突する両者を、対岸から見ていた青空は思わず声を洩らす。


「つよい……わたしなんかよりずっと。リンドゥは気付いてたの?」


――半分くらいね。相当な想いを抱えていそうだったからさ。


「わたしも変身できれば……」


 青空は俯き、手のひらで光を失ったティアリングを見つめ、唇を噛みしめた。


「みなさま~! 今のうちに逃げてくださいまし~!!」

 

 だが、己が無力と嘆くのはまだ早い。顔を上げるとヘレナが気高き声を響かせ避難誘導をしていた。青空は頬を叩くと振り返り、広場で怯える人々を見る。


――今、できることを……。


「みなさん!! 危険だから逃げてくださーい!!」


 青い髪を潮風になびかせて、少女は叫んだ。松の並ぶ海岸にこだまする少女の願いは人々に勇気を与え、その足を呪縛から解き放つ。


「アオちん、やるじゃん☆」


 亞獣の拳を受け止めて、ソレイユはニコッと笑うと振りかぶった右腕に力を込めた。


「そんじゃ、こっちもいくっしょ!」


――ちょっと、待った。


「ぅええ!? ダレ!? ドコ!!??」


――あー、その反応はもういいから。話だけ聞いて。死にたくなければね。


「お、おっけー……イケボの誰かさん」


――いい子だね。じゃあ、胸に左手を当てて「エンゲージ」って言ってごらん。


 口をへの字に曲げたソレイユは亞獣の前蹴りを軽くいなしつつ、小首を傾げる。が、とりあえず言われたとおりにやってみた。


「え、エンゲージ……? うわっ!!??」


 やってみると、ソレイユの胸部からメキメキと角が生えてきて、繰り出された亞獣の拳に突き刺さる。さらに角の下からサイの頭部が飛び出し傷を抉り、さすがの筋肉にゃんこも溜まらず後ずさった。


「まそぉぉっ!??」


 ソレイユの前に顕現したそれは、中央に鋭利な角をあしらった超攻撃的な盾である。サイの頭部を象った本体を巻き付くように蛇の装飾が縁取っていた。

 

「なにこれ、イッカす~☆」


――それが涙器ティアーズ・ギアだよ。その盾に力を集中して攻撃すれば目の前の怪物は爆散する。


「爆散!? それってニュースでやってた駅前のやつっしょ!? やばくない!??」


 ここは週末の観光地。建物も多く、逃げ遅れた人もまだ残っている。ソレイユは母を探す子どものように周囲を見回していると、突然装甲が弾け飛び、レオタードのような戦闘服が露わになった。


「ええ!? 壊れちゃった!?」


――いや、違う。


 困惑するソレイユの目の前で、パージされた鎧がひとつに組み上がっていく。角が生えた肩アーマーが頭部となったその姿は、まさしくサイだった。


「わああ!! なんかカッコイーのに変形した!!ってどこ行くし!!??」


 白銀しろがねの四足獣は大地を揺らし、腕を抑えてふらつく亞獣に向かって一直線に突進する!


「ま、まそぉぉっ!!??」


 一角獣が筋肉の塊を易々とかちあげると、なんと鼻先の角が頭頂まで後退した。そして、次の瞬間ばねのように勢いよく戻り、亞獣を海上へ向かって射出する。


「えっぐぅ~……」


 亞獣を放り投げ、どことなく誇らしげに振り返った鉄サイに、ソレイユは目を瞬かせた。


――なるほど、角がカタパルトになっているのか。キミの想いに応えたんだよ。


 サイの角が再びキリキリと音を立てて下がり、無機質な瞳が少女を見つめる。


「まさか、飛べって言ってる?……しゃーない、やってみるか☆」


 溜息をつくとソレイユは鉄サイに向かって駆け出し、軽やかに跳躍して角に足をかけた。


「アゲてくよー☆」


 バチンと角が弾かれ、盾を構えたソレイユが、自由落下に囚われた亞獣に向かって突っ込んでいく。盾から溢れたネガティヴィウムが光となってこぼれ、まるで金色の箒星が夕暮れの空を逆走するかのようだった。


「い、いけえええ!!!! ソレイユーーーーー!!!!!」


 青空の叫びを聞き届け、満面のスマイルで向日葵は亞獣に向かって突っ込む。


「あーしの本気、見せてやんよぉぉぉおおおおおおおお!!!!」


 琥珀色に輝く角が亞獣の腹部に突き立てられ、体内にエネルギーが一気に流し込まれた。



&キョー☆ブチアゲ☆

         ハ

         ナ

         ビ

         


「まそぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 エネルギーが亞獣結晶カポックに到達し亞獣は内部から爆発四散する。季節外れの特大花火に、恐怖に歪んでいた人々の顔に微かに笑顔が戻った。


「どーよ? あーし、つえーっしょ☆」


 そして、花火を背にダブルピースをつくったソレイユの表情は誰よりも明るく、まさに太陽のように空に輝く。


――うん、見事だったよ。、気を付けてね。


「ふぇ?」


 ソレイユはピースのまま、ゆっくりと落下を始めた。登った太陽は必ず沈むものである。


「ひょえええええええええええええええ!!!!」

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