第35話 最終話




「レン、目を開けてくれ!! レン!!」


 ああ、ジーク……そんなつらそうな声で泣くなよ……


「レン頼む。レン……――また笑いかけてくれ」


 いくらだって笑ってやるからさ……そんな苦しそうな声で呼ぶなよ……


 ジークの悲壮感漂う声が聞こえて、ゆっくりと意識が戻る。右手に熱を感じる。

 誰かが俺の手を握っているのかもしれない。

 気持ちいい。


「レン……目を開けてくれ……」


 悲壮な声で名前を呼ばれた後に、唇に柔らかさを感じた。

 俺がそれがキスだとすぐにわかった。

 目を開けるとやっぱりジークがキスをしていた。

 再び目を閉じてジークの唇を感じていると、唇が離れそうになった。俺は片手を伸ばして、ジークの後頭部を押さえて、顔を離さないようした。


 その瞬間、ジークは目を見開いた。


「レン!! 気が付いたのか?」


 至近距離で慌てるジークが愛おしくて俺はジークを見て笑った。


「ああ、まさか侯爵様のキスで目覚めるとは思わなかった」


 その瞬間、ジークに唇を奪われた。

 今度はさっきのような優しいキスじゃない。俺の全てを暴くような激しいキス。


「……――ん……」


 唇を離すとジークが泣きそうな顔で言った。


「レン!! 心配した!! よかった」


「ああ、俺も、ジークを失わなくてよかった……」


 俺は身体を動かそうとして「痛っ」と動きを止めた。


「動くな。医者は打ち身だと言っていた。階段から落ちたのに、これほど損傷がないのは奇跡だと言っていたぞ」


 俺は階段落ちは訓練を受けたある種のプロだ。アクション俳優だった頃教わった人たちのおかげで俺は今、ここでジークの前にいる。


 師範には本当に感謝だな……


 俺はニヤリと笑うとジークを見上げながら言った。


「今日は……優しくしてくれ」


 ジークは俺の唇に再び濃厚なキスをした後に、濡れた唇を親指で拭いながら言った。


「無理はするな。……治ったら、約束通り朝まで付き合ってもらう」


「はは、おあずけしたら後が大変そうだな……」


 俺たちが笑い合っていると、ノックの音が聞こえて第二王子のアルバート殿下が入って来た。そして俺を見た途端に、涙を流しながらベッドに駆け寄った。


「レン!! 目が覚めたのか!! よかった、本当によかった」


 アルバート殿下が俺の両手を握りしめながら言った。

 俺は目を細めると「心配かけてすみません。助けてくれてありがとうございます」と言った。


「レン、私が来たことを覚えているのか?」


「最後、目が合いましたよね? アルバート殿下が来てくれたから俺も安心したのかもしれません」


 アルバート殿下が顔を赤くして嬉しそうに言った。


「そうか……レンが会場にいないので気になったのだ。絶対にドレスを見るためにずっと探していたから……」


 ドレスを見るために探し回っていたのか……悪いことしたな。


「お見せ出来ずにすみません」


「構わない。今度、私だけに見せてくれ……」


 アルバート殿下の言葉に、ジークが声を上げた。


「許可しません」


「侯爵、あなたの許可は必要ない……」


 ジークとアルバート殿下が睨み合っていたので俺は、二人をなだめながら言った。


「まぁ、まぁ、デザイナーにも悪いしさ、絶対またあのドレスはまた着るって……ところで、カレンは?」


 ジークが俺を見ながら言った。


「実は側妃が、私たちを暗殺しようとした罪で捕まった。どうやら側妃はその場に残っていたようでな、現行犯だ」


「え!? 側妃が!?」


 舞台ではニコラス殿下が捕まったが……現行犯か……

 俺はジークを見ながら言った。


「じゃあ、カレンは? ニコラス殿下はなんのお咎めもないのか?」


 ジークが頷いた。


「ああ。あの二人は、お前はいうところ、会場内でイチャラブラブしていたようでな、二人の仲の良さを十分にアピールしていた。今回の件で咎められることはない。カレンは、ニコラス殿下に付き添うと言ってしばらく、城に留まることになった。おお前のケガのこと心配してた……」


「そっか……よかった」


 俺はニコラス殿下とカレンが幸せになりそうで嬉しくなった。

 俺が笑っているとアルバート殿下が俺の頬に触れながら言った。

 

「レン、また会いに来る。今日は側妃のことで城も混乱しているので戻る。名残惜しいが……」


「アルバート殿下、ありがとうございました!!」


 俺は心から彼にお礼を言った。


「気にするな、私とレンの仲だろう?」


 そう言って、アルバート殿下は俺のおでこにキスをして戻って行った。


「殿下には油断できないな」


 苦々しい殿下のいなくなった後に扉を見ているジークを見て、嫉妬してくれているのが嬉しくて少し笑ってしまった。

 二人になると、俺は両手を伸ばしてジークを呼んだ。


「ジーク……来てくれよ」


 ジークはすぐに俺の側に来て俺の腕を取った。


「ケガをしているのだろう?」


「うん、でも重傷ってわけじゃないのはわかる」


 身体は痛いが、本当に打ち身という感じだ。

 それより俺はジークを感じたかった。

 俺はジークを見ながら言った。


「ジーク、シャンデリア飛び移るの……すげぇ、かっこよかった。剣を持つ姿も、俺を必死で呼ぶ姿も、全部、本物は、すげぇかっこよくて……ああ、もう俺の男が最高過ぎる!! なぁ、ジーク。来て」


 舞台の何倍も本物のジークはかっこよかった。

 惚れ直した。

 魅せられた――

 ジークは俺の上に乗って顔を両手で挟んだ。


「私だって、ずっとレンに魅せられていた。私だって……ほしいんだ」


 ジークの頬を撫でるのを合図に、ジークの唇が降って来た。

 俺もむさぼるようにジークを求めた。

 まるで空気を求めるように必死に求められ、求めた。


 愛おしい、愛おしい人と求め合い、俺は気付いた。


 ――いつの間にか、この悲劇の物語が溺愛物語に変っていたことに……


「ジーク、逃がさねぇからな」


 ジークの頭を抱き寄せ、至近距離で言った。


「それは私のセリフだ。私だって、絶対に逃がさない」





 ――これが異世界転移した水沢レンの舞台。



 その後が知りたいって?


 あ……俺の男な、本当に人に言えないくらい凄かったんだ……


 だから……今、ベッドの中のことを思い出すのは危険で……


 もっと時間が経って冷静になったら……な?

 

 



【完】






――――――――――――――――――




最後までお読み頂きましてありがとうございます!!

サブタイトルはどうしても浮かばなくて後付けになることをお許し下さい。

元々はエロ度高めなR18作品だったので、至らないところがあったら申し訳ございません。ですが全年齢だとアルバート殿下が爽やか好青年でいい感じです!!

ジークとレンの色気が伝わることを願って!!

またどこかで皆様にお会いできますことを楽しみにしております。


藤芽りあ

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悲劇の舞台が溺愛物語に変っていたら……どうしたらいい?  藤芽りあ @happa25mai

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