第32話 死神の潜む舞台
エントランスに行くと、ジークが俺を見て笑顔で手を差し出した。
「どうも」
ジークの手を取ると、ジークが俺の耳元で囁いた。
「よく似合っている」
不意打ちだったので、思わず顔に熱が集まるが俺は、わざとニヤリと笑って見せた。
「だろ? 俺もそう思う……――行くぞ」
「ああ」
こうして俺たちは、舞台ではジークの最期となったパーティーとなる王宮に向かった。
「お待ち申し上げておりました。ノード侯爵様。こちらです」
俺たちは王宮に到着すると執事に声をかけられて案内された。
どうやら俺たちは、今回のパーティー会場とは違う方向に案内されているようだった。
やっぱり、俺たちはゲストハウスに案内されるのか……
舞台でもパーティー会場の王宮内の舞踏会会場ではなく、空中庭園のあるゲストハウスに案内された。このゲストハウスは、小規模なパーティーの時に使われる場所で、本来なら一般人が入ることは許されない。
ジークはゲストハウスまで来ると、理由は知っているはずだが、「なぜここに?」と執事に尋ねた。
執事は無表情に答えた。
「ニコラス殿下と、カレン様の結婚のことでお話があると……――側妃殿下がお待ちです。カレン様のことをお考えになられるのであれば、いらっしゃった方がよろしいかと……」
そう、舞台のジークもカレンの結婚についてで脅されて単身ゲストハウスに乗り込んだ。再び歩き始めた執事の姿を見た俺がジークの腕をきつく握ると、ジークが俺を見ながら小声で言った。
「レン。やはり先に、パーティー会場へ行け」
ジークの言葉に俺は腕をきつく握ることで拒絶した。
冗談じゃない。
絶対に、この手は――離さない。
俺はジークを見上げながらジークにしか聞こえない声で言った。
「俺を抱いておいて、逃がすかよ。ジークは俺のだ……――誰が死神なんかにくれてやるかよ!! 俺は嫉妬深いんだからな――覚悟しろ!!」
ジークは俺の額にキスをすると腰を抱き寄せて、執事の背中を見ながら言った。
「ふっ、私はすでにレンのものだ……それにまだ……――抱き足りないからな」
そして俺たちも執事の後を追って再び歩き始めた。
そして、ゲストハウスに到着すると、執事は無表情に「こちらです」と答えたのだった。
大きな扉を開けてゲストハウスに入ると、俺は思わず息を呑んだ。
見覚えのあるシャンデリアに、大階段。そして二階に見える大きな窓。
ここはジークが最期に戦った場所だった。
思わず、ジークの腰を持つ手に自分の手を添えた。
階段をゆっくりと上がり辺りを見回した。
(騎士像まであるのか……)
舞台で、俺の演じるジークはこの騎士像を上り、シャンデリアに掴まって敵を振り切り最後、大階段の上で敵と戦い階段落ちで終わった。
(あの舞台の最後のアクションがかなり好評だったんだよな……)
ふと、騎士像とシャンデリを見た。
飛べない距離じゃない。
そして、その着地地点、大階段まで来た。
(舞台のセットと同じくらいか……)
舞台の時はワイヤーも使っていたし、プロテクターだって付けてケガには万全に気を付けていた。
(生身で階段落ちが無事にできるのか?)
俺はゴクリと息を呑んだ。
「レン、どうした?」
ジークに尋ねられて、俺は「なんでもない」と答えた。
ジークにはここで襲われることは伝えた。大体何人くらい敵がいるのかも……。
だが、シャンデリアや階段から落ちることは伝えていない。
――どうしても、現実になりそうで怖くて……言えなかったのだ。
そして俺は笑いかけると、ジークと共に側妃の待つという空中庭園に向かったのだった。
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