第30話 目覚める数時間前に何があったのか知りたい件



 目覚めると、隣にはすでにジークの姿はなかった。

 シーツに触れたが、もう温もりはない。


「こんな朝に……一人にするなよ……薄情な侯爵様だな……」


 ふとベッド近くの椅子見ると、昨日脱ぎ捨てしまった服がまとめて置いてあった。

 俺は重い身体を引きずりながら服を着て、ベッドから出たのだった。






 レンがジークの部屋で目覚めた頃。

 ジークは第二王子アルバートに会うために王宮の応接室にいた。


「これは、ノード侯爵。こんな朝早くから何用だ?」


 第二王子アルバートの言葉に、ジークは深く頭を下げた。


「こんな時間に申し訳ございません。どうしても学院に行かれる前に話をしたかったもので」


 ジークはそう言って顔を上げると、真剣な顔でアルバートを見ながら言った。


「アルバート殿下、単刀直入に言います。レンは私のパートナーとしてパーティーには連れて行きます。よってドレスなども全て、私が用意します。殿下はこの件には関しましては、一切手出し無用に願います」


 ジークの言葉を聞いたアルバートが眉を寄せた。


「何を言い出すかと思えば……レンは私の招待客として……」


 アルバートの言葉を遮って、ジークが口を開いた。


「レンまで、王妃殿下のターゲットにする気ですか?」


 アルバートはジークの話に眉を寄せた。


「ノード侯爵よ……何が言いたい?」


 ジークは真剣な顔で言った。


「現在、側妃殿が我が妹のカレンを陥れるために、私を亡き者にしようとしております。以前襲われたのは側妃殿が放った賊です」


 アルバートは目を大きく開けたがすぐに頷いた。


「なるほど、確かに……側妃殿ならそれも有り得るな」


 ジークはアルバートを見ながら言った。


「もしも、あなたがレンにドレスを贈り、個人的に招待したことが正妃殿の耳に入れば、レンも同じようにあなたの母、正妃殿に狙われます」


 アルバートは青い顔をした。

 側妃のように、レンを亡き者にするために刺客を送る可能性を否定できない。

 それほど、正妃も側妃もそれぞれの息子を王にするために……狂気に満ちていた。


「っ!! それは……否定はできないな……」


 ジークはアルバートに詰め寄りながら言った。


「レンをこれ以上危険にさらすような真似は止めて下さい。パーティーには連れて行きます。私のパートナーとしてなら、誰のどんな妨害もなく参加できる」


 アルバートがギリッと音を立てて奥歯を噛み締めた後に、ジークを見ながら言った。


「わかった。だが……紫のドレスだけはやめてくれ。青いドレスを選ぶというのなら……ノード侯爵の提案を受け入れる。もし……レンが紫のドレスなど着て来れば、私は本気でドレスを破り捨てて脱がせてしまうかもしれない」


 ジークは苦い顔で言った。


「青は……お断りします。それこそ私もパーティーに連れて行く前に脱がせてしまいそうです」


 二人はバチバチと火花を飛ばしながらにらみ合った後にほとんど同時に言った。


「濃紺なら……」

「ネイビーなら……」


 二人の意見が一致した軌跡の瞬間だった。

 こうして、レンの知らないところで、レンの着るドレスの色が決まったのだった。



 

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