第28話 御乱心の母親
今日はカレンと第一王子のニコラスは庭を散策するということだったので、俺は護衛を王宮の騎士にまかせて、第二王子が生活する棟のプライベートな庭園の入口付近の少し隠れた場所のベンチに座ってカレンを待っていた。
「あと二時間か……」
ジークにパーティーに連れて行けないと言われて、俺はどうしようかとひたすら考えていた。
(ジーク、命を落とすかもしれないのに……なぜ俺を連れて行かないんだ?)
考えてもわからない。
未来を知る俺がいた方が絶対に便利だし、助かる確率も高い。
「はぁ~~もう一度話をしてみるか……でもな~~あいつ結構頑固だよな……」
そう思った時だ。
――ガシャン!!
ガラスが割れる音がしたと同時に、煌めくガラスの破片が雪のように降り注ぎ、壺が二階の窓が降って来た。
(なんだ?)
俺は立ち上がると、音がした方を見た。すると女性の声が聞こえたので、少し近付いた。すると女性がヒステリックに騒ぎ立てている声が聞こえた。
「ニコラスは一体、何をしているの!! 毎日、毎日、毎日、ノード侯爵家の娘とばかり会って!! わたくしは聖女と懇意にしなさい、とあれほど言ったのに!! 正妃の息子は確実に聖女との仲を深めているというのに!!」
(ニコラスと……カレンのことか……)
俺が聞き耳を立てていると、さらに男性の声が聞こえた。
「どうか、側妃殿下、落ち着いて下さいませ!!」
どうやら、この騒いでいる女性は、ニコラスの母親の側妃のようだった。
先に生まれたニコラスが第一王子と呼ばれているが、ニコラスの二年後に正妃が第二王子のアルバートを生んでいる。
それからこの正妃と側妃の間で王位継承争いが勃発しているのだ。
(普段からこんなにヒステリックに叫んでるのかよ……それで、ジークに刺客を、カレンに罪を……)
再び側妃が暴れ出したようで、物が二階から取んで来たので俺はその場を離れて、始めに座っていたベンチに座って呟いた。
「あれが母親……怖いな……」
すると後ろから声が聞こえた。
「私の母も同じようなものだ」
「え?」
振り向くと、アルバート殿下が立っていた。そして殿下は俺の隣に座った。
「ここは人もほとんど来ないし、死角になっていてどこからも見えないんだ」
アルバート殿下が呟いた。
(まぁ、だからこそ、俺はここにいるわけですが……)
始めに庭園に来た時に見つけた俺の隠れる場所だ。
アルバート殿下は、俺の髪に手を置きながら言った。
「カツラか……令嬢の次は、護衛か……君は本当にいくつもの顔を持つのだな……」
そして、アルバート殿下が俺の耳に手を置いた。
「私だって、聖女には母に言われて近づいているに過ぎない……本命は別にいるのに……」
そして俺の耳を撫でた。
「アルバート殿下……俺、男ですよ?」
俺は、少しだけアルバート殿下から距離と取ろうとしたが、耳の裏を押さえられているので顔の位置は動かせない。
「わかっている……わかっているが……」
アルバートは苦しそうに俺を見ながら目を逸らした。だが決して俺の耳からは手は離さない。
「今度のパーティーは、またノード侯爵の隣で、彼の瞳の色のドレスを着せられて、出席するのか?」
俺は「まだわかりません」と答えた。
ジークには俺は連れて行かないと言われた。
だが、俺はジークを守るためにも行く気満々だ。だが、会場には招待状がなければ入れない。
俺の答えを聞いたアルバート殿下は、顔を上げると必死な顔で言った。
「そのような曖昧な返事をするのなら、ノード侯爵にレンの隣を許すわけにはいかない!! 私の隣で出席してくれ……頼む……レン……」
パーティーには行きたいがさすがにそれは大問題だ。
第二王子のパートナーが女装男子とか、笑えないし、有り得ない!!
「さすがにそれは無理です!! 第二王子の相手が男というのは許されませんよ!!
俺が断ると、アルバートが顔を上げてじっと見つめた。
「ではこうしよう。レン。あなた個人に私から招待状を手配する。ドレスも私に選ばせてくれ……そして、ノード侯爵のパートナーではなく、私の招待客として、出席してくれ……次のパーティーにはどうしても、レンを招きたい」
至近距離で青い目で見つめられて身体が動かない。
「レン、頼む……たった一度だけでも構わない……私の選んだドレスを着ているあなたが……見たい……」
アルバート殿下は俺の肩におでこを付けて懇願してきた。
(パーティーにはどうしても行きたかった。第二王子のパートナーというのは問題だが、招待客なら……いいかもしれない)
俺は小さく息を吐くとゆっくりと口を開いた。
「わかりました……あなたの招待客として参加します」
アルバートは顔を上げて俺を見てとても嬉しそうに笑った。
「レン……嬉しい……」
そして俺の首に顔を近づけたと思えば、首と耳の間にキスをした。
この場所は以前、ジークにキスをされた場所だ。
さらにアルバートは俺のまぶたにもキスをした。
そして立ち上がると、嬉しそうに笑った。
「明日、学園が終わったら私の馬車でドレスを作りに行く。準備しておいてくれ」
「え?」
俺が返事をする前に、アルバート殿下逃げるようにその場を去って行ったのだった。
俺は、ぼんやりとその後ろ姿を見つめていたのだった。
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