第25話 唇の乾燥には……?
俺たちがエントランスまで来ると、ジークが待っていた。
「このまま戻って問題ない。賊が入れないないように手配した。では、私は馬で護衛をしよう」
ジークは外で見張るようなので、俺はカレンと共に馬車に乗り込んだ。
馬車に乗ると、カレンが唖然としながら言った。
「楽しかった……」
俺はその言葉に目を細め、そしてカレンを見ながら尋ねた。
「明日からも大丈夫?」
カレンはこれまで見たこともないほど可愛い笑顔で「ええ」と答えたのだった。
俺はその顔が眩しくて、思わず笑ってしまったのだった。
◇
それからカレンは確実にニコラスとの仲を深めていた。
だが、一方で学院には別の噂が流れていた。
『アルバート殿下と聖女のリディアさん、最近よく見かけるわよね』
『ええ、とても楽しそうに笑い合っていたそうよ』
『私は真剣な顔でお話されていたと聞いたわ』
そうなのだ。
最近、第二王子のアルバート殿下が俺に全く顔を見せなくなった。
俺が告白されていても、誰かに言い寄られても姿を現さない。
「俺が男だとわかってあきらめてくれたみたいだな」
俺が学院のジークの部屋で生徒の指導記録を整理しながら言うと、ジークは書類棚の資料を探しながら眉を寄せて言った。
「そうだといいがな……」
俺は、立ち上がってジークの机に指導記録を乗せながら言った。
「どうして、そんなこというんだよ!! 人が折角ほっとしてたのに」
ジークは、俺の顔に手を伸ばしながら言った。
「そんなに怒るな。少し気になっただけだ」
そして、俺の口を指でなぞりながら言った。
「異世界のリップとやらは使ってしまったと言っていなかったか? その割には艶やかだな」
ジークの言葉に俺は、あ~と言いながら答えた。
「カレンに相談したら、作ってくれたんだよ。カレンも使ってるし、ジークもいる? 俺、いろんな種類作ってもらったからまだあるしあげるよ」
俺は小瓶を取り出して、ジークに差し出すとジークが俺の唇に唇を寄せた。
そして唖然とする俺から唇を離すと、小さく笑いながら言った。
「私はお前から貰えればいい」
「は? いやいや、俺、今、塗ってないじゃん!! もう浸透してるから、わけるほどないよ!!」
ジークは目を細めると、「では塗ったら教えてくれ、また分けてもらうことにする」と言って、再び資料に目を落とした。
は?
ものぐさ過ぎない?
塗るのが大変ってこと?
それとも……
「ジーク、俺とキスしたいの?」
ほとんど無意識に尋ねると、ジークが資料から顔を上げて少し考えた後に、俺を見ながら言った。
「……――そうかもしれないな」
「は?」
すると次の授業を告げる鐘の音が響いた。
「レン、道具の準備を頼むぞ」
「う、うん」
俺は少しぼんやりとしながら、倉庫に向かったのだった。
だから気づかなかった。
ジークの控え室のすぐ近くに立っていた人間の存在に……
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