第25話 唇の乾燥には……?



 俺たちがエントランスまで来ると、ジークが待っていた。


「このまま戻って問題ない。賊が入れないないように手配した。では、私は馬で護衛をしよう」


 ジークは外で見張るようなので、俺はカレンと共に馬車に乗り込んだ。

 馬車に乗ると、カレンが唖然としながら言った。


「楽しかった……」


 俺はその言葉に目を細め、そしてカレンを見ながら尋ねた。


「明日からも大丈夫?」


 カレンはこれまで見たこともないほど可愛い笑顔で「ええ」と答えたのだった。

 俺はその顔が眩しくて、思わず笑ってしまったのだった。





 それからカレンは確実にニコラスとの仲を深めていた。

 だが、一方で学院には別の噂が流れていた。


『アルバート殿下と聖女のリディアさん、最近よく見かけるわよね』

『ええ、とても楽しそうに笑い合っていたそうよ』

『私は真剣な顔でお話されていたと聞いたわ』


 そうなのだ。

 最近、第二王子のアルバート殿下が俺に全く顔を見せなくなった。

 俺が告白されていても、誰かに言い寄られても姿を現さない。


「俺が男だとわかってあきらめてくれたみたいだな」


 俺が学院のジークの部屋で生徒の指導記録を整理しながら言うと、ジークは書類棚の資料を探しながら眉を寄せて言った。


「そうだといいがな……」


 俺は、立ち上がってジークの机に指導記録を乗せながら言った。


「どうして、そんなこというんだよ!! 人が折角ほっとしてたのに」


 ジークは、俺の顔に手を伸ばしながら言った。


「そんなに怒るな。少し気になっただけだ」


 そして、俺の口を指でなぞりながら言った。


「異世界のリップとやらは使ってしまったと言っていなかったか? その割には艶やかだな」


 ジークの言葉に俺は、あ~と言いながら答えた。


「カレンに相談したら、作ってくれたんだよ。カレンも使ってるし、ジークもいる? 俺、いろんな種類作ってもらったからまだあるしあげるよ」


 俺は小瓶を取り出して、ジークに差し出すとジークが俺の唇に唇を寄せた。

 そして唖然とする俺から唇を離すと、小さく笑いながら言った。


「私はお前から貰えればいい」

「は? いやいや、俺、今、塗ってないじゃん!! もう浸透してるから、わけるほどないよ!!」


 ジークは目を細めると、「では塗ったら教えてくれ、また分けてもらうことにする」と言って、再び資料に目を落とした。


 は?

 ものぐさ過ぎない?

 塗るのが大変ってこと?


 それとも……


「ジーク、俺とキスしたいの?」


 ほとんど無意識に尋ねると、ジークが資料から顔を上げて少し考えた後に、俺を見ながら言った。


「……――そうかもしれないな」

「は?」


 すると次の授業を告げる鐘の音が響いた。


「レン、道具の準備を頼むぞ」

「う、うん」


 俺は少しぼんやりとしながら、倉庫に向かったのだった。


 だから気づかなかった。

 ジークの控え室のすぐ近くに立っていた人間の存在に……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る