第26話 カ・ケ・ヒ・キ



 今日もカレンはニコラスとのお茶会に来て来ていた。

 どうしても公務でお茶会が出来なかった日はあるが、ここ半月ほどカレンとニコラスは毎日のように会って話をするようになった。

 始めはぎこちなかった手を繋ぐという行為も、今ではかなり自然になった。

 ニコラスもカレンも当たり前のように手を繋いでいた。


 カレンとニコラスの仲がだいぶ深まって来たので、俺はカレンに次のミッションを出した。それは……。

 

 話も一区切りついた時、カレンがニコラスにバレないようにチラリと俺を見たので俺は大きく頷いた。するとカレンは意を決したように口を開いた。


「殿下、私に何かお願い事はありませんか?」


 カレンの言葉に、ニコラスはお茶を落としそうになるほど動揺していた。

 そしてニコラスは慌てて声を出した。


「お願い?! 逆ではないのですか? カレンが私にお願いをするべきではないでしょうか?」


 カレンは首を振った。


「いいえ。私はニコラス殿下の願いを叶えたいと思いました。どうぞ、なんでもおっしゃって下さい」


 実はこの質問は俺からのミッションだった。カレンがニコラスの内面を知り、さらに二人が仲を深めるための質問だった。


 実はこれは――賭けでもあったのだ。


 想定される答えのパターンは3つ。


 まず最悪なパターン。

 この質問にカレンと距離を置きたいなど二人の関係にネガティブなことを言われてしまえば、事態はかなり切迫しているということなので、仲を深めるなどと悠長なことを言っている場合ではなく、カレンを守るためにどこかに隠す必要がある。


 そして、要検討が必要なパターン。

 この質問に何もいりませんや、刺繍したハンカチが欲しいなど、彼がたわいもないことを願い、とりあえずカレンの欲求を満たそうを配慮するのなら、この作戦ではあまり変化がなかったということになり軌道修正が必要だ。


 最後にこちらにとってかなり朗報だといえるパターン。

 もし、彼が少しでも内面を見せてくれるような願いを口にすれば……チャンスだ!! 不幸な未来を変えられるかもしれない!!


(さぁ…、どれを選ぶ? 王子様?)


 俺は緊張しながらニコラスの返事を待った。

 カレンもどこか緊張しているように見えた。

 きっとすぐには決まらないだろうと、俺がのんびりと待つかと思っていると、驚くことにニコラスはすぐに口を開いた。


「そうですね……本当に何でも構いませんか?」


(おお~!? もう願いを言えるのか!!)


 俺が内心驚いているとカレンが真剣な顔で頷いた。


「はい」


 俺とカレンがそわそわしながら待っていると、ニコラスが真っ赤な顔をした。そして、カレンを真剣に見つめると、まるで告白でもするのか、という勢いで口を開いた。


「頭を撫でてもらえませんか?」


 これは……どっちだ?

 まぁ、最悪なパターンではない。要検討なパターンか、朗報なパターンのどちらかだが……どっちだ?

 俺は表情にも仕草にも出さずに悩んでいたが、カレンは嬉しそうに頬を緩めるとニコラスの頭を優しく撫でた。


「はい。殿下が私にこの願いを口にして下さったことが、とっても嬉しいです」

「そ、そうか……嬉しいのか……」


 カレンに撫でられて、ニコラスも顔は赤いがかなり嬉しそうだ。


(あれ? これって、どういうこと??)


 ニコラスはこれまで恐らく、たくさんの女性の相手をしてきたはずだ。

 女性ともっと過激な関わりを体験している。

 それなのに……


(え? もしかして、これってニコラスの心からの願いなわけ??)


 カレンとニコラスは二人ともお互い顔を真っ赤にして、とても幸せそうな顔をしている。


(なに? この状況!! すっげぇ~~~恥ずかしいんだけど!!!!)


 どうしよう、当人たちよりもたぶん、俺とか待機している侍女や執事の方が居たたまれない。

 現にみんな、なんとなく気まずそうに視線を泳がせている。

 そろそろこの甘酸っぱい空気に耐えられなくなってきた。

 そんな時、ニコラスの側近がニコラスを呼びに来た。


 二人が離れる時、とてもせつなそうにしていた表情がとても印象的だった。






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