第21話 二人の王子
ニコラスとの個人的なお茶会が終わって、俺はジークの元に案内された。
(ん~~。なんか違和感があるんだよな~~、ニコラス殿下)
俺は顔に出さないように先ほどのニコラスの様子を思い出していた。
「こちらです」
「ありがとうございます」
俺は案内してくれた執事にお礼を言うと、部屋の中からジークが出て来た。
「レン、終わったのか?」
「あ、うん」
俺が頷くと、ジークが手を差し出しながら言った。
「では戻ろう」
ドレスは歩きにくいので遠慮なくジークの手を取ると、俺はジークと共に馬車に戻った。そして、馬車に乗った途端にジークが口を開いた。
「どんな話だった?」
俺は少しだけ考えて口を開いた。
「うん。俺に、リディアと会えるようにしろ、だって……」
仲を深めたいっていうのは……さすがにカレンの兄のジークには言えなかった。だが、会わせろと言っただけでもショックを受けたようで、ジークが眉を寄せながら言った。
「お前に聖女と会わせろと言ったのか? カレンと共に住んでいるお前にか?」
「うん。しかも報酬もくれるって……あとは、『抱かれたいなら抱いてもいい』みたいなことも言われたよ?」
ジークが怒りを滲ませた。
俺はジークの反応を見て、やっぱりニコラス殿下の反応は一般的ではないことを確認した。
「なんだと!? それで、何かされたのか?」
「いや、何もされていない……それは大丈夫なんだけどさ……ニコラス殿下ってさ、なんだか人形みたいな人だな」
ジークが俺の言葉に「皆に人形のような容姿だとは言われているがな」と答えた。
「ん~~顔とかそういうのじゃなくてさ……あの人の存在自体が人形って感じで……」
俺が思案しながら話をしていると、馬の鳴き声が響いて、大きく揺れながら急に馬車が止まった。俺は思わずジークの方に倒れてジークに抱き止められてしまった。それからすぐに御者が声を上げた。
「ジーク様。賊です。賊に囲まれました!!」
「なんだと!?」
ジークは俺を離すと、剣を握り俺を見ながら言った。
「レン、ここで待っていろ。行ってくる」
「うん、気を付けて」
俺はジークの背中を見送った。
本当は俺も手伝いたいが、生憎と今日はドレスでしかも丸腰だった。
くっ、こんなことなら剣を仕込んでおけばよかった!!
窓から外を見ると、数十人に囲まれている。
「かなり多いな……ジーク大丈夫か!? くっ!! 俺が剣を持っていれば!!」
俺がガリッと奥歯を噛んだ時だった。
甲高い馬の鳴き声と、数人の男性の声。そして金属音。誰かが賊に応戦してくれている?
俺は馬車の外を見ながら目を細めた。
……誰だ?
俺が手を貸してくれた人間を探そうと、外を見ていると馬車が勢いよく開いた。
「誰かいるのか!?」
扉の方を見ると、第二王子のアルバート殿下が立っていた。
「ああ、ノード侯爵家の馬車が襲われていたので、心臓が張り裂けそうになった。レン……無事でよかった……」
俺はアルバート殿下に抱きしめられていた。
は?
え?
「アルバート殿下!?」
俺は思わず声を上げてしまったのだった。
それから俺はずっとアルバート殿下に無言で抱きしめられていた。心臓が張り裂けそうになったと言っていたが、本当に殿下の心臓は早かった。
「アルバート殿下、賊を制圧いたしました」
外から兵の声が聞こえるとアルバート殿下は少しだけ身体を離して俺の顔を見ると、小さく微笑んだ。
「こんな時に不謹慎ですが、今日は学院で会えなかったので、心配していました……ですが、こんなに美しいあなたが見れて嬉しいです」
そして俺の額にキスをすると俺を顔を赤くしながらも俺を真っすぐに見ながら言った。
「やはりあなたには――青が良く似合います。紫よりも……」
そう言われて、俺は今日、アルバート殿下の瞳の色の青いドレスを着ていたことに気付いた。
俺はそんなに鈍いわけじゃないんだよな……
真っ赤な顔で俺に熱い視線を向けて来るアルバート殿下に俺はどう答えたいいのかわからずに「ありがとうございます」と答えたのだった。
◇
賊を全て捕えた後、護衛のいない俺たちを心配してアルバート殿下が俺たちの馬車に乗り込み、殿下の馬車と護衛が俺たちの馬車の後ろを着いてくるという手厚過ぎる好待遇で家に戻った。
「ノード侯爵。先ほどの賊に身に覚えはありますか?」
馬車の中でアルバート殿下がジークに問いかけた。
「いえ、剣技を見たところ統一感もなかったのでおそらく傭兵でしょう」
傭兵!?
あれ……なんか……イヤな予感するな、これ……
俺は傭兵だと聞いて、一つの可能性が浮かんで来た。
アルバート殿下はジークの話を聞いて少し考えて言った。
「傭兵か……先の戦いを率いていたノード侯爵に恨みを持つ者の犯行だろうか?」
そう言えば、ジークは圧倒的な統率力と強さを見せつけて、休戦協定を結ぶのに尽力した戦の立役者だ。この国では英雄のジークだが、他国からすれば疎ましいはずだ。
だから、アルバート殿下の推測は的を得ていると言える。
「その可能性は否定できません」
ジークもアルバート殿下の発言を受け入れる姿勢を見せた。
「侯爵は強いだろうが、レンさんを連れているのなら、護衛など細心の注意を払うべきだ」
アルバート殿下はジークに挑むような視線を向けながら言った。
「返す言葉もございません。今後は気を付けましょう」
ジークの言葉にアルバート殿下は「その言葉決して忘れるな、そうでなければ……レンさんは私が預かる」と言ってジークを見据えた。
アルバート殿下の本気が伝わって来て、なんとなく彼の想いを察してしまった俺は居心地が悪い。
その後俺たちはアルバート殿下に送ってもらって無事にノード侯爵家に戻って来たのだった。
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