第17話 大茶会(1)



 大茶会当日。

 俺はドレスに着替えて、ジークとカレンと対面していた。

 正直、ドレスは予想以上の出来だし、化粧も小物も完璧。俺はどこをどう見ても華麗な令嬢姿になっていた。


「おお~~カレン。似合うじゃん。すっげぇ綺麗」


 カレンはさすが第一王子の婚約者だ。圧巻のドレス姿だった。

 俺がカレンのドレス姿を褒めると、カレンが怪訝な顔で俺を見つめながら言った。


「レン……よね?」

「あ~~うん」


 そしてジークを見た。


「……」


 ジークに至っては口を閉じたまま何も言わない。


「なんとか言ってくれよ? 俺、頑張っただろう?」

「あ、ああ。声がレンだな。よかった」


 ジークがはっとしたように口を開いた。

 本気で俺だと思ってなかったのか?

 俺は着飾った女性(?)を前に褒めもしない残念な男は放置して気合を入れることにした。


(さて、今日は俺の腕の見せどころだ!)


 そして俺たちは馬車に乗ると王宮に向かった。



「カレン様、どうぞこちらへ」


 カレンは第一王子のニコラス殿下の婚約者なので、別室に連れて行かれた。

 俺はジークと二人で控え室に向かった。

 どうやらノード侯爵家は個室の控室を貰っているようだ。


 ジークと二人になると立ったままジークは俺の顔をじっと見つめてた。

 視線を感じたので、俺はいたずらっ子のように笑いながら片目を閉じた。


「どう? 俺、キレイだろ?」


 何も言ってくれないので、自分から言葉を引き出そうとするとジークが真っ赤な顔で顔を逸らしながら言った。耳まで赤い。


「確かにレンの言う通り、その色似合っている」

「だろ?」


 そしてジークが俺のワンショルダーの開いている方の鎖骨を撫でた。


「ひゃぁ、ちょっと!!」

「このドレスも……似合っている」


 俺はジークの腰に両手を回しながら上目遣いで言った。


「さてはジークってムッツリだろ?」


 ジークは俺を見ながら尋ねた。


「ムッツリとはどういう意味だ?」


 俺は笑いながら言った。


「ん~~そうだな。全く興味ありません~~って顔しながら、内心は気になって気になって仕方ないって人」


 緊張をほぐすために冗談っぽく言ったのに、ジークは真剣な顔で「なるほど」と言った。そして首元を覆うような太いネックレスと、肩の間に唇を寄せながら言った。


「ん……やめろって」


 俺がジークを睨むとジークが楽しそうに言った。


「ムッツリではないと言うために興味を全面に出してみた」


 俺は溜息を吐きながら言った。


「もう、ムッツリでいいよ。そっちの方が実害がなさそうだし」 


 そしてジークが俺の耳と首の間に唇を寄せながら言った。


「そうか、残念だな」

「ふぁ……この~~エロ侯爵!!」


 ジークと話をしていると、執事が「そろそろ会場へどうぞ」と呼びに来てくれた。


「さぁ、行こうぜ、ジーク」


 俺がジークの腕を持つとジークが困ったように言った。


「レン、むやみやたらに男を落とすなよ……」

「あ~そうだな~~?」


 俺はニヤリと笑い、そしてその後にとっておきの令嬢スマイルを見せた。


「善処しますわ、侯・爵・閣・下♡」


 ジークは「やはり従者として連れてくるように交渉すればよかった」と深く息を吐きながら歩き出したのだった。





 会場に到着すると周りが騒然となった。


「ノード侯爵様にお相手が!?」

「嘘、ずっとお一人で参加されていたのに!!」

「あのご令嬢はどなたかしら!!」


 お~~俺に向かって、好奇、嫉妬、妬み、殺意の視線がすげぇ~~。

 さすがジークだな。よし、秘技微笑み防御発動~~~!!

 俺はありとあらゆる痛すぎる視線から身を守るために微笑みの盾を使った。

 するとジークが俺の耳に顔を寄せて来た。

 

「レン、あまり愛想を振りまくな。本気で洒落にならない事態になるぞ」

「え?」


 令嬢の視線に気を取られていたが、ジークの視線の先には男性の視線があった。


「あのご令嬢は誰だ。初めて見るが……美しい」

「ノード侯爵……あのようなご令嬢を隠していたのか……やはり地位か? 財力か? 強さか?」

「顔かもしれないぞ」

「そんな……」


 どうやらジークといるだけで、俺は男性にまで注目されるようだ。

 俺はあえて、男性たちに微笑んだ。


「可愛い」

「今、俺に微笑んだよな」

「俺だろ?」


 男性たちは集団で盛り上がって、俺を見なくなった。


「よし。これでいい」

 

 ジークが耳元に「怖いな」と言ったのだった。


 ◇


 その後、大茶会が始まったので、俺たちはまず第一王子とカレンにあいさつに向かった。ジークがあいさつに向かうと皆無条件で道を開けてくれた。


「お招きいただきありがとうございます。ニコラス殿下」


 ジークと共に俺も頭を下げた。

 カレンは、堂々とニコラス殿下の隣であいさつをしていた。さすがの風格だった。

 ニコラスは俺の全身を舐め回すように見ていた。なんとなく不快な視線に思わずジークにくっついた。


「これは……ようこそ、ノード侯爵。今日は楽しんで下さい」

「はい」


 他の人とのあいさつもあるので、俺たちはすぐにその場を離れた。

 だが、俺はなんとなくニコラス殿下の視線を感じていたように思えたのだった。

  その後、俺とジークは第二王子のアルバート殿下にもあいさつに行った。


「お招きいただきありがとうございます。アルバート殿下」


 ジークと共に俺も頭を下げた。


「ようこそ、ノード侯爵。今日は楽しんで下さい……え……?」


 顔を上げると、アルバート殿下が俺を見て固まった。

 あ、もしかして俺ってバレた?

 ん~~化粧完璧だからバレないと思ったけどな~~。

 それに誰も男がドレス着てるなんて思わないだろう……。


「それでは、失礼いたします」


 何かを感じたのか、ジークは俺を隠すようにその場を去った。


「バレたかな?」


 アルバート殿下の側を離れた後に小声で言うと、ジークは「おそらく大丈夫だろう。普段のレンとは違い過ぎるからな」と言ったのだった。

 俺は少しだけほっとした。


「レン、見ろ。聖女が来ている」

「え?」


 顔を上げると、リディアの姿があった。

 しかも周りには護衛と思われる男性数人が付いている。


「これじゃ近づけないな」

「ああ」


 今日は、大茶会。

 そろそろ聖女とアルバート殿下の婚約が内々に決まっているはずだ。

 まだ発表ではないが……。


 この後、ニコラスが聖女を会場から連れ去るはずだ。


「あの状況で連れ去ることができるのか?」


 ジークの疑問に俺は舞台の脚本を思い出しながら答えた。


「うん。もうすぐしたら、なんちゃら公爵の娘って偉い人の娘が来て『お話がしたいですわ』ってリディアを護衛から引き離すはずだ」

「そこまでわかるのか、凄いな……ではもうしばらく様子をみよう」

「うん」


 そして俺は、両王子のあいさつの列が切れたのを確認した。


「ジーク、そろそろだ。なんちゃら公爵令嬢が動くぞ」

「ああ」


 そしてしばらくすると、令嬢がリディアに近づいて、リディアを護衛から離した。


「レン、私はあの者たちを追う」

「わかった。俺は、ニコラス王子の方を追う。後で合流しよう」

「ああ」


 こうしてジークと別れた時だった。


「待って下さい」

「え?」


 俺は信じられないことの第二王子のアルバートに手を握られた。


「ちょっと一緒に来てもらえませんか?」

「え? あの、ええ?」


 俺は問答無用でアルバートに手を引かれて連れて行かれたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る