第16話 ドロドロしてるな~



「アルバート殿下には近づかないという話ではなかったのか?」

「うん、返す言葉もありません」


 ノード侯爵家に戻ると俺はジークに、昼食をアルバート殿下と一緒に摂ることを報告した。するとジークは眉を下げながら言った。


「殿下と約束してしまったら、そう簡単に反故にするできないだろう」

「うん。そうだね。まぁ、ボロがでないようにするから」


 ジークは息を吐くと、「そう願いたいものだな……」と言った。



 そして殿下と約束していた昼食の時間。

 俺は侯爵家から持参したお弁当を持って、殿下は学食で買ったランチボックスを持って、剣術訓練棟の裏の人気ひとけの全くないベンチに並んで食事をした。

 ボロが出ないように、何を話そうかと悩んでいるうちに俺たちは無言で食事を終えてしまった。


「レンは、食事中には何も話をしないのか?」


 俺は、少し考えて答えた。


「ええ、まぁ。ノード侯爵家のご飯美味しいので味わって食べてます」


 俺の答えを聞いた殿下が驚いた後に笑った。


「はは、そうか、美味しいので味わっていたのか……レンは不思議だな。確かに食事中に話かけられると意識が話に向かうかもしれないな」

「まぁ、そういうのもたまにはいいと思いますけど……基本的には食事はじっくり味わいたい。まぁ、食べ終わって話をすればいいですし、こんな風にね」

「ふっ、そうだな……なぁ、レン。聖女をどう思う?」


 俺は突然の恋バナにニヤリとしながら言った。


「おお? 恋のお話ですか? いいですね~~リディアいい子ですからね。大切にしてあげて下さい」


 そう、リディアがアルバート殿下と結婚してくれれば、ノード侯爵家も安泰なのだ。だから、殿下にはぜひとも頑張ってもらいたい。


「恋か……恋……私の周りにそんな言葉を口にする者はいないから新鮮だな」


 アルバート殿下は切なそうに言った。

 まぁ、王族ともなれば「好きだの嫌いだ」と言って場合ではないのかもしれないが……

 アルバート殿下は俺の顔を見て真剣な顔で言った。


「レンは、恋をしているのか? または恋をしたことがあるのか?」


 デジャヴかな?

 なんか、最近聞かれたな~~それ。

 貴族って本当に恋知らずばっかりだな。

 まぁ、俺も人のことは言えないわけですが?


「いえ、恋をしたことも、してもいません。残念ですが……」


 アルバート殿下は口角を上げて「そうか」と言ってとても嬉しそうに笑った。

 その顔がとても印象的だったのだった。





 大茶会の前日は学院は休みだった。

 俺は昼下がりにノード侯爵家の庭園のベンチに座って「ふわ~」と伸びをしていた。


 舞台の内容を思い出しておくか……


 第一王子であるニコラス殿下と対峙する前に、漫画の『クロスクローバー』の内容を整理することにした。


・ヒーローは第二王子のアルバート。ヒロインは聖女リディア。

・聖女リディアを巡って、第一王子ニコラスと第二王子アルバートの二人の王子が争う

・彼らの母親である正妃も、側妃もプライドの高い女性で、絶対に自分の子を王にすると周りにヒステリックに当たり散らしていた。

・第一王子ニコラスは、そんな母の期待に答えようと聖女と結婚するためにカレンとの婚約を白紙に戻そうと画策する

・一方、第二王子と聖女は、正妃による政略的な婚約だったが二人の間に愛が芽生える。

・それに焦ったニコラス側はカレンと確実に別れるためにノード侯爵家を没落させようと刺客をジークに送り始める

・刺客によりジークは殺害される

・ジークが亡くなったカレンは、普段の高圧的な態度も重なってリディア殺害しようと計画していると言われて投獄。

・カレン投獄後、ニコラス側がジークを殺害した証拠を掴み、ニコラスは幽閉。

・結果……アルバートとリディアがこの国の王と王妃になる。


「はぁ~~ドロドロしてんな~~」


 俺が伸びをするとジークが顔を覗き込んで来た。


「何がドロドロしているんだ?」


 俺は驚いて、ジークを見た。


「いや、ちょっとな……ところでジークはどうしてここへ?」

「お前が変な顔をしているのが見えたからな、気になって」


 おお、俺のことを気にしてくれたんだ。

 隣に座ったジークに向かって俺は気になっていたことを尋ねた。


「なぁ、王宮にいる人間が、刺客を雇う場合って、どこに依頼するのかな?」


 第一王子の母親は、目障りなジークを亡き者にするために刺客を放つだが……


 刺客ってどうやって手配するんだろうか?

 王宮内に出入りできる人間は限られるし、ジークくらいの腕の人間に刺客を放つなら相手もそれなりに腕の立つ人間である必要がある。


 ジークは思いっきり眉を寄せて「調べてみよう」と言ったのだった。



 

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