第15話 王子様の素顔



「あ、すみません。こんな言い方、殿下に対して失礼でしたね。つい口から出てしまったので、どうか不問にお願いします。以後気を付けますので」


 俺は急いで唖然とするアルバート殿下に謝罪した。もしかしたら、気安い言葉をかけらた経験がないので戸惑ったのかもしれない。


「いや、気にしていない。カッコイイなどと初めて言われたからな。驚いただけだ。そんな風に思ってくれているのか?」


 照れた様子で尋ねられたので、俺の思わず本心で答えてしまった。


「ええ、みんなが動けないのに、咄嗟に聖女リディアを祭壇が連れ出した時も同じように思いましたよ、ああ、カッコイイな~って」

 

 アルバート殿下が顔を赤くして視線を泳がせた。


「そ、そうか……」


 そしてアルバート殿下は俺を見ながら言った。


「君は、聖女リディアの友人だな」

「あ、覚えてくれていたのですね。そうです」


 俺が思わず声を出すと、アルバート殿下がふわりと優しく微笑みながら言った。


「ああ。彼女は君のことをとても楽しそうに話すからな」


 おう~~『彼女は君のことを楽しそうに話す』って、これって俺、牽制されてる?

 彼女は俺のだって、マウントされてる?


 どうやら、すでにアルバート殿下とリディアはかなり仲を深めているようだった。


「君は……本当は……いや、なんでもない」


 アルバート殿下は何かを言いかけて、言葉を止めた。そして、真剣な顔で言った。


「何か困ったことがあったら、いつでも言ってくれ。私が力になろう」


 よくわからないが、俺は「ありがとうございます」と答えた。

 そして、これは社交辞令で、アルバート殿下とは関わることはないと思っていたのだが……




「レンさん、付き合って下さい!!」

「君、彼女……彼を困らせることは止めたまえ!!」


 いつものように男子学生に告白されていると、アルバート殿下が代わりに断ってくれた。


「少しだけでいい。抱きしめてもいいか?」

「いいわけがないだろう!! そんな恥知らずは彼女……彼に二度と近づくな!!」


 そして、今は抱きつかれそうになった俺を、男子学生から助けてくれた。

 しかも二度と来るなと撃退してくれた。


 わー頼もしい(棒読み)

 俺はあくまでリディアの監視で、アルバート殿下には近づく予定は全くなかったのだが、アルバート殿下が俺を助けてくれるようになってしまった。


 本当にどうしてこうなった?

 俺は首を傾けるしかなかったのだった。


 アルバート殿下は助けた後に、俺を見ながら言った。


「ジーク殿は、君がこれほど男性に言い寄られているのを知っているのか? なぜ相談しない?」


 いや、自分で対処できることをわざわざ忙しいジークに相談なんてしないって……


「アルバート殿下。いつも助けて頂いているのは有難いのですが、本当に私だけで対処できますのでご心配頂く必要はありません。それに、私は殿下たち学生をサポートする立場です。どうぞ、もっと頼って頂きたいくらいです!! 困ったことや、何か要望がありましたら言って下さい」


 俺は、秘技会話のすり替えを行って、煙に巻くことにした。


「要望……」

「ええ。練習棟の解放時間を伸ばしてほしいや、稽古用の木刀を新しくしてほしいなどなんでも承りますよ。あ、ただ叶うかどうかは、予算などによりますが……」


 俺は補佐官らしい仕事ぶりを見せて、この場を去ろうと思っていると、アルバート殿下が口を開いた。


「では、明日。私と昼食を一緒にどうだ?」


 は?

 どうしよう……斜め上な要望来ちゃったよ、これ……えー困ったな……


 俺は話をはぐらかすために冗談っぽく言った。


「はは、もしかして、殿下っていつも……ぼっちご飯ですか? まぁ、寂しいのなら一緒に食べてあげてもいいですよ~~」


 頼む、怒ってこの場を去ってくれ!!

 俺、結構酷いこと言った。

 断って、そしてこの場を去ってくれ!!

 た・の・む!!


 心の中では汗を流しながら、顔ではにっこりと笑っていると、アルバート殿下が自嘲気味に言った。


「……そうかもしれない。いつも私の周りにいる人々は私の顔を色を見て私に話を合わせようと必死だ。君くらいだ。私にそんな言いたいことをストレートに言う人間は……そうだな。みんなでいるのに一人のように感じて、そうだな、レンの言うように淋しいのだと思う。一緒に食べてくれるか?」


 ――完敗。

 水沢蓮……アルバート殿下に完敗しました。

 認めちゃうの~~?

 殿下、寂しいって認めちゃったんだ……。

 そんな風に言われたら……食べるよね? 

 食べるでしょう? 食べちゃうよ~~もう~~~!!


「わかりました。お昼は一緒にご飯を食べましょう」

「ああ、約束だ」


 アルバート殿下の目が輝いたを少しだけ可愛いと思ってしまった。


「はい、約束」


 こうして俺は、アルバート殿下と昼食を食べる仲になってしまったのだった。


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