第12話 有能な補佐(1)



「おはよう~~カレン、一緒に学院に行こうぜ!!」


 朝食が終わって、俺はカレンを部屋に迎えに行った。

 カレンは呆然としながら俺を見ていた。


「あなた……聖女が現れたっていうのに呑気なものね」


 やはり少し不安だったのだろう。いつもより言葉に力のないカレンを元気付けるために大袈裟に言った。


「だって、知ってたし……カレンにだって言っただろう? そして次は大茶会。今日は学院に行って偵察する。やることは明確だろ?」


 するとカレンがどこかはっとしたように口を閉じた後に言った。


「そうね、私のするべきことは、聖女に関わらない。勉学に励む。そうでしょう?」

「そうそう、じゃあ、行こうぜ」


 カレンは髪に手を当てながら言った。


「ええ。行きましょう」


 そして俺はカレンと一緒に馬車に乗り込んだ。


「遅かったな」

「あれ? ジークどうしたんだ?」


 馬車の中にはジークが座っていた。昨日は入学式だったのでてっきり来賓なのかと思っていたが……


「どうしたって、お前が言ったのだろう? 稽古を付けられて、仕事を教えられる人材を用意しろと」

「それで、ジーク?」

「ああ」


 いや、確かに言ったよ?

 でもジークって軍のトップだろ?

 そんな暇があるのか?


「家をあけて大丈夫なのか?」

「戦に出ることが多いからな。私は確認をする程度で、領政は専門の者に任せているし、軍も現在は戦いもないからな……問題ないだろう」


 どうやら俺はジークの下で働くようだった。

 俺は「よろしく」と言って軽く受け止めていたのだった。


◇ 


 そして、俺は現在。


「あの……ジーク様にお会いしたく……」

「ジーク様にこちらを」


 押し寄せる女子生徒に向かって声を張り上げていた。


「はいは~~い。みんな一列に並んでね~~~。プレゼントはこっちね、握手を希望する人は、この整理券をもらってね、休み時間は短くて時間がないから、お昼休みに握手会するよ~~一日限定30人~~」

「きゃ~~~。整理券を下さい」

「私も下さい」

「私も!!」


 元、芸能人の俺……。

 ジークのマネージャーみたいなことしてます!!

 俺もそれなりに売れていたけど、ジークが凄すぎる。


 イケメン。

 侯爵。

 国の英雄。

 独身。


 うん、モテるよ。これはモテる。


「あ、鐘がなった~~またね~~勉強頑張ってね~~」


 俺は女の子たちに手を振って見送った。


「は~~い」

「また来ます~~」


 そしてプレゼントを抱えて、剣術講師の控室に戻った。


「たっだいま~~」


 俺がドサッとプレゼントを置くと、ジークが眉を寄せた。


「お前は一体何をやっているんだ?」

「ええ~~講師補佐だけど?」


 俺は呆れ顔のジークに向かって言った。


「そんなことしている時間が……」

「あのねぇ~~女の子っていうのは凄い情報通なの。だから女の子と交流できる機会があるなら持った方がいいの!!」


 俺が真剣な顔で言うと、ジークが「そういうものか……」と言った。


「そうそう、ということで今日の昼休みは握手会やるから!!」

「……なんだ? それは?」

「ん~~~女の子と握手するんだよ」


 ジークは眉を寄せながら言った。


「なぜそのような酔狂なことを……」頭を抱えるジークは俺は小声で言った。


「運命に抗うんだ……味方は多い方がいいだろう?」


 ジークは顔を上げて俺をじっと見つめながら言った。


「……わかった。お前の言う通りにしよう」

「ありがとう!」


 そんなジークのおかげで俺は少しずつ学院内での知り合いを増やしていったのだった。

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