第11話 王子様の登場





「せ、聖女様……!!」


 司祭が、真っ先に声を上げた。

 その後は、教会中が大騒ぎだった。

 肝心のリディアはというと、意味がわからないといった様子でオロオロしていた。


 さてと……そろそろかな。


 俺は、ヒーローの登場を隅から見ていた。

 すると案の定、長身の高貴な雰囲気の男性が壇上に上がるとみんなを見ながら声を上げた。


「静粛に!! 式の途中だ」


 その声でうるさいくらいだった教会内が静まり返った。

 壇上で皆を静めたのは、この国の第二王子アルバートだった。ちなみに俺の出演していた舞台『クロスオーバー』のヒーローだ。


「君も一度降壇し、後で今後の話をしよう」


 そして、颯爽とヒロインリディアに手を差し伸べた。

 リディアは戸惑いながらも、アルバートの手を取って降壇した。

 その後、無事に式は終わって、リディアは学園長や司祭やアルバートと共にどこかに移動した。


 皆が移動して、教会には俺とジークだけが残って何か仕掛けがないか調べていたが、特になにも見つけられなかった。

 俺は教会の壁にもたれかかり、壇上を見ながら短く口笛を吹いた。


「仕込みの可能性なしか……だとしたら……カッコイイね~~王子様。あれは惚れるね……」


 俺が声を上げると、ジークが無表情に言った。


「惚れ……あのような男が好みなのか?」


 俺は質問の意図は深く考えずに聞かれたことに答えることにした。


「ん~~好みというより……人として、やっぱりカッコイイんじゃない? あの状況ですぐに動いて助けられるってのはさ。リディア困ってただろ?」

「あの場合、あの方が一番の適任だった」

「まぁ、そうだとしてもカッコイイじゃん」


 ジークは短く「そうか」と答えると「行くぞ」と言って歩き出したので、俺も教会を後にしたのだった。



 その後、俺は目立つジークに先に馬車に戻るように言って、一人でリディアに会いに行った。

 リディアの教室に行くと、リディアは同級生に囲まれていた。

 無理もない、リディアは聖女様なのだ。

 声をかけようか、どうしようかと迷っているとリディアと目が合った。その瞬間、リディアは声を上げた。


「レン様!!」


 そして、みんなに「失礼いたします」と丁寧にお辞儀をすると、俺のところまで走って来た。


「レン様、なぜこちらへ?」

「俺、さっき教会にいたからさ、リディア大丈夫かな~と思って様子見に来た」


 リディアは顔を輝かせながら言った。


「レン様は、お優しいですね」


 リディアと話をしていると、人のざわめきが大きくなり振り向くと、第二王子のアルバートを筆頭に数人の教師や教会関係者と思われる人々が歩いて来た。

 俺はカレンに教わったように急いで頭を下げると、リディアも頭を下げた。


「ここは、学園だ。そのような作法は必要ない」


 アルバートがそう言ったので、俺とリディアは頭を上げた。

 アルバートは俺を見て、目が笑っていない笑顔で言った。


「あなたは聖女殿の知り合いですか?」


 聖女……そう言われて、リディアが怯えた顔をした。役者の俺はあえてにこやかに答えた。


「はい、私はここにいるリディアの友人です」


 友人と言うと、リディアが嬉しそうに俺を見つめた。

 アルバート王子は、表情を崩さずにこやかに言った。


「ご友人ですか。お話中にお邪魔をしますが、少々聖女殿と話がしたいのですが、よろしいでしょうか?」


 リディアは背筋を正して「はい」と答えた。

 俺はリディアに「またね」と言うと、リディアはとても嬉しそうに「はい、また!!」と言って去って行った。去り際にアルバート殿下が俺を見て王子様スマイルで微笑んだので、俺も取材用の爽やか親近感爆発の笑顔で微笑んでやった。

 すると王子様は一瞬真顔になった後、すぐに目を逸らした。


 そして俺はジークの待つ馬車に戻ったのだった。


 ◇


 馬車に戻ると、すでにカレンも馬車に乗っていた。

 カレンは青い顔で座っていた。そして、俺が馬車に乗り込むとすぐに声上げた。


「レン……本当だったのね」


 何がとは聞かなかった。

 カレンの言っていることが聖女のことだとすぐに察しがついたからだ。

 そして馬車が動き出すと、ジークが口を開いた。


「この後、聖女がアルバート殿下の婚約者になるという話になり、ニコラス殿下が動き出すのだったな」


 俺は頷きながら言った。


「そう。二人の婚約は、卒業してから発表になるけど……実際、内々にはすぐに決まるはずだ。それを知ったニコラス殿下側が動くのは……王宮で行われる大茶会だ」


 俺の言葉を聞いてジークとカレンはそれぞれ「大茶会」と呟いたのだった。

 



 


 

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