第10話 学園初日に超常現象!?

 


 入学式の朝。

 俺は、新しい準軍服に袖を通した。

 鏡で確認すると、ジークの来ている軍服とは上着の長さが違う。足元までのロング仕様だ。

 これはこれでかっこいいけど……軍服って勝手に長さを変えていいのだろうか?

 俺はデザイナーの言葉を思い出して首を傾けた。

『お尻を守るために上は長めにしたのよ~~レン君、モテそうで心配だし~~』

 

 まぁ、長くてもかなり動きやすいので問題ないが……。

 俺が鏡を見てそんなことを考えていると、ノックの音がして、ジークとカレンが入って来た。


「レン……まぁ悪くないんじゃない? 似合っていると言ってあげてもいいわ」


 カレンがツンデレお嬢様のようなセリフを言って思わず頬が緩んだ。


「ありがとう。カレンの制服姿も初めて見たけど、清楚なお嬢様って感じで可愛いね。舞台映えしそう」


 カレンは「と、当然でしょ」と顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。

 あ~~始めはツンしか見れなかったのに~~デレが見れるようになると感慨深いな~~。


 俺がカレンのデレを見ながら目を細めていると、ジークが俺の上着をめくった。


「何~~?」


 俺が声を上げるとジークが俺のお尻部分を見ながら呟くように言った。


「ああ、随分と丈夫に作って貰ったな。これなら破ける心配はないだろう。それにもし破けてもこの長さなら上着で隠せる。うん、問題ない」


 どうやら、ジークは依頼主としてデザイナーの彼の仕事ぶりを確認したかっただけのようだった。

 そう言われてみると、この生地は随分と丈夫なのに動きやすい上に補強もかなりしてある。丁寧な仕事ぶりだった。

 しかも、ジークは以前俺のお尻が破けてしまったので、上着で隠せるようにと長くしたようだ。


「ああ。破けてもお尻を隠せるように長めにしてくれたのか。有難いけど……準軍服の長さを勝手に変えてもいいのか?」

「問題ない。レンは正式な兵ではないから、準軍服は『剣術室の常勤補佐官』だとわかれば問題ない。あの学院は制服か、教師用のローブ、軍の定めた軍服と準軍服、学院指定の作業着でないと入れないからな」

「へぇ~~なるほど……」


 ジークと話をしているとカレンが口を開いた。


「そろそろ行きましょう」

「あ、もうそんな時間なんだ。行こう」


 こうして俺は、学園に向かったのだった。



 今日は在学生のための始業式と新入生のための入学式が同時に行われる。

 だから新入生のリディアも今日、学院に入学するのだ。

 そして、今日――聖女だと神託が下る……はずだ。


 始まる前にリディアに会いたかったが、俺はジークと一緒に職員が待機している教会に並べられたテーブルに座っていた。この学院の始業式や入学式では教会で全員で祈りを捧げるのが慣例なのだそうだ。

 そういえば、どうやってリディアは聖女に選ばれるのだろうか?

 舞台ではリディア役の俳優にピンスポが当たり、ワイヤーでゆっくりと吊るされて目立つように演出していたが……。


「祈りの作法は知っているのか?」


 ジークが小声で俺に尋ねた。


「うん。カレンに教えてもらったから大丈夫だよ」


 俺はスパルタでカレンに多くの作法を教えてもらった。カレンはとても真面目だし、面倒見がいい。もしかしたら、執拗にいじめのようにきつく主人公リディアを注意したのも使命感が強すぎたせいかもしれない。


 カーン。カーン。カーン。


 ジークと話をしていると、教会の扉が閉められて、教会の鐘が鳴り響いた。

 人々の話声が止まり、ピリッとした緊張感が漂い、教会の内部が一気に荘厳な空気に包まれた。

 

 うわ~~雰囲気ある……。


 俺も無意識に姿勢を正していた。

 そして中央に白い大きな帽子をかぶった司祭様と呼ばれる人物が立った。

 何かを読み上げているが、俺には理解できなかった。


 こちらの世界に来て、言葉も通じるし、文字も問題なく読めるので言葉がわからないというのが新鮮に感じた。

 そして、皆が一斉に祈りを始めた時だった。

 光が差したと同時に、白い風船のようなものが浮かびあがった。


 光が眩しくて風船の中はよく見えない。

 そして風船はゆっくりと教会中央の女神の台座の前に降りた。

 その後、まるで閃光弾でも放たれたように眩しい光が皆を襲った。


 「くっ!!」


 眩しくて目を閉じて、ゆっくりと開くと中央にはリディアが立っていた。

 

 ――聖女リディアの誕生の瞬間だった。


 本物は、舞台の演出よりも凄かった。

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