第7話 はじめの一歩
俺は破れた服を着替えると、ジークの執務室に向かった。
「お待たせ」
ジークは忙しそうにペンを走らせていたが、俺の姿を見た途端ペンを置いたので、考えていたことを相談することにした。
「なぁ、俺って王立学院って入れないのかな?」
ジークは眉を寄せながら言った。
「入るとは……入学するという意味か?」
「そう」
頷くと、ジークが両手を組みながら少し考えて口を開いた。
「今からでは無理だな……だが……剣術の教官補佐としてなら、学院に紛れ込ませることは可能だ」
「え?」
思わずジークと見ると、ジークが真顔で言った。
「我がノード侯爵家は陛下から学院の生徒の指導を命じられている。学院に派遣している剣や体術の教官は我がノード侯爵家の私兵だ。その者たちの補佐としてなら可能だ。学院でスケジュール調整をしたり、生徒の個人練習のために訓練場のカギを開ける管理人のような仕事は兵でなくともかまわない」
「お、それいいね~~」
俺は学院で勉強をしたかったわけではないので、教官の補佐というのはとても魅力的だった。
学院に紛れ込むことができれば、リディアの動向もよくわかるし、かなり有利だ。
それに第一王子のニコラスはすでに学院を卒業しているが、カレン、第二王子のアルバート、そしてリディアは学院に通うのだ。
定期的に様子を見れる!!
「なぁ、ジーク。できれば強くて頼れる男を派遣してくれよ。俺も強くなれちゃうかもしれないし、稽古をつけてくれたり、学院の仕事はわからないから教えてくれるような人よろしく~~~!!」
ジークは少し考えた後に頷いた。
「稽古に、仕事を教える……なんとか都合をつけるから……感謝しろ」
「ああ!!」
俺はジークの仕事の邪魔をしないように、ジークの執務室を出て行ったのだった。
◇
俺はそれからカレンの部屋に向かった。
「カレン~~お茶しようぜ~~カレンってば~~~」
カレンの部屋をノックし続けると、不機嫌極まりないといった様子のカレンが部屋から出て来た。
「騒々しい殿方ですわね」
俺はカレンを見て言った。
「聖女リディアに会って来た」
「……は?」
カレンは、眉を寄せて怪訝な顔で俺を見ていた。
「ということで、お茶……作戦会議、しない?」
「作戦……会議?」
カレンはそう呟くと片手を額に当てながら言った。
「わかりました」
そう言って俺たちは場所を移動したのだった。
◇
「それで……ここ以外になかったのか?」
ジークが呆れた顔をしながらこちらを見ていたが、俺は華麗にスルーした。長年芸能人をやって思う最強スキル、それはスルースキルだと思う今日この頃だ。
「こんな怪しい殿方と二人きりなどごめんです」
カレンも優雅にお茶を飲みながら言った。
そう、俺たちはジークの執務室の中でお茶をしていた。
懸命に仕事をするジークの横で俺たちは優雅にお茶を飲んでいた。
俺はカレンの言葉に笑いながらツッコミを入れた。
「カレン、怪しいっていうのは失礼だって」
「そんなことより、話とは?」
カレンに急かされて俺は真剣な顔でカレンを見つめた。
「カレン、君は聖女とは関わるな」
カレンはゆっくりと、カップを置くと静かに言った。
「『てっきり仲良くするように』と言われると思っていましたわ」
「そんな無理なことは言わないさ」
「なんですって?」
俺の言葉に、カレンは青筋を立てながら怒りを見せた。
本当は、周囲の画策など無視してカレンと聖女リディアが仲良くなって、円満に第一王子と第二王子の婚約者に収まってくれるのが最高だ。
だが、カレンの性格ではそれは不可能だ。
それなら始めから近付かない方がいい。君主危うきに近寄らずというのは本当にその通りだと思う。
俺は、怒りを見せるカレンに向かって言った。
「そう、それ。あのさ、カレンは小さい頃から王妃教育とか受けてきたエリートかもしれないけどさ、俺やリディアはそんなことは習ってないわけ。一緒にいたら絶対『礼儀知らず』とか言って文句言うだろう?」
カレンははっとして押し黙った。
すると書類から顔を上げてジークが言った。
「確かにそうだな」
「お兄様まで!! でも……否定はしませんわ」
俺は少しだけ落ち着いたカレンを見ながら言った。
「それならば、関わらなければいい。ちなみに俺も学院に潜入する予定だからさ、俺の方でもリディアを見張るからそっちは任せてよ」
するとカレンが青い顔で言った。
「な、そんなにも無作法なあなたが学院に潜入しますの!? ありえませんわ!! 我が学院の品位が落ちます!!」
カレンはそう言うと、立ち上がって俺を見下ろしながら言った。
「仕方ありませんわね……私が無知なあなたに貴族の礼儀作法を教えて差し上げますわ」
あれ……話の流れがおかしな方向に進んだ?
「ああ、いいではないか? 知っておいて損はない」
ジークは頷きながら言った。
「さぁ、いきますわよ。何をしているのです?」
「は? え? 決定事項?」
カレンはニヤリと笑いながら言った。
「聖女には関わらない、というのは聞き入れますわ。確かに無作法者を見るとイライラしますもの。ですので、家の中に無作法者がいるのは我慢できませんわ。あなたを一流の紳士にいたします」
「お、おお。そうですか……」
正直面倒だが、これから貴族が多く通う場所に務めるのに礼儀知らずというのも問題だ。芸能界でも礼儀を知らなかったばかりに実力はあっても消えていった人も多いのだ。
「よろしくお願いします」
俺が礼を言うと、カレンは俺に初めて笑顔を見せてくれた。
「ええ、お任せ下さいませ」
こうして第一王子の婚約者様によるスパルタ貴族指導がスタートした。
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