第6話 そういう理由!?
俺は濡れていたので、裏口からリディアの家に入り、着替えを済ませて店ジークの待つガラスを扱う店に方に向かった。
店内は、白雪姫の継母が『鏡よ、鏡!!』と言っていそうな重厚な鏡や、ランプやガラス細工などが所せましと並んでいた。
「これ、凄い鏡だな……あれは……?」
そして俺は天井からぶら下がっているシャンデリアを見て固まってしまった。
俺は、このシャンデリアを知っていた。
――舞台でワイヤーアクションを使った時に、俺がぶら下がって敵をなぎ倒したシャンデリアにそっくりだ!!
もしかしたら、シャンデリアの形状はどれも似たようなものかのかもしれない。だが、ノード侯爵家にあったシャンデリアはガラスの小さな柱がそれぞれ独立したシャンデリアとは違い、全体的に円形になっていて、持ちやすい形状だった。
このワイヤーアクションが評判を呼び、俺の演じたジークは皆に受け入れられたのだ。
ジークの最期となる戦いに登場するシャンデリアが、まさか『クロスクローバー』のヒロイン、リディアの家の物だったというのはなんとも数奇な運命だ。
俺がシャンデリアを見ていたことに気付いたリディアが笑顔で言った。
「お目が高いですね、あのシャンデリアは近々、王宮に設置される予定なのです」
――知ってる……とは言えなくて、俺は笑顔で答える。
「そうなんだ、凄いね」
俺はこのままリディアと仲を深めるためにあることを思いついた。
「え~と名前は?」
「申し遅れました。私はリディアと申します」
今さらながらに確認したが、やっぱり彼女がリディアで合っていた。
俺はほっとして、リディアに微笑みかけた。
「……世話になったしさ、何かお礼を……」
そこまで言うと、またしてもジークの声が聞こえた。
「いつまでも二人で何をしているんだ!! 遅いぞ」
あいつ……俺の作戦をことごとく邪魔しやがって!!
少しムッとしていると、ジークが俺の背後に立ったまま声を上げた。
「無事に着替えたようだな。服を貸してくれたことに礼を言う。あのままでは風邪を引いていたかもしれないからな」
ジークは俺の背後にぴったりと張り付くように言った。
なんだ? 近いんだが?
俺がジークの距離感に違和感を持っていると、リディアが嬉しそうに言った。
「いえ、とんでもございません。こちらこそ、水をかけてお二人の逢引の邪魔をして申し訳ございませんでした」
「ああ、邪魔……そういえばそうだったな」
どうやらジークの頭の中の辞書には『デリカシー』という文字が印字されていないようだ。
誰か~~この失礼な男の頭に印字してくれ!!
だが、印字されていないなら仕方ない。
この男の辞書はこういう辞書なのだと割り切る必要がある。
「ちょっと、ジーク黙ってて。リディアちゃんごめんな。とにかく俺が飛び出したせいだからお礼させて!! そうだ、また来てもいい?」
次の約束を取り付けようとしていると、リディアが困った顔をしながら言った。
「申し訳ございません。実はこの度、王立学院への入学が決まりまして、明日から学院の寮に入ることになりましたので、もうここには……」
リディアの言葉にジークは眉を寄せた。
「早くないか? 入学式までには20日はあるはずだ」
「私は平民ですので、貴族のご子息様やご息女様にご迷惑をおかけしないように早めに寮に入ってマナーなど基本的なことを学ぶ必要があるのです」
なるほど、どうやら平民には入学前に補講のようなものが用意されているようだ。
学院生活をつつがなく送るためには確かに必要なことかもしれない。
「そっか、じゃあまた。絶対にお礼するからさ」
リディアは嬉しそうに笑って「はい、ありがとうございます」と答えたのだった。
リディアと別れても相変わらず俺の背後にぴったりと張り付いているジークが不気味で思わず声を上げた。
「何? さっきから近いって」
するとジークが困ったように言った。
「……破けている」
「は? 破けてるって……何が……」
ジークが急に俺の尻に触れてきて、思わずおかしな声を上げてしまった。
「あっん……何すんだよ!!」
俺は結構筋肉質なので、スーツなどもあまりストレッチの効かないタイトなパンツは破けることもあるのだ。
「いや、破けていることを伝えたくて……随分と鍛えているのだな……」
尻を直接撫でられて撫でるのを止めるためにジークの手を握った。
「まぁね……って、だからって、尻に直接触るな!! あれ、直接触れられるってことは……下着も?」
「ああ。どちらも破けて、とにかく……って丸見えだ。マントも濡れてしまったし、私のこの服を脱ぐわけにはいかないからな……後ろに立って隠していた」
そういえば、濡れた服はリディアが乾かして侯爵家に届けてくれると言っていたので全て預けてしまった。もちろん濡れたマントも預けた。
「それは……アリガトウゴザイマス……」
リディアの前で晒さなくてよかった。本当に……。
結局俺は馬に乗るまでジークとピッタリとくっついたまま歩いた。
そして俺は、馬に乗り馬の鞍が振動で時折際どい場所に辺り、変な声を出してしまうのを必死で耐えたのだった。
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