第4話 俺、預言者?
カレンを追って食堂を出ると、驚くほど早く彼女を見つけた。
令嬢の鏡なのか、走る速度がかなり遅い。俺はカレンの前に回り込んで、カレンを止めた。
「はい、ストップ!!」
カレンは息を整え、俺を睨みつけながら言った。
「はぁ、はぁ、お退きなさい!!」
俺は、にっこりと笑って「イヤだ」答えた。
「無礼者!!」
カレンが手を上げたので、俺は咄嗟にその手を避けた。するとカレンが勢い余って体勢を崩しそうになったので、俺は「おっと」と言いながら彼女を支えた。
そして俺は、カレンを支えながら言った。
「なぁ、あんた本当に侯爵令嬢なのか? それで社交界で戦えてるわけ? 未来を知るって言う男が現れたんだぜ? しかも、トップシークレットを言い当てるほどの精度。反発するんじゃなくてさ、利用した方がお得じゃない?」
「は? 利用……? お得……?」
カレンはポカンとした間の抜けた顔で俺を見ていた。
「ふふ、自分を利用しろか……」
すると、視界の端でずっと事の成り行きを見物していたジークが口角を上げて笑った。そして俺の近くまで歩いてくると、じっと顔を見ながら言った。
「やはり興味深いな」
そう言って小さく笑うと、今後はカレンの方を見た。
「カレン、ひとまず……レンの話を聞け」
カレンは不機嫌そうに頷いたのだった。
こうして俺たちは重苦しい空気の中、朝食を済ませるとジークの執務室に向かった。
◇
俺がジークを演じた舞台、『クロスクローバー』の内容を簡単に説明する。
第一王子ニコラスは、ノード侯爵家のカレンと婚約していた。カレンの高圧的な態度にニコラスは辟易していた。そんな時、平民から聖女が誕生した。少女の名はリディア。聖女とは癒しの力を持ち国の宝とされていた。
聖女が誕生したことで、第二王子アルバートと聖女リディアの間に婚約の話が持ち上がる。
第一王子と第二王子は腹違いの兄弟で、母親同士はどちらも息子を王にしようと火花を散らしている。
そして第一王子の母親は確実にニコラスを王位に就かせるため、聖女を婚約者にしようと、幼い頃から婚約者に決まっていたカレンとの婚約を破棄させようと画策する。
俺は、ジークとカレンに向かってあっさりと尋ねた。
「ところで、もう聖女は現れた?」
俺の問いかけに二人は固まった。
「聖女なんているはずないでしょう!!」
怒りを露わにしながらカレンが叫んだ。
「あ、まだいないんだ」
「聖女が選ばれるのか?」
ジークが眉間にシワを寄せながら言った。
「うん。名前はリディア。しかも平民」
「平民ですって!?」
カレンが再び大きな声を上げた。だが、カレンがうるさいのはもうどうしようも無さそうなので、俺は淡々と知っていることを伝えた。
「そっ。そして、第二王子と聖女の婚約の話が持ち上がって、第一王子の母親がカレンとの婚約を破棄しようと画策する」
「嘘よ!! ゼノビア様がそんなことをするはずがないわ!!」
カレンは大きな声を上げ真っ赤な顔で怒りを見せているが、一方ジークは眉間にシワを寄せ何かを思案するように黙っていた。
俺は、ジークを見ながら尋ねた。
「嘘だと思う?」
ジークは、視線を俺に向けると相変わらず怖い顔で答えた。
「にわかには信じがたい話だが……もしも聖女が現れたとしたら……その可能性は十分に有り得る」
俺は、ジークとカレンを見ながら真剣な顔で言った。
「信じなくてもいいけど……このままだとカレンは断罪。ジークは暗殺。……ノード侯爵家は没落……俺はさ、君たちを死なせたくないんだ」
カレンが力の抜けた声で呟いた。
「断罪? 暗殺? 没落?」
カレンはふらりと立ち上がり、ジークを見た。
「お兄様……申し訳ございません。少し部屋で休みます」
そう言って立ち上がったので、俺は心配になって同時に立ち上がった。
「部屋まで送ろうか?」
カレンはベルを鳴らすと、俺を睨みながら言った。
「結構です。執事に頼みますので」
そう言って執事と共に執務室を出て行った。
カレンが部屋から出ると、俺はソファに座り込んだ。
ストレートに言い過ぎたか……。
もう少しオブラートに包んだ方がよかっただろうか?
言い方が悪かったかもしれないと反省していると、隣から視線を感じた。
「率直な言葉の方が信憑性がある。私は嫌いじゃない」
そしてジークは目を細めて俺の唇に人差し指で触れた。
「な、何?」
急いで離れると、ジークがはっとしたように言った。
「いや、断罪だの、暗殺だの没落だの、随分と過激な言葉を容赦なく口にするので、石のように固く冷たいのかと思えば……存外温かく……柔らかいのだな」
どうやら、俺の口にした言葉はこんな冷静に見える男に突拍子もない行動をさせてしまうくらい常識外のことだったようだ。
「……悪かったよ」
素直に謝罪すると、ジークが俺を見ながら言った。
「何を言う。悪いことなど何一つない。レンの知る未来を回避するためにも、早急に対策を立てる必要がある。もちろん手伝ってくれるのだろう?」
俺は、こんな絶望的な未来の話をしても、そんな風に言えるジークのことをカッコイイと思ったのだった。
「ああ。手伝うさ、そのために話をしたんだ」
こうして俺は、ジークと共に今後の対策を立てることにした。
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