第57話 幼女、友人の戦いを見守る
風呂以外で、久々にクゥハの素顔を見た。
「やっぱりあんた、ベルゼビュートオカンの生き写しやな」
「それは、『以前から進化していない』という意味ですか?」
「気に障ったんか?」
「いえ。アトキンがワタシをディスるなんてことは、ないと思います。ワタシが勝手に、気にしているだけですね」
クゥハが、二本目の魔剣を手に取る。魔剣の形状は、短めのサーベルだ。素早さに重きをおいた武装に、変えたか? いや。ドリルみたいな形状が、なんともアレな予感がする。ヤギの角っぽいと思ったが、
「ワタシにとって、ベルゼビュートは誇る母であり、超えるべき壁。今のワタシは、ベルゼビュートの娘、アークゥハート。その『タイプ‐Ⅱ』とでも名乗りましょう」
珍しく、クゥハはよくしゃべっていた。いつものクゥハなら、戦闘時はあまり自分を奮い立たせるような言葉を発しない。
しかし、今のクゥハは饒舌だ。
そこまで鼓舞しないと、勝てない相手か。
というか、強敵との出会いがうれしくてたまらない、という印象を受ける。
「お待たせしましたね、ボスさん。参りましょう」
クゥハがボスの方を向いた途端、ボスがグオン、と旋回を始めた。また、自律兵器が来る。
今度はビーム攻撃ではなく、ナイフのような突撃だ。
クゥハは兵器を受け流し、ボスを刺突にかかる。
「なんで、あんな動きができるねん」
ちょこまか動き回る相手に、それを上回る素早さで追いつくとか。ウチの動きをマネて、魔力を推力に変換したのだろう。それでも、すぐにそんな動きができるだろうか?
やはり、クゥハはどこまでも魔物だ。あらゆる面で、人間を上回っている。
ウチがマネをしたら、身体をぶっ壊すだろう。
あれは、魔物という丈夫な肉体を持つからこそ、できるのだ。
刺突によって、ボスがダメージを受ける。
「ええ感じや! その調子でいけクゥハ!」
クゥハもいうなれば、大艦巨砲主義だ。大きな武器で、スキのない攻撃を繰り出せば、確実に獲物を仕留められると信じて疑っていない。
そのクゥハが、自前の戦法を捨てた。
でないと勝てない相手と、わかったらしい。
ボスの触腕が、青白く光る。
「攻撃パターンが変わるで!」
「はい!」
ウチがクゥハにアドバイスをした瞬間、ボスが触腕を振り上げた。斬撃だ。二連続の触腕による斬撃が、クゥハの身体をかすめる。
だが、かすっただけだ。
クゥハは驚くべき体移動によって、ボスの動きを読み切った。
「ワタシの勝ちですね」
斬撃の後の硬直を狙って、クゥハはボスの心臓にドリルレイピアを突き刺す。
ボスもすぐに対応しようとしていたが、クゥハの動きについていけなかった。
「強いな。あんたは」
「いえ、アトキンほどでもありませんね」
それにしても、高山エリアの敵だ。コイツは、何者なのか。どうして、ここまでの強さを持っていながら、テネブライに居座っているのか。
「どうしました?」
「ああ、いよいよもって、テネブライにおる魔物たちの動機がわからんくなってな」
ウチはクゥハと高山ボスの戦いを見ながら、海洋エリアのボスを思い出していた。
どうして海洋エリアのダゴンが、クジラ要塞などという大型船を作ったのか?
ひょっとすると、高山エリアとは対立していて、このエリアをふっとばすために火力を上げていたのでは。
ウチは、その結論に達した。でなければ、あそこまでの武装はポーレリア打倒に必要ない。人型ダゴンを一体送り込むだけで、あっという間に占拠できただろう。ウチさえいなければ。
つまりテネブライの魔物たちは、テネブライの権利を巡って争っている。
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