第56話 幼女、かつてない強敵と出会う(高揚感)

 クゥハとともに、テネブライ【高山エリア】に入る。


「アトキン、あそこじゃないですかね?」


 高山の頂上付近を、クゥハが指さした。

 

 山頂付近で、大量のドローンが壊されているではないか。


「間違いない。偵察用のドローンとわかって、破壊しとるわ」


 ウチはテネブライのあちこちに、偵察ドローンを大量に放していた。こうなることを見越して。「ドローンを放出していれば、いつか知恵のある奴が壊しにかかるだろう」と。 

 その時期が、訪れたというわけだ。


「あれや。あのイカみたいな頭のやつ」


 ドローンを壊した相手は、高山エリアのボスフロアにいた。頭から上半身にかけて、イカだかエイだかのように平べったい。クラゲのような形の透明なドローンが、肩の上にフヨフヨと浮いている。


 それも、二体。


「どうやらあいつは、ツガイみたいですね。アトキン。たまには、ワタシにもボスと戦わせてくださいよ」


 二体いるうちの一体と、クゥハが戦いたいといい出した。


「ええやん。あんたの本気、見してや」


 断る理由はない。なにより、ウチがウチ以外の魔物と戦うクゥハが見たかった。


「ワタシはあなた相手に、手の内を明かさないなんて小細工は、したくありません。最初から全力で行きますね」

 

「よっしゃ。遠慮せんでええで」


 クゥハはこちらに親指を立てた後、ボスのいるエリアに踏み込む。


 ボスが戦闘態勢に入り、クゥハを敵と認識した。


 魔物の肩に浮いていた浮遊兵器が、ひとりでに動き、クゥハに殺到する。あっという間に、クゥハを取り囲む。


 すべての方位に向かって、スキのない攻撃が降ってきた。


 さてクゥハ、どう出る?


 ウチが思考している間に、クゥハは剣を振り回し続けていた。


「あいつ、剣だけで攻撃を全部受け流しおった!?」


 なんてやつだ。動体視力もクソもない。剣速だけで、機動兵器の攻撃を流した。剣で光芒を反射させて、別の個体に当てるという荒業も。


 数を半数に減らした機動兵器が、ボスの元に戻っていった。


「今度は、こちらからです。【ブレイズ・スマッシュ】!」


 クゥハが、衝撃波を貯めた剣を振るう。


 赤黒い剣閃が、ボスに向かって飛んでいった。


 だが、閃光がボスに当たることはない。ひょいとかわされる。


「クゥハ。ウチが邪神ビームに頼らんかった理由が、わかったやろ?」


「今、わかりました」


 クゥハが、不満げに語った。


 いくら最強の技とは言え、確実に敵に当たるとは限らない。リソースの大半を注ぎ込んだ必殺奥義だとしても、命中しなければただのバカでかい衝撃波である。


 肝心なのは、命中精度を上げること。


 そのためにウチは、威力を犠牲にした。少量を、連発できるように改造したのである。


「やはり実戦で経験すると、攻撃を回避されるのは不愉快ですね」


 クゥハが、自分の命とも言うべき魔剣を収めた。


「あなたが、コンパクト重視になるのも、わかります。ですが、大剣でぶった切るファイトスタイルこそ、ワタシのアイデンティティなんですよねぇ。どうしたものか」


「バケモノにはバケモノをぶつけるってのは、フィクションの世界や。リアルで通用するわけやない」


「ですよね。だから、ちょっと自身のスタイルを裏切るとします」


 クゥハは、ヨロイを脱ぎ捨てる。


「自分のこだわりにしがみついた戦略なんて、進化ではありません」

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