第47話 幼女 対 ヒュドラ
ウチは刀を構えて、ヒュドラと立ち会う。
「ん? 武器を持ってないんやったら……」
相手が丸腰とわかり、ウチは武器を置こうとした。
『アトキン先生っ、いくらなんでも意地を張りすぎですよ』
あまりにも舐めプなウチの行為に、カニエが抗議してくる。
『まあまあ。アトキンは、こういう人なんですよ』
クゥハは、ウチのことをわかっているようだ。
一方、ヒュドラはまったく気にしない。壁に掛けてあったサーベルを、念力で自分の手に引き寄せた。鞘を抜くと、渦潮がドリルのように撒き起こる。
「武器は、引っ込めんでええようやな」
ヒュドラが、渦潮ドリルをこちらに伸ばしてきた。
「おっと!」
ウチは真正面で、渦潮に剣戟を叩き込む。
ただの水を、ドリルにして打ち込んでくるか。水圧もここまでくると、かなりの威力だ。
「ええ攻撃やんけ。手が痺れたで」
相手も、遊ぶつもりはない。水で霧を作って姿を消し、距離を詰めてくる。
「ふん!」
ゼロ距離まで詰め寄ってきたヒュドラに、ウチは触手でビンタした。
「見え見えなんじゃ、アホンダラ!」
ウチの触手は、センサーにもなっている。消えていようが視界から攻撃してこようが、瞬時に察知してカウンターを取る。
さすがにウチも、刀の扱いには慣れていない。一番信用できる触手で、抵抗するしかなかった。
それは、相手も同じだ。
からめ手が通じないと悟ったヒュドラは、真正面からの切り合いに持ち込んでくる。
「それでええんじゃ! 魔力の尽きるまで斬り合おうやないか!」
ウチの刀と、ヒュドラのサーベルが火花を散らす。
正直、剣道や剣術の知識がないウチは、どこまでやれるかは心配だった。
しかし、相手も武器の扱いが苦手らしい。
実力は、五分五分といったところ。
子どものチャンバラみたいな感じになってきた。
『もっと懐に飛び込む感じですよ、アトキン』
「ムリじゃ、そんなもん!」
ウチができるのは、せいぜいこの刀を杖代わりに振って、魔法を撃ち出すくらいである。
それは、相手と同じようだ。
「ああ、これがしっくりくるかも」
やはりウチは、骨の髄まで【純魔:純粋な魔法使い】だなと悟る。
だが、その選択肢はうまくいった。
相手は水魔法ばかり。
対するコチラは、反射やバフなど豊富な術で、相手の先手を取る。
どうにか、ヒュドラを負かす。
「ふうううう」
ヒザをついたヒュドラに、ウチは視線を向けた。
「本気を出さんかい」
ヒュドラが、立ち上がる。
「そうやない。さっきからウチを取り囲んでいる、この異常な瘴気。これこそが、ホンマのヒュドラなんやろ? 本当の姿を見せんかい、っちゅうてんねん」
ウチが言い放つと、ヒュドラが海底神殿の床に沈んでいった。
神殿が、激しく揺れ動く。
ウチはフェアリーだけを潜水艇に乗せて、遠くに避難させた。
よし。息はできる。クゥハの言う通りだった。これなら、戦えるだろう。
海底神殿が崩れて、巨大なクジラがその巨体をうねらせた。
クジラの先端には、ヒュドラの胴体がある。
これがヒュドラの、いや、海底神殿の正体だったのか。
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