第46話 妖刀 丹亀尼《タンキニ》

「邪神を語る不届き者メ! 目にもの見せてくれるワ!」


 魚人たちが、三叉の鉾を構えて襲いかかってきた。

 

 さて、妖刀の切れ味を見せてもらおうか。


 赤紫色の鞘から、刃を抜く。

 

 妖刀の長さは、六〇センチくらい。脇差しと打刀の間くらいの尺だ。

 赤土色の魔力が、ずっと刀身の周りで揺らめいている。


「これを、撃ち出せっていうんやな?」


 ウチは思い切って、刀をブン、と振るった。


 スコン、と小気味いい音とともに、魚人の一団が胴体を両断される。


「おおお、これが噂に聞く【遠当て】か。クゥハの攻撃より、スパーンって切れるんやな」


 


 国民的に知られたファンタジーゲームより古い歴史を持つマニア向けダンジョンRPGでは、魔法使いの上位職に【サムライ】が配置されている。魔法も使える前衛職であり、レベルアップは遅いが強い。


 そのゲームを原作とした小説によると、その世界の刀は「体内の気をコントロールして相手に打ち放つ」性質があるという。


「どうして折れやすい刀で、分厚い筋肉を持つモンスター相手に立ち回れるのか」と、若い頃は不思議で仕方がなかった。この小説を読んだ後なら、納得である。



「そらそらそら!」


 魚人たちになにもさせず、ウチは神殿の住人たちを蹂躙した。


『アトキン、どうだ? オレの妖刀は?』


「ええやん。気に入ったで」


『魔力の篭った岩を食う大亀の甲羅を、刀身に混ぜてるんだ。丹色の霊力が、常に帯びているだろ?』


 霊獣の「丹亀タンキ」みたいな設定だな。


「よっしゃ、お前には【妖刀:丹亀尼タンキニ】って名前を付けたろ」


 丹亀は普段はおとなしいが、住処である森を荒らすやつには容赦をしない。


 ウチにうってつけの妖刀じゃないか。


「ほな、家主にあいさつに行こうやないか」


 妖刀を担いで、ボス部屋へ。


 先に進むにつれて、緑色だった壁が段々と青くなっていく。

 気圧に潰されるかと思ったが、そういう気配はない。

 ウチが【ダゴン】で、海底の地の利を活かした戦法は通用しないと思われたか?


「おお、トラップなしかい。ええ心がけやんけ」


 なんの障害もなく、あっさりとボスの場所まで到着してしまった。



「いたいた。あんたがやっぱりボスやねんな」



 ポーレリアの飛空艇を撃ち落とそうとした魔物が、眼の前にいる。

 

「いうとくけど、今日のウチは一味違うで、えっと……」


「ヒュドラ。ダゴンの母といウべき存在」


 またときどき、魔物の声が裏返る。


 この魔物は、ヒュドラというらしい。



「ここは、テネブライの王となルべき存在が眠る場所。もうテネブライには、誰も近づけサせナい」


 ヒュドラも、こちらに殺意を向けてきた。

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