第44話 幼女、潜水艇に乗り込む

 ウチは、ポーレリア城の地下に案内された。


「我が隊の切り札が、こちらです」


「なんやこれ、潜水艦やん!」


 トルネルが見せたのは、潜水艇である。

 飛空艇をめっちゃ小型化したもので、数名しか乗れない。ただ、全体を飛空艇より頑丈な鉄で覆っている。

 これなら、海底の水圧にも耐えられそうだ。


「おお。これなら、海の底にもちゃんと潜れるでっ。おおきに」


「ただ、一つ問題が」


 潜ることはできるのだが、重量の関係で武装がゼロだそう。魚雷なども仕込もうかと思ったらしいが、当たる可能性が低い武装など無意味だと撤去した。


「それがどうしてん? 潜れたらええやん」


 ウチがいうと、トルネルが「そうはいきませんよ」と反論してくる。

 

「あなたが神殿に取り付く前に、もし撃ち落とされたら」


「ダゴンが、そんなヘタレやと思うか? アジトに乗り込んでくるヤツが怖くて、無防備の潜水艇を攻撃するような相手やとは、ウチは思ってへん」


 そんなヤツなら、さっきあの場で撤退なんてしない。捨て身でこちらを殺しに来ただろう。ウチらに攻め込める絶好のチャンスを見逃さず、こちらが丸腰でも平気で攻撃するはずだ。狡猾な相手なら、そうだろう。


 無抵抗の相手を攻撃するようなやつは、もっと波状攻撃で攻め込んでくる。


 こちらがケンカをしに行くといったら、向こうは受けて立つと約束した。

 アイツらにも、プライドがある。

 ウチは、そのプライドに賭けるのみ。


「ウチだけでいく。メフティのゴーレムだけ連れて行こか」


 とはいえ、あくまでも地上との連絡係だ。


「クゥハは一応、置いてくさかい。しっかり見張っててや」


「なぜです? いつもあなたはエリアボスと戦うとき、ワタシだけは連れて行くじゃないですか。今回に限って、お留守番ですか?」


「あんたは、保険や。ウチが海底神殿のボスに勝ったとき、残存勢力が地上を襲ってこないとは限らんねん」

 

 ああいうタイプは、おそらく執念深い。ボスは潔いかもしれないが、手下までそうとは限らないだろう。劣勢になったとき、種の存続をかけるタイプだ。


「テネブライのザコを瞬殺できる戦闘力なんて、あんたしか持ってへん。カニエやメフティ、トルネルの戦闘用飛空艇もがんばるかもしれんけど、一番ウチがあてにしてるんがアンタや、クゥハ」


 それに、とウチは続ける。


「クゥハなしで戦う方が、スリルがあってええやん?」


「あなたは、どこまでも背水の陣が好きなんですね。魔法使いが持つような合理主義的な考えが、あなたには欠如しています」


 褒め言葉として、受け取っておこう。 


「そこまで言われたら、やるしかないですね」


 グオン、とクゥハが大剣を担ぐ。


「ただ、これは持っていってください」


 クゥハが、一本の剣をウチに差し出す。魔剣のようだが、見た目はどうみても日本刀である。


「これは?」


「ベヤムが作った、あなた専用の魔剣です。【妖刀】というそうですよ」

 

 ウチがあつかうなら、同じ妖刀でも【幼刀】というべきか。


「よっしゃ。鬼に金棒。幼女に妖刀や。ほな行ってくるさかい」


 さっそく、ウチは妖刀を腰に下げて、潜水艇に乗り込んだ。

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