第41話 邪神幼女と、王女様

 ウチは上空から、人型のダゴンを見下ろす。

 

「えらいシャッキリした、スマートな体型になったやん? ダイエットしたん?」

 

 眼の前の人型ダゴンは、ヒトデ? みたいなフォルムである。人間と同じサイズで、ウチよりちょっと背が高い。体の線も、やや細め。胸も控えめだ。見ようによっては、スリングショット水着みたいなデザインである。

 今まで襲ってきたダゴンが怪獣なら、コイツは宇宙人というべきか。


 浮遊能力が、切れそうだ。

 

「おっと」


 触手に埋め込んだ魔石によって、重力を制御する。


 ウチは飛べるといっても、自由に空を飛び回れるわけじゃない。「浮遊できる」に近かった。

 それに、地面にいる相手に空から攻撃ってのも、性に合わない。

 相手の土俵に立った上で、完膚なきまでにブチのめす。これがウチの、ファイトスタイルだ。


 だから……。

 


「一旦、帰ったらどないや?」


 コイツが本気だった場合、あのビームっぽい魔法を連発するはずだ。しかし、コイツはそれをしなかった。


 つまり……。


「帰れや。はよう。パワー切れなんやろ?」


 ジリジリと、人型ダゴンは後ずさる。


「お前ンとこのホームで、戦ったるわ。どうせ海の底に、神殿とかあるんやろうが。そこに攻め込んだるから、待っとけや」


 お互い万全な状態で、それでも勝てないと思わせるのだ。それが、ウチのやり方である。


「……こウかイ、させテやる」


 ヒトデ型ダゴンが、言葉を発した。発音が慣れていないのか、時々声が裏返る。


 ズズズ……と、人型のダゴンが海に沈んでいった。

 他の魔物たちも、引き換えしていく。



 同時に、ウチらはポーレリアの兵隊に囲まれた。


「やめよ! 彼女たちに、攻撃の意思はない!」


 王女らしき女性が、兵隊たちに剣を収めるように指示を出す。

 

「ですがミネルヴァ姫様!」


 最年長の兵隊らしき男性が、王女に意見をする。


「じいや、わたくしに、街を守ってくださった英雄を討てというのですか!? 異形であるというだけの理由で!」

 

「……仰せのままに」


 じいやと呼ばれた近衛兵長らしき男性が、騎士たちに剣を収めさせた。


「申し訳ございません、アティ様。ご無礼をお許しを」


 王女風の女性が、ウチの前でひざまずく。


「ええて。気にしてないよってに。よう、ウチがアティってわかったな。バケモンの姿やのに」


「ええ。世間からは邪神と言えど、あなたはこの国を救ってくださった守り神です」


 そんな大層なものでは、ないのだが。


「わたくしは、ポーレリアの第七王女、ミネルヴァ・ストロボッツィ。あなたには……」


 ミネルヴァと名乗った王女が、メガネとベレー帽をかぶる。

 

「トルネルとお呼びしたほうがよろしいですわね」

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