第40話 邪神幼女・ACT2

* * * *


 

 ポーレリアに向かう前のことだ。

 

 ウチはどうしても、自分の肉体の脆さをどうにかできないか考えていた。


 元々のフィジカルを、幼女の肉体のままなんとかしたい。


 身体を鍛えると、腹筋女子なクゥハや、マッチョ幼女なメフティのようになってしまう。

 幼女のプロポーションは、残しておきたい。


 そう考えて、二体分の【ダゴン】の破片を培養していたのである。


 ウチはこれを取り込んで、さらに自分を強化しようと考えたのだ。

 

 手に入れた破片は、ウロコや軟骨のような硬い部分と、目玉の一部である。

 

 うまくいかないかもしれない。最悪、身体を乗っ取られるだろう。

 そうなってもいいように、クゥハには待機してもらっていた。


……介錯役として。


「ここにしよか」

 

 実験場として、【荒野エリア】の奥を選んだ。

 まだ開発が進んでおらず、誰もいない。ここなら、誰にも迷惑がかからないだろう。


「クゥハ。ウチが実験に失敗したら、頼むで」


「はい。友を斬るのは気が引けますが、ダゴンの周到な性格を考えたら、やむを得ないでしょう」


 クゥハが、魔剣を構える。


 準備万端。ウチはダゴンの欠片を持って、カプセルの中に飛び込んだ。


 この生臭い液体の中に入るのは、久しぶりである。


 取り込むのは、腕と背中だ。以前うちがボディに使った個体とは違って、破片はえらく小さい。人間当時にウチが倒した個体よりは、数倍強いのだが。相手も、進化しているのだろう。


 身体になにかが入ってくるのを、感じる。肉体が、書き換えられるかのような錯覚に囚われた。脳みそまで、乗っ取ろうとしてきた。しかも、二体同時に。


「やるやんけ! せやけどな、こっちかて意地があるんじゃ!」


 意志の力で、逆に相手の思考をもぎ取ってやった。


 魔女の力を、舐めるなよ。


「ああああああ! でや、ウチの魔力は! どないじゃ、ボケ!」


 カプセルを破壊して、ウチは外に出た。


「クゥハ、姿見を見して!」


「はいどうぞ」


 クゥハが用意した姿見で、ウチは自分の姿を確認する。


 ツインテールは触手から、髪の毛になっていた。

 代わりに、触手は腰に二本だけ。


「おおおおお?」


 しかも、宙に浮き上がった。腰の触手からトンボのような羽根が展開され、ウチを浮かべている。短い時間だが、飛行能力を手に入れた。


「テンション上がってきたぁ!」

 

 アドレナリンが暴走して、崖や地面を叩きまくる。


 格闘家は試合をする際に、アドレナリンが過剰に分泌されて攻撃的になるという。

 今のウチが、まさにそれだ。


「クゥハ! どないやウチは? おかしいか?」


「はい。十分に」


「ちょっとスパー頼む!」


 ウチは、クゥハに【ファイアボール】を撃ち込む。


 スコン、とクゥハはあっさりとウチの魔法を打ち返した。


「ギャインっ」


 ウチのデコに、打ち返された魔法が跳ね返る。


「スパーをするなら、本気を出しましょうね」


「あーっ、中途半端やって、気づかれたか」


「誰だって気づきますよ」


「いや、勢いだけでスパーしても、発散するだけやろ?」


 冷静にならんと、気づかないことが多い。

 

「頭が冷えたところで、ちゃんとスパーを頼むで」


 クゥハと、本格的な模擬戦闘を始める。


「調子がいいですね」


「ボス戦も、楽になりそうや」



 * * *


 ポーレリアを襲った魔物を、ウチは上空から睨みつける。

 

「これがウチの第二形態、邪神アトキン・ACT2アクトツーや」

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