第39話 海なし国の姫と、邪神幼女

――ポーレリア第七王女視点



「戦況は?」


 ポーレリア大国第七王女:ミネルヴァは、魔導飛空艇の司令席で戦局を尋ねる。


「【テネブライ:海洋エリア】からのモンスターは、海洋地帯で食い止められています」


「ありがとう。引き続き、警戒を怠るな。相手はテネブライからの魔物だ。しぶといぞ」


「はっ」


 配下が、持ち場につく。

 

 この飛空艇は、父のために作った。


 王が父の代に移ってから、ポーレリアはテネブライからの魔物を戦ってきたという。

 約五年ほど、戦闘が続いている。

 これまで、テネブライから魔物たちが来ることなんてなかったのに。

 なんらかのきっかけで、テネブライが活性化した可能性がある。


 ミネルヴァがテネブライに取材班を送り込んだのも、テネブライのモンスターを打倒できる要素を探すためだった。


 しかし相手は、ダークエルフの力を借りていたらしい。


 ならば、マネなどできぬ。


 魔族ダークエルフのちからを持ってすれば、テネブライの瘴気を気にせず動き回れる。


 それにしても、あの騎士は何者なのか。


 いくらダークエルフと言えど、強すぎる。


 下で戦っている様子を、飛空艇からうかがってみたが、ダークエルフは大型のダゴンも、たった一太刀で倒していた。

 これならば、アティなる実業家がテネブライを開拓できたのもうなずける。


 それにしても、彼女をどうやって取り込んだのか。食料の提供で動くとは、とても思えないが。


 とにかく、今は、魔導飛空艇だ。これで当分、テネブライから魔物を食い止められるはず。

 

 魔導飛空艇がある限り、テネブライの好きにはさせない。


「前方に、高熱源反応! 膨大な魔力が収束して、こちらに照準を合わせています!」


 第七王女は、窓の下を覗き込む。


 髪の長い女型の魔物が、こちらに手をかざしている。飛空艇の演算装置は、あれのパターンを【ダゴン:亜種】と表記した。

 

 血の色をした光芒が、コチラに向かってくる。


 

「回避しなさい!」


「ダメです。間に合いません!」

 


 このままでは……。


 だが、直前で何者かの手によって止まった。


(なんだ、あの小さくてかわいい生き物は!?)



 幼い半裸の女性が手をかざして、障壁を作ったのである。


 そのおかげで、こちらは助かったようだ。


 王都で、聞いたことがある。


 テネブライには、守り神がいると。

 異形の神が、テネブライを見守っているという。


 邪神をかたどった木彫りの像が、王都で法外な値段で売られていた。ミネルヴァはどうにか手に入れたが。


 今、その幼女が目の前にいる。


 だが、少し違う点が一つ。


 彼女は、空を飛んでいた。姿形も、微妙に違う。トンボのような透明な羽を付けて、パタパタと浮かんでいた。

 

「あれが、噂に聞く、テネブライの邪神……」


 邪神がこちらを助けてくれたのは、紛れもない事実である。

 

「あんたは、そこで見といたらええわ! 下がっとき、トルネル!」

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