第37話 幼女、仕事の流儀

 飛空艇を使って、ポーレリアの街へ。


「おはようございます、アティさん。ようこそ、ポーレリアへ。はるばるお疲れさまでした」


 なんと、停留所にトルネルが現れた。


「ウチがポーレリアを見に来たって、なんでアンタにわかったん?」


「先日、セルバンデス王国の飛空艇が、こちらに見えたので」


 近い内に、またやって来るだろうと踏んでいたとか。


「ポーレリアはあまり諸外国と交流しない国ですから、外国の馬車や飛空艇は、珍しいんですよ。特にポーレリアは『海なしの国』なので、セルバンデスが開発した飛空艇には、助かっています」


 飛空艇は、海がない国と交流するために開発した。


 広い大陸だと、海に面していない国もたくさんある。

 

 そのため、航空技術の開発が急がれた。


 天空の城に住む魔王を倒したのも、空の安全を確保するためである。

 ウチは飛空艇の技術を、惜しげもなく各国に提供した。独占すると、軍事利用を疑われるからである。


「ポーレリアにも、海があるやん……っていっても、テネブライの【内海】エリアやったな」


「そうなんですよ。そこを攻略しない限り、我が国に海は」


 なるほど。


(ウチを取材したんも、不便な【テネブライ:内海エリア】の攻略を急いでいるんかも知れへん)


「ですが、先日のアティさんへの取材は、我が国の事情とは関係ありません」


 

(ないんかいっ)

 


「かわいい領主が、テネブライに滞在しているというので、お話がしたいと」


「それは、おおきに」


 ここは、喜ぶところなのか?

 

「まあ、テネブライの【海洋エリア】からやって来る敵の襲撃に困っていることは、事実です」


「ふむふむ」


 どうも海洋エリアのボスは、かなりアグレッシブな性格のようだ。


「その事情も込みで、今日はウチらがポーレリアを観光したいんやけどな」


「どうぞどうぞ」



「ムム!」


 クゥハがさっそく、屋台に飛び出していった。


「アトキン先生! これって!」


 屋台の隅っこのほうで、新聞というかフリーペーパーが置かれていた。


「見てください、アトキン! おいしそうな焼きとうもろこしが、網焼きで売っています!」  

 

「いや。あんたが驚くところ、そこか?」


 色気より食い気かい、と。


「かってー。アトキン」


「はいよー」


 ウチは、子どもには甘い。メフティからおねだりされたので、焼きとうもろこしを人数分いただくとする。


「私の分まで、ごちそうさまです。ありがとうございます」


「気にせんでええよ、トルネル。観光させてもらうんやさかい」


 どうやら、「商品を買ったら、一枚ペーパーをもらえる」システムのようだ。


「『幼き実業家・仕事の流儀』ですって。大げさですね、先生」


「せやな。ケツの穴がかゆくなってきたで」

 

 ウチの内容も、しっかり掲載している。「テネブライを攻略成功した英雄!」としてではない。「王都と協力して、テネブライ開拓を命がけで進める幼き実業家!」とあった。


「たしかに、これは驚くかもしれへん」


 トルネルが勤める編集社は、存在していなかったはずなのに。


「急遽、作ったということでしょうか? 我々に悟られないように」


「それにしては、手を回すのが早すぎへん?」

 

「もし、あなたへの取材が、国家プロジェクトだったとしたら……」

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